10 狸の皮算用
祝!総合評価1000pt突破!!
こんなに早く突破できるとは思ってませんでした!!
ありがとうございます!!
泣いている女の子を見て、面倒くさいと決して思ってはいけないと、昔おふくろに口酸っぱく言われたなぁ。
咄嗟に思い出したのが、そんな記憶だったからか。
「どうした、ネル」
見た目はともかく精神的に年下の女の子に泣かれているからか、ついつい俺の心は心配と何があったかと原因を探る思考に傾いてしまう。
今日の成果がしょぼかったと落ち込んでいる自分よりも、ひとまずは泣いているネルだ。
「りべるたぁ!!」
「おっと」
心配して駆け寄ると、かろうじてこの体で受け止められる勢いで飛びついてきた。
そのあとは言葉にならず、何かを必死に伝えようとしてくれるけど、胸に顔を押し付けたくぐもった声では解読不可能というくらいに意味不明な言葉しか俺の耳には届かない。
「それが、わかんないのよね。帰ってからずっとこの調子で、家に入れようにも君を待つって聞かなくて、ずっとここで泣いているの」
無言で、何事かとテレサさんに助けを求めてみれば彼女も彼女で困ったようにほほに手を当てて困り顔。
事情を知らないとなると、しばらくはこのままなんだろうな。
「どうしたぁ?誰かにいじめられたか?」
だけど、さすがに何もしないというわけにもいかないので、そっと右手で背中を優しく叩き、左手でさらさらしたネルの髪を撫でる。
「……うん」
しばらく落ち着かせて、ようやく何が原因かの糸口がつかめた。
「そうか、つらかったな」
誰かにいじめられたと、そうネルが認識しているのならそう認識せざるを得ないことが起きたんだろう。
実際、この年齢くらいだと心にない言葉を平気で言う連中は大勢いる。
子供のころ、俺もそうやって泣かされたものだ。
そういう時はお袋とかが、こうやって慰めてくれた。
「うん」
「何がつらかったか、俺に教えてくれるか?」
「うん」
ちょっとずつ、心が落ち着いてきている。
俺の質問に、少し遅れて、うなずいたり、首を振って違うと意志を示してくれる。
「ダッセが」
「だっせ?」
「ああ、近所の兵士の息子だよ。いっつも棒を振り回しているここら辺では有名な悪ガキさ。ここら辺の治安維持隊の隊長さんだからって、父親の方も私ら商人を見下している嫌な奴さ」
聞き覚えのない名前。
ゲームのネームドキャラではいなかった。
ならば、モブの中でも印象に残らないようなキャラだろう。
テレサさんが、困り顔から少し苛立ちつつあいつかと口ずさんで、正体を教えてくれる。
「それで、そいつがどうしたんだ?」
「私が冒険に行くって、アミナと一緒に話してたらいきなり割り込んできて、私の冒険のことバカにしてきたの。最初は無視してた。だけど、だけどぉ」
そしてまた知らぬ、アミナという名の子と一緒に最初は楽しく俺と出かけるこのことを話していたんだろう、そこにダッセという男の子がちょっかいをかけてきて、ネルがショックを受けるようなことを言ってしまったと。
「うん、つらかったな」
おそらくモチ狩りに行くと言って、それをバカにしてきたんだろうな。
FBO公認でモチでレベルを上げると弱者という称号がもらえるくらいにモチが弱い。
それをしに冒険すると言ったら、良いか悪いかで判断すれば悪いことだけど、軽い気持ちでバカにすることくらいはするだろう。
子供にとって、その軽い気持ちが時には鋭利な刃で切りつけられるよりもつらかったりする。
「……あいつ、商人をバカにした。商人は弱いって、誰かに守られて金勘定するしか能のない奴だって、女の私に絶対に夢なんか叶わないって、ぼろい店だって、絶対に潰れるって」
「そいつは……ダメだな」
ああ、ダッセというのはどうやら踏み込んではいけない線引きを越えたようだ。
人の夢をバカにすることは絶対にしてはいけない。
それは子供でも理解しないといけないことだ。
怒りと悲しみが混じった、泣き声のネルをぎゅっと抱きしめる。
「よし分かった!!俺がネルが立派な商人になれることを証明してやる!!」
そして、俺からしてもダッセの言葉はNGだ。
「ほんと?」
「ああ、ほんとうさ!!レベルなんかなくてもネルが立派な商人になれることは証明できる!!」
FBOプレイヤーを経験しているのなら、商人が弱いなんて口が裂けても言えない。
なにせ奴らは、廃人プレイヤーの中の商人達は。
「俺は知っているんだ!商人っていうのは、冒険者の中でも最強の一角なんだぜ!!」
頭がおかしいと言われるくらいにアタックレコードホルダーの温床なんだからな。
不安そうに見上げてくるネルに向かって、俺はニカっと笑って、予定を放り投げて今後するべきことを考える。
「楽しみにしておけよ!!すっごいこと見せてやる!!」
「うん!!」
俺の自信満々の態度に、泣く子も笑ってくれる。
「そうと決まれば、店主さんのところに行って相談だ!!」
「おー!!」
最初の難関は今回のスポンサーである店主さんの説得だが、それは俺のプレゼンとネルの泣き落としでどうにかしよう。
そして、決戦の日は来た。
と言っても、俺はいつも通り早起きして身支度するだけ。
「リベルタ!!」
そして、本命のお嬢様も気合十分。
普段着じゃなくて、外に出て危なくないように丈夫な服に着替え、靴も頑丈そうなもの。皮の帽子に手袋、そして腰には護身用の短剣。
うん、店主さんの過保護っぷりがわかるくらいに俺よりもいい装備を身に着けての登場だ。
「よし!寝坊してないな!!」
「当然!!」
俺の激励が効いてか、それとも一晩寝れば立て直すのか元気に胸を張っている。
「おはよう、リベルタ君。今日は娘を頼むよ」
「おはようございます」
そして今日はテレサさんだけではなく、店主さんも一緒だ。
「おーい、ジンク来たぜぇ」
朝の挨拶をして、この後の予定を確認するかというタイミングで裏庭の入り口から男の声が聞こえる。
「おいおい、デント。娘が驚くじゃないか」
突然の声でビクッと驚いて俺の背中にネルが隠れたのを見て、店主さんがデントと呼ぶ男に向けて苦言を呈してくれる。
「悪い悪い」
悪びれることもなく、裏庭に入ってくるのは少し老けた男性。
白髪交じりの髪を後ろでまとめて、背丈は少し低めだけど、小人族ってわけではなさそう。
「この二人かい?今日の護衛対象っていうのは」
「ああ、そうさ。昔なじみの君の実力なら目的地でも安全だと思ってね」
体が引き締まっていて、細身でも頼りないとは思わない。
背中に背負っている弓矢も使い込まれているけど、ぼろいとは思わない。
気軽に話しているところで指を見るけど、かなりごつごつしている。
相当指を使い込んでいる証拠だ。
「わざわざCランクの俺を丘への護衛につけるなんてお前さん、こんな依頼Fランクのガキどもでもできるだろうに。いつからそんなに稼ぎが良くなったんだい?」
「コツコツと貯めこんでいる成果さ。そう何度もできるわけじゃないよ。それに大事な娘を預けるんだ。君を信用しての指名だよ?」
これなら安心して、守ってくれそうだ。
「わかってるって、そこら辺は冒険者も商人も変わらないね、信用第一。じゃないとおまんま食いそびれちまう」
「それをわかっている冒険者が最近じゃ少なくなってねぇ」
「店主さん、店主さん」
信用できるのなら、この話も進めないと。
「おっと、そうだったね。デント、子供たちが待ちきれないようでね。早速だが頼めるかい?」
「わかってるよ、言われた通り馬も借りてある。夕方までには返すさ」
「頼むよ」
店主さんにお願いしたのは馬のレンタル。
子供の足と馬の脚では、移動力が段違いに差がつく。
朝早くに馬に乗ることができればかなり時間を短縮できる。
ならば、丘の向こう側にも少しだけ足を踏み込むこともできる。
「それじゃ、嬢ちゃんと小僧、馬に乗るぞ」
「う、うん」
「はい」
デントさんが道端に結んでいた手綱を解いて、一頭の栗色の毛並みの馬を連れてくる。
子供の体からすれば、それは山のように大きな存在。
ネルは怯えるが、何とか頷き返し、俺はどうやって乗るんだと思っていると、デントさんは俺の脇に手を入れて。
「まずは小僧からだ」
「おわ!?」
あっさりと鞍の上に乗せられる。
子供でも十数キロの体重があるはずなのにあっさりと持ち上がった。
これがレベルの恩恵か。
「次は嬢ちゃんだ。小僧、嬢ちゃんを落とすなよ」
そして次のネルもあっさりと持ち上げて俺の前に乗せた。
初めて乗る馬にびっくりして、鞍の前に付いている突起に掴まるネルの腰を押さえる。
「よしよし、小僧そのままだ。よっと」
そして最後にデントが身軽に飛び乗り騎乗すると。
「ネル、これお弁当。あっちで食べなさい。デントさんの分も入っているのでよかったら」
「そいつは助かりますね。さすがに干し肉だけじゃ割に合わん」
テレサさんからお弁当をネルが受け取る。
「それじゃ出発するぞ」
「行ってきます!!」
「気をつけてな」
「楽しんできな!」
「うん!」
ネルの挨拶を皮切りに、最初はゆっくりと馬は進み始める。
「動いた!!」
「そうだな」
「そりゃ動くだろ」
初めて馬に乗ったのか、ネルは楽し気に振り向くが、バランスを崩さないように腰を掴んでいるのでちょっとひやひやものだ。
FBOではいろいろな騎獣に乗っている経験があるから、なんとなく馬の乗り方というのがわかる。
だからこそ、こうやってネルみたいに素直に喜べないんだけど。
「リベルタ!高いね!!」
「うん、高いな」
「遠くまで見えるよ!!」
「そうだな」
こうやって笑ってくれているだけで、連れ出して良かったなと思う。
そうやって南門まで行く道中も、馬に乗っているからか見える視点が変わって楽しんでいる。
「止まれ!」
「はいよっと」
そして門番に止められてデントさんが依頼書を見せて正式な依頼だと兵士に説明している最中。
「げ」
ネルが女の子が出してはいけない声を出した。
何事かと思って、ネルの見ている方を見れば、悔しそうにネルを睨んでいる……いや、俺の方を睨んでいる?腹が膨らんでいる少し体の大きい子供がいた。
「よし!行っていいぞ」
「どうも」
「べーーー!」
あれが件のダッセ何某なんだろうな。
相当嫌いなのか、あっかんべーとやっているネルにデントさんは何事かという目で彼女を見ている。
兵士さんも自分に向けられていないのはわかっていて、思わず振り返ってしまっている。
「こら、はしたないから止めなさい」
「はーい」
ちょっと反撃しようと思っていた程度だからか、俺がたしなめれば最後に鼻で笑ってから前を向いた。
おまけにネルが俺に笑顔を向けている所為か、最後のダッセ何某の表情はかなり歪んでいた。
たぶんだけど、あれって悔しがっているんじゃなくて好きな女の子の隣にいる男の俺に向けてふざけるなと怒っているんだよな?
それをネルは、悔しがっていると思っているようで。
あっかんべーの効果を実感して満足気に門の外の景色を楽しんでいる様子。
俺が困っている顔など俺がたしなめた内容に困っている程度にしか思っていない。
「小僧も大変だな」
「そうでもないですよ」
この場の大人であるデントさんにはそのやり取りはお見通しのようで、つい同情されたが、この程度なら今までのドロップ率の不運に比べれば苦労とカウントするのも烏滸がましい。
森や平原、空を飛ぶ鳥に興奮するネルの笑顔を見れればプライスレス。
ただ。
「おしりが痛いわ」
「ですよねぇ」
馬に乗って一時間弱。
馬の乗り心地というのはお世辞にもいいものではない。
「小僧や、嬢ちゃんも鍛えれば平気になる」
レベルをまだ得ていない子供の俺たちからすれば、その一時間でも下半身にダメージを負う。
乗り慣れている俺でさえ、少し痛いのだ。
はしゃぎまわってバランスというのをあまり気にしていないネルにとって、降ろされて腰辺りをさするのは仕方ない。
ちなみにネルさんや、恨みがましそうに馬を見ても彼?彼女?には何の罪もないよ。
「それで、ここまで連れてきたがこのままモチを倒してレベル上げするのか?」
馬はひとまず、そこら辺の樹に手綱を結び、近くの草を食べてもらいつつ持ってきた桶で水を汲んでおけばひとまずは大丈夫のようで、デントさんが今後の予定を聞いてくる。
「いえ、自分は諸事情によりレベル上げはしません」
腕につけた装備「修練の腕輪」を装備し続ける限り、レベルは一切上がらない。
しかもこれは一度装備したら二十四時間は外れない代物。
「じゃぁ、嬢ちゃん……いや、嬢ちゃんもつけてるってことは何をするつもりなんだ?」
それを知っているデントさんは、ここには安全にレベルを上げる目的以外に価値を知らないのでいったい何のためにここに来たのかと首をかしげる。
「ちょっと、狸を狩りたいんです」
そんな彼に向けて笑顔を向けてやりたいことを俺は宣言するのであった。
読んでいただきありがとうございます。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




