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34 EX 次代の神 3

100話目到達!!


皆様の応援がありまして目標である百日連続投稿できました!!

まだまだ頑張りますのでよろしくお願いいたします!

 

 いつもなら騒がしいはずの神々が居座る雲の上の庭園。


 中心にある石の盤面の四方にはいつも通り神々が座っているが。


「「「「・・・・・」」」」


 四柱とも一心に本を読んでいた。


 正確には、南の神、知恵の女神ケフェリが持ち込んだ異世界の漫画を読んでいる。


 表紙をリベルタが見れば、どの神がどんな内容を見ているかが一目瞭然。


 時折、ちらりと視線を外して盤面を見るがすぐに各々読む漫画に視界を戻す。


 世界の運営は怠っていないが、それ以外のリソースを漫画に割いている。


「南の、次」

「そこに置いてある、勝手に持っていけ」


 北の神、アカムが読み終わり次の巻を求めるが、ケフェリは見向きもせず漫画置き場として用意した本棚を指摘した。


 前まではこんなものはなかった。


 だが、決闘の神、メーテルに一種類の漫画を勧めてから暇をつぶせる書物としてこの空間に異世界の漫画というブームが生み出された。


 いま、アカムが読んでいるのは地下格闘場最年少チャンピオンの子供とその親の格闘漫画だ。


 というよりも、アカムのここ最近の好みはこういった格闘系漫画に偏っている。


「ケフェリ、この作品の続きはいったいいつ出るのですか?」

「作者の体調次第だ。気長に待て」


 そういう意味では、メーテルも似たような作品を好む。

 最初に読ませたのが、某有名な竜玉の物語なのだから仕方ないのだが、同じ雑誌の系列が好みになったのだ。


 今、メーテルの手に持たれているのは連載と休載を繰り返す有名漫画だ。


「くっ、その世界に干渉できるのならエリクサーを送りますのに」

「秘薬を送り付けるとは、決闘の女神もそうとう嵌りましたな」

「東の、あなたも手元の状態を見てから私に物を言いなさい」

「仕方ないのである。この物語が吾輩の手を離さないのですぞ」


 すでに四周目という嵌りよう。

 そんな女神の姿を見て、小太りの東の神、ゴルドスは苦笑気味に笑うのであったが、メーテルの言う通り彼の神の手元にも同じように漫画が積みあがっている。


 彼が今読んでいるのは、狼の少女と行商人の物語。

 商売の神だからそういう系統に行くのかと思いきや、他にもバトル系、日常系、ホラー系、コメディと雑食と言えるほど様々なジャンルを読み漁っているが。


「私が見逃すとでも?ずいぶんと似通ったヒロインが多いですね。茶髪にロングヘアーに主人公をからかうのが好きな女の子」

「べ、べつにそういうわけじゃありませんぞ!!たまたま物語に出てくるヒロインがそういう感じになっているだけですぞ!?」

「はいはい、語るに落ちるとはこのことを言うのですね。大丈夫ですか?そんなに夢中になって世界の運営に支障をきたしたらそれこそ問題ですよ」

「問題ないのである。さすがにそこに手抜かりはないのである」


 ヒロインに偏りがあることをメーテルに指摘されて慌てふためく。

 そこまで慌てるほど夢中になっていることにあきれ顔になった女神は、世界の管理に支障が出ていないか心配になるが、そこは神である。


 物語に夢中になっていたとしても、世界管理のリソースはしっかりと確保していてトラブルにも問題なく対処できている。


「むしろ、そちらの方は問題ないのであるか?いろいろな場所にちょっかいをかけているようであるが」

「あ、それ僕も言いたい。こっちにちょっかいかけるの止めてくれない?結構うざいんだけど」


 しかし、そのトラブルもあくまで世界の運営に関するシステム管理だけ。

 システムを妨害するような輩に対して天罰を下し、システムの運営が正常に行われるように目を光らせる。


 それ以外の、そう、神々が用意した英雄たちの影響は不干渉なのだ。


「・・・・・さて、今度はこちらの書物を読みますか」

「誤魔化したね」

「誤魔化したのである」


 現在暴走中なのは、西の大陸の英雄。

 正義の旗を掲げ、世界に平和をもたらすと宣言し、英雄像としては正しい行動をとっているが、些か思想が偏り、暴走し始めている。


 それを止めるための反対勢力もいるが、英雄の語る耳に心地の良い言葉はスルリと相手の心の中に入り込む。


 徐々に勢力が弱くなる反対勢力が劣勢、英雄を押さえている留め金が徐々に緩んでいるのだ。


 それゆえに、行動が積極的になっている。


 メーテルもこれには危機感を覚えて、実は隠れて、一回だけ神託を下している。


 神官のそれも影響力も発言力もある一人の聖女に、英雄が暴走し始めている、それを止め、導くようにと指示を出している。


 種は撒かれたが、それが実を結ぶのには時間がかかる。


 それを知っている彼女は、少し現実逃避も兼ねて黄色いタコが教師をやる漫画を手に取った。


「……」


 そんなやり取りを、知恵の女神ケフェリは同じく漫画を読みつつも聞き耳を立てていた。

 そしてちらりと盤上を見れば、南の大陸に降ろした自身の英雄の活動に変化が出始めているのに気付く。


 活発に動き、力をつけていたはずなのに、周囲の影響を受けての活動の自粛、そして停滞し始めている。


 ここでの時間のロスはケフェリからしてもあまりよろしくないと思っている。


 だが、ここで神託を出そうにもちょうどいい人材がいない。


 知恵の女神を信仰する人物は、学ぶ場に多い。

 研究者もそうだ。


 だから、そういう系統の人材はまとまった場所にいることが多い。


「ん?」

「どうかしましたケフェリ」

「……」

「さっき反応したよね?」

「うむ、したのである」


 どうしたものかと考えつつ、物語を読み進め、そして盤面を確認するというタスクを行っていたがゆえに、盤面での変化に反応してしまった。


「南の方で何か変化がありましたか?」

「西の方から流れてきた冒険者が暴れてるくらいだ」

「うむ、それくらいであるな」

「そういうのは良いですよ。その程度でケフェリが反応するわけないじゃないですか」

「それもそうだね」

「うむ、となるといったい何が」


 一人の少年が、一人の大人の女性に戦いを挑んでいる。

 その流れ自体は変化しているということで良いことだが、ここから先に起こることをこの三柱に見られるのはいただけない。


「むー、何もないよ」

「ないであるな」

「いったい何に反応したのか?」


 不幸中の幸いなのは、少年と女性が一旦別れたことによって時間に猶予が生まれたことくらいだろうか。


 ケフェリがわずかにできたこの時間で何かできることがあるかと思考を巡らすが、自身の行動から、何も反応しないことが一番であると導かれてしまい、それ以外は逆効果だという結論に至ってしまった。


 自分で蒔いた種ゆえに、歯がゆくとも、今読んでいる青いゴーレムと眼鏡の少年の物語に集中するしかないのかとケフェリは決断を下す。


 じろじろと盤面を見下ろす三柱。


 しかし、一向に目につくものがなく。


「あれ、この子がこんなところにいるなんて珍しい」

「アカム、珍しいとは?」


 このままいけば発見されることはないかと思っていたが、少年ではなく女性の方をアカムが発見してしまった。


「うん、この子僕のことを信仰している人の中でも強い人間なんだよ。普段は中央にいることが多いんだよね。他の大陸に行ったとしても強者の元に行って修行するみたいな感じで旅をしているから南の大陸の王都にいるなんて珍しいんだよ」


 それもそのはず、神であっても己を信仰する人間の中に、一人や二人印象に残っている存在はいる。


 それがアカムにとってのクローディアだった。


「名前は確か、そう!クローディア!この漫画みたいに拳でモンスターたちをぼっこぼこにするから結構気に入ってるんだ!」

「あなたがそこまで言うなら相当の実力者なのでしょうね。英雄よりも強いのでしょうか?」

「今はね。将来的には超えられるだろうけど、僕の中で力を与える候補に挙がってた人だ。人間の中では間違いなく強いよ」

「ふむ、候補者であったか。なんで選定から外れたのである?」

「この子、僕のことは祈って敬ってくれるんだけど、施しは受けないっていうタイプでね。何か下さいって祈りは一回も聞いたことがないんだよ。だいたいはこういうことをします。見ててください!!って感じでね。僕が力を授けようとしても拒否しそうだったから候補から外したんだよ」


 一旦注目が集まってしまえばそこまでだ。


 アカムが自慢するようにその女性の説明を始めてしまい。

 メーテルとゴルドスが興味を持ってしまった。


 英雄候補。

 神々の中でも力を与える人材は選定するのに迷う。


 だからこそ複数人を選び、その中から選りすぐりを探すのだ。


 アカムにとって能力面では問題なかったが、性格上無理だったということで英雄にならなかった女性。


「北の。すなわち英雄になれたかもしれないほどの女性ということで間違いないのであるな?」

「ああ、東の。この僕が見定め、候補に入れたんだ。実力は確かさ」

「では、北のに聞きますが、その女性に子供が挑もうとしていますがどう思います?」

「すっごいバカが来たと思いたいところだけど」


 その女性に槍を片手に挑もうとしている一人の少年。

 実力差的に見れば、戦いを司る神からすれば無謀を通り越して愚かと評価を下しそうになったが。


「もしかすると、もしかするかもよ?」


 知恵の女神ケフェリが反応したことが、気になりその判断を保留してしまった。

 戦いを司る神として、戦いの行く末に反応した。


「あなたがそういうのですか」

「西の、お主はどう思う?」

「不思議と、無謀とは思えないのですよね」

「ほうほう、そうなると当たりなのかもしれんの。なぁ、南の」


 そして決闘の女神メーテルも、この戦いは愚かでないと判断したのだ。

 ゴルドスは何かあると踏んで、沈黙を維持していた女神に視線を向けると。


「好きに判断しろ」


 諦め気味に、もうすでに答えを言ったようなものだという答えを返したケフェリはこの後の展開を予想して本の世界に戻っていく。


「うわ、ナニこれ」

「これはもしや」

「やっているのである。間違いなくやっているのであるこれは」


 そしてその言葉に従って、三柱は子供と女性の戦いを見届けたのであるが。


 どう見ても子供ができる戦闘能力を逸脱している。


『普通』にレベルを上げていた状態では決して抗うことができないほど女性と実力差があるはずなのに。


 結果は神々の目からして惜しいと言わしめる戦いだった。


「ケフェリ、あなたもしや」

「反則行為には抵触していない。私は何も教えていない」

「じゃあ、なんでこの子供はこの世界のシステムを知っているんだよ!これは間違いなく主神が設定したシステムだ!!僕らには〝教えられない”未知の領域。それを人間が知るはずがない!」

「言っただろう。私は箱庭を与えただけだと」


 想定レベルから逸脱した強さ。

 その強さの理由の根源を察したアカムはケフェリが反則行為をしたと言うが、していたらこの事実が判明した段階でケフェリに罰が下り主神の座は永遠に手に入らなくなるはず。


 だが、本を閉じ不敵に笑ったケフェリは今もなおその席に座り続けている。


「箱庭、まさか!?」

「ゴルドス何か気づいたのか?」

「これです!これですぞ!!まさか、ケフェリ。おぬしまさか予算を使って」

「ああ、そうさ正解だ」


 そのケフェリの行為に気づいたゴルドスは読み漁っていた漫画の中から一つの漫画を取り出す。


 それはゲームの世界に閉じ込められデスゲームに強制的に参加させられるという物語。


「私はこの世界を体験できるようにした。ゲームという画期的な手段を持っている地球という異世界にコンタクトを取ってな。おかげで予算はかつかつ、転生させるための許可を向こうの神から取るために誰かを選ぶ余裕もなかった。だから付けた条件はただ一つ、箱庭の経験者であることだけだ。だからこそ、こっち側の世界で用意できる物が何もない状態でのスタートになってしまった。地位も、財も、力も何もない。最低最弱の状態でのスタートだ」


 予想され、そして調べればわかってしまうことだからこそ、ケフェリは隠すことを止めた。


「そんなもの許可が下りるわけが」

「下りたぞ?あっさりとな。相応の対価はかかったが、それを支払う価値があると思ったから私は迷わず払い、この戦いに挑んだわけだ」


 ゴルドス神の予想に、ケフェリはニヤリと笑って正解だと言い放つ。


「地球という異世界の住人は優秀な人材ばかりだった。命の危機のない娯楽と知れば夢中となり、その箱庭の世界の真理を解明しようと躍起になる。彼らにとって空想の世界だからこそ、この世界の住人にない常識はずれな行動もやってのける。そして惜しみもなく情報を拡げられる環境が整っている。そしてその情報をもとに新たな情報を生み出す。ああ、知恵の女神として盛大に祝福してやりたいくらいだったよ」


 時間稼ぎはここまで。


「おかげで私もこの世界についての情報は今まで以上に収集できた。ある意味ではこれだけでも参加した意味があったかもしれないな」


 ここから先は逃げることも隠れることもできない。


「本当はこの漫画を使って、もう少し意識を逸らして時間を稼ぐつもりだったが、まぁここまで稼げればいい方か」


 正真正銘、ここから勝負が始まる。


 それを悟ってひらひらと振るった漫画を手に取ってケフェリは。


「というわけで、時間稼ぎは終わった。この漫画は回収させてもらう」

「「「それに関してはちょっと待とうか」」」


 三柱から片づけを止められるのであった。




今話で今章は終わりになります。

次回から新章突入します!


楽しんでいただけましたでしょうか?


楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。

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ゴルドスはそっちいったかー ハイパーインフレーションとか行くかと思ったけどw
夢中で読んでる漫画を途中で取り上げようとするのは酷いwww
餓死寸前の孤児スタートだったのはリソースが足りなかったからなのか。しかもプレイヤーの中からランダムに呼び出したのが主人公だったのは、大当たりを引いたな。
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