人の才
人はなぜこんなにも多様なのだろうか。男女だけでは当然のように仕切りは効かない。草食系、肉食系、ヴィーガン、右翼、左翼、LGBTQから性的嗜好までさまざまな仕切りがこの世の中には用意されているわけだが、人を最も分ち、他と分類し得るのは、その才である。才こそがその人間が生まれてきた意味を示し、これからの生き方、死に方下手すればその人間の価値をそのまま鏡写しにしている可能性すらある。
「やばい…どうしよう緊張してきた…、緊張しない方法って知ってる?詠?」
「またそれ聞くの?知らないって」
「なんで詠はいつもそうやって私のことを…!」
真っ暗な体育館の下手で私たちはヒソヒソと声を顰めながら話していた。すぐ先には、光に照らされたステージ、こちらまでは光が届かないが、その煌々とした雰囲気は下手どころか、体育館全体を覆っていた。もうすでにドラム、ギター、ベースは準備を始めているというのに、このポンコツボーカルはまだ準備を始めようとはせず、幕の内側でひっそりと私と会話しているのだ。
「ベースさん、音出しお願いしまーす!」
遠くの方からマイクから音を通して声が響く。
「え、流石にやばくない?早くいきなって澪」
「あ、あぁ、うん!行ってくるよ…!!」
そういうと澪は半泣きになりながら、半分怒ってるような、怒鳴っているような言葉で吐き捨てて、ステージ上に走っていった。
「マイクチェックお願いします!」
「あ〜〜ぁ、…えと、あー!」
澪にマイクチェックが頼まれると、どこかぎこちない様子でマイクチェックをし始め、私は思わず笑ってしまう。
しかし、演奏が始まるとそんな不安な要素はどこへやら。圧倒的な声量と彼女の独特な緩急。気づけば最後の曲は終わっていた。曲はいつしか観客の拍手に変わり、
澪がステージから降りてきて幕の内側で待っていた私に飛びついてきた。
「あ〜〜緊張したあ!!変じゃなかった?私の歌?」
「全然良かったよ!ちょっと感動しちゃったもん」
「本当!?やったー」
こんな何気ない日常の中にすら、人の向き不向きは浮き彫りになる。
学校の玄関口で下駄箱から何気なくローファーを出しながら、澪と話す。
「学祭片すのめっちゃ疲れたああ〜〜もう明日体動かないよお」
「今日緊張もしてたからねえ澪」
「からかうなあ!」
軽く蹴られた私はそれを気にせず会話を続ける。
「澪はさ、プロにならないの?」
「いやならないよお、大学でも軽音やったりはするかもだけど全然そんな才能ないし」
そんなことはない。あの年であれだけ上手ければ人の目を引くことは間違いないし、聞く人が聞けば一発で芸能入りの切符が手に入るほどの才能だった。これは私の客観じゃない。ただ上手いだけなら、周りがもてはやすがもはや澪のレベルが高すぎて周りが一歩引いていたくらいだ。
「いや、才能だよ、本当すごいと思うよ」
「そっかあ!嬉しいな!じゃあ今日バンドメンバーとの打ち上げがあるから今日はこっちで…」
いつも同じ方向の澪がそういうので少し寂しい気持ちになりながら仕方ないかと手を振った。
「あれだけの才能があれば大学進学以外の道だっていっぱいあるのにねえ…」
バッグをゴソゴソと探しながらぼやくが一向に携帯が見つからない。
「くっそ底に、教科書にひっかかって…あ、取れた」
私はいつもこの用途だけに使う真っ白なガラケーを出す。ストラップも何もついてない不恰好極まりないガラケーだ。ガラケーを出してある番号にかける。
「あ、20336924です。もうきてもらってもいい?」
「仕事完了の予定時刻よりもだいぶ早いですが…?」
電話先の男は少し困ったように疑問を私に投げかける。
「大丈夫〜。下調べは昨日したど、まあ役得な仕事って感じ。」
「…了解しました。20336924が言うのなら本当なのでしょう。到着は今回40分です。」
「あ〜〜もっと早く呼べば良かったね。」
「いえ、できるだけ我々も周りの目に晒されたくはないので…。ちなみに死体は…」
「う〜〜ん今日は剥がれそうにないんだよねえ〜、だからボディーガードも合わせて三体かな。あ一応予定だからまだ書類には書かないで欲しいな。」
「そう言って20336924が以前に報告と違う人数殺してきたことはありませんよ」
男は半笑いでそういい、ケータイの先から鋭いボールペンの音がした。
「まあ、一回くらいなら修正ペンでなんとかなるんで…ではよろしくお願いいたします。」
「は〜〜い」
丸の内。
都会のど真ん中で黒く輝くベンツが走っていた。
中の男は太々しい体を従者二人に見せつけて、後部座席で短い足を組んでいる。
きているいかにも高そうなスーツはぴちぴちで今にも張り裂けそうな具合だった。
額の汗を隣の従者に拭いてもらい、もう一人の従者には運転をさせながら罵声を飛ばす。
「おぉい!!まだつかんのか!?」
「もうほんの少しですので、お待ちくださいませ…」
従者は焦るように、うっすら苛立つように答えた。
ベンツは渋滞に阻まれ一向に動けずにいた。
「はあ。一旦止めろ、暑いし、トイレに行きたい。」
男は全開出かけられた冷房にも満足することはなく、トイレのあるコンビニに止めろと命じ、従者たちと降りていくのを私は後ろの車に乗りながら見ていた。
もちろん私が運転しているわけではなく。
「…おっけ、ありがとう葵さん。」
私はコンビニ車を止めてもらわず、そのまま車道で降りようと扉を開ける。
隣で運転している穏やかそうな、仕事のあまりできなさそうな美人に挨拶する。
「行ってくるね〜」
「詠ちゃん、もう車は撤収しちゃっていいのね?」
「うん、共謀を警察に疑われても困るしね」
「帰りは勝手に撤収するから大丈夫。」
そう私は葵さんの目の前にあるカーナビを見ながら答え車を降りた。降りたその場でポケットからもう一度白いガラケーを取り出し、すぐさま電話をかける。ワンコール…ツーコールで相手が出た。
「20336924です!今どこですかね?」
「丸の内まであと10分程度だ。」
「よし、ちょうどいいですね。場所を言います丸の内のコンビニ。住所はXXXーYYYY。一応間違ってないか入れてみて」
「…確認できました。一応引き継ぎお願いしたいんで、その場所にいてもらっても…」
「うん、おけ。それとね」
私はあらかたの事務処理を終わらせながら、三人が入っていったコンビニに向かって早歩きで進む。
「忘れないで欲しいんだけどターゲットの車の…あ、ナンバーはーーーー」
「大丈夫です確認済みです。」
「助かる。機能事前に三箇所盗聴器仕掛けてるから、三つちゃんと回収して場所は後で」
ここで私はコンビニに入る。
ターゲットの男どもは店員に断りもせずトイレに向かった。
本来、暗殺とは人目につかない場所で行う。
しかし、その状況は滅多に訪れない。
この時、主に二つの手が考えられる。一つはターゲットをどうにかして、人目のつかない場所におびき寄せる。ここが暗殺者の腕の試されるところ…だがこれは時間がかかるし、結構警察にパクられる。流石にそこまで警察は甘くはないのだ。二つ目はーー。
男とボディーガードの一人が中に入った。一人は外で見張っている。
「あの、トイレ借りてもいいですか…?」
私が店員に聞くと気だるそうに
「ああ、いいっすけど…」
店員はトイレのほうに行った男たちに目をやるが私に何かを伝える様子はなくトイレを進めた。
(ま、面倒ごとには巻き込まれたくないわな)
時計を確認しながらトイレのほうに進む。時刻は18:35。人は、二、三人と店員。
ま、控えめに見積もっても余裕すぎる。
「あのトイレ借りたいんですけど…」
「…」
こっちを見向きもしない。
「じゃあ、お望み通り、一生無言にしてやるよ」
そう言った瞬間。
私はアイスピックで男の耳から脳髄を一気にさす。男が声を出すこともないように次に喉にもう一本アイスピックを動脈を刺さずに首の斜め後ろから刺す。そのまま血が飛び散らないように抜かずにトイレの中に男を盾にしながら入る。
中の男が反応する。
「なんだお前もと…」
私は扉を閉めた。
まず、喉。次頭。これで二人は動かなくなった。
トイレの中にいる本丸本元は…
(中入ってもいいんだけど…。中入って気づかれて悲鳴でもあげられたらねえ)
私は男たちを女子トイレに二人とも入れて少々の血痕を拭き取りながらトイレ内の監視カメラに青いスズランテープをつける。そしてカメラを壊す。記録を確認されたらまずいけどとりあえず2,3分は気づかれないでしょ
ガチャ。
「ふー、なんとか間に合った。…ん?ど…」
振り向いた瞬間脳を一発で刺す。
「よし!これで終わりっと」
(今時計見てみると…時間は14:42もうそろそろか。)
私は赤いスズランテープを額につけて同様に女子トイレに突っ込んで鍵を閉める。
耳を澄まして待っていると…。
遠くから声が聞こえる。
「すいません、本日この地域を厳重警戒しているXX署のYYです。トイレを貸していただいても…?」
先ほどと同じ質問に店員は若干辟易しながら、しかし警察なので答えないわけにもいかずトイレの方をみると…
「あ、いいっすけど…?」
誰もいなくなっているため若干首を傾げながら店員は答えた。
そうしてトイレに入ってくる。
「よいしょ。仕事は完了したよ」
「かしこまりました。」
偽警官は大きなバッグを持って中に入ってきた。
調査用に見せかけたこの鞄だがもちろん死体をばらして入れるためのものである。
「それ入る?」
「うーん、厳しそうですね、車の中にまだ数人いるので後で応援を呼びますがまずは…」
そう言いながら偽警官はカメラを見た。
「うんそうだね。」
偽警官はトイレ内にブルーシートを引いて、戻っていく。
カメラが壊されているため防犯カメラを確認する、というこちらがやったのにも関わらず善意を提示する鬼畜な方法で機械の本元も壊して、転送先、バックアップ先もあれば壊す。流石に誰でもできるわけではないのでこちらからも機械関係に詳しいものを出す。機械関係に詳しいことだけは嘘ではない。
死体は他の警官とバケツリレー的な感じでその大きなバッグに何度も入れて。ばらして、若干付着した血痕も拭き取って。最後に死体入れる用のカバンに私自身も入れてもらって。
私を運びながら警官は店員に話しかける。
「お貸しいただきありがとうございます。カメラの破損ですが、証拠は見つかりませんでした。相手はかなり巧妙でデータも残っていないような状況で。」
データは残っていた。私がガッツリ殺していたのも残っていたというのでさっぱりしっかり消し飛ばした。
「こちらから管理会社に連絡させていただくので、カメラの方の話は後日くるかと…」
「あ…ありがとうございます…」
今日は店員がこいつ一人っぽいので店員は顔の色が悪かったがデータも残ってないと知り、かなり絞られると察したのだろうかもう真っ白だ。
「ではこれにて。」
偽警察は私の入ったバッグを後部座席に置いて入り込んだ。
車の運転が始まり一つ目の交差点を抜けたあたりで偽警察がバッグのジッパーを開けた。
「よっこいしょお…」
そう言いながら私は中から出る。だが車の中はなかなか狭く出られない。
「あのさあ、もっとでかい車にしたりしないわけ??」
「はは、そんな大きな車にしたら警察車両に偽装できませんよ」
「ちょっととはいえバッグの中に入ってるとこるからすぐ伸びしたいのになあ」
私はぼやきながらバッグから出るとバッグを膝の上に乗っけて確認を始める。
「あ、盗聴器とった?」
「はい三つ確かに。」
そう運転手が言うと盗聴器を三つ私に渡す。
「あ、場所伝えてないのによくわかったねえ」
「一応プロですので」
「報酬は?」
「今回の任務の報酬が2000万になります。」
「ういい、いいねえ」
「今回私たちの人件費もろもろの依頼料が800万弱ですが…」
「うんいつも通り報酬から引いちゃって、あと1000万でいいよ。お世話になってるしね」
「あ、ありがとうございます。最近物価とかも上がっちゃってレンタカーも裏口でかりると結構かかるんで助かります。口座は…」
「それもいつも通りで〜」
「かしこまりました。」
少し先の駅でおろしてもらう手筈になっているため、少し時間がかかる。この簡素でいつもと変わらない確認が終わった瞬間私たちは情報共有も含めて雑談をする。電話なども使いすぎると危険なのだ。
「いや〜〜20336924さんは仕事が早いし、満額以上いただけるので助かります。」
「いや仕事はやいし、丁寧だし、この業界では結構稀有だと思うよ。君ら『白服』は。」
『白服』
暗殺関係の雑務をこなす私が重宝している団体?組合?みたいな。結構昔からある団体ぽくて警察とかヤクザとかの繋がりもかなり強固。私は失敗したことないけど、ちょっとやそっと、さらに結構失敗した場合でもリカバリーまでしてくれる。でもこのリカバリーは発動した時点で結構法外な金額が要求されるとかなんとか。でも金額さえ払えば基本的にどんなことしても綺麗に仕事を達成できる。これが白服。
「しかも、結構他の業者よりも金額安いしね。」
「リカバリーが仕事に加われば他の業者の十倍近く取ることになるのでそんなことないかと」
半笑いで運転手はそういうが、金さえ払えば綺麗さっぱりなのだ。どんなに高額でもお釣りが帰ってくるだろう。
「最近さ、ここら辺の業界で滅多な動きある?」
「う〜〜ん…」
そう唸りながら運転手は丁寧にハンドルを切るそのてには肌色のゴム手袋が嵌められていた。
「そうですね。あなたたちプレイヤーといいますか、そちら側には特に今激しい動きはないかと」
「じゃあ、そっち側はなんかあるんだ?」
私は携帯をいじりながら片手間で相手の話を聞き出す。
「はい…。まあ20336924さんならいいですか。実は最近かなり警察の動きが過激になってきたんですよね。さっき多くもらえるの助かるって言ったじゃないですか」
「うん、言ってたねえ」
「あれ、物価上がったせいじゃなくて、証拠潰しにかなり力入れてるせいで上がっちゃって。」
「まじ?君ら白服が?」
白服は老舗。かなり長く存続してきた組織だ。この組織が仕事にさらに気合を入れているのか。
「他の業者はもしかして結構…」
「はい、僕たちの知ってる業者だけでも10数件…殺されてますね。」
「?殺されてる?警察に?」
「はい」
私たちがターゲットを殺すならわかるが警察がそこまでの強硬手段に出ている…。
「う〜〜ん確かにそれは危ないね」
そんな話をしていると池袋駅の近くについた。
「じゃ、また〜」
「はい。お疲れ様です。」
詠たちがさった後のコンビニ。
店長らしき人物と先ほどの店員が控え室で会話をしている。
「店はもう閉めたな?」
「はい…」
店員は申し訳なさそうに返事をする。
「すいません店長。今日おやすみなのに呼び出してしまって…」
「カメラが壊れてるって?データは?」
「それが警察の方が言うにはデータも消えてるって」
「は?お前なんかいじったのか?」
「いや…!あの自分は警察に言われるまで気づかなくて…」
「ああん?」
店長は知っていたのだ。このシステムは外部から特殊なハッキングなどの操作がされない限り、データを消すことはできない。
「機械に警察は触ったか?」
「え…はい」
男はこの店員の返答に眉間を寄せる。
「っつーか、外のカメラもなんで停止してんだ?」
「あれ?ほんとだ。朝は動いてたんですけどねえ。」
「外にある車は?無断駐車か?」
「いやいつから止まってるのか…」
男は少し悩んだように手を組むと…
「警察を呼ぼう。もう一度話を聞かなければわからない。」
「あ、すいませーー」
「それに、なんだかその警察、怪しくないか?普通、三人も警察降りてくるか?」
「いや一応犯人の痕跡をって…」
「まあいい…110番かけろ。どっちみちかけるが吉だ。」
「っはい!」
「XX署人確認を取りましたがYYという職員はいても、今日は出勤してませんね」
店に来た中年の警官がそう店員に伝えた。
「え?ど、どういう?」
「警官に見せかけた詐欺か何かでしょうね。」
「え、でもお金は奪われていないでしたが?」
店長が警官にそう伝えて、警官は考えるように視線を下に向けて考え出す。
「…金が奪われてないとなるとなんとも」
そういいかけた時後ろから若い警官がやってきて中年の警官に伝える。
「相良さん、あの車なんですけど多分政治家の米村議員のものではないかと…」
「照会かけたのか?」
「いや、ただ一度仕事で警察にきていただくときに車を見たんですけどあんまり似てて…」
「確か米村議員は今日警察関係者との会談があるんじゃ…?」
「あ、あれですか、地域密着みたいな」
「そうそう」
そういいながら相良は電話を本庁の知り合いの警官に電話をかけた。
「なんだよ?今ちょっと忙しいんだけど?」
相手は苛立ったように話す。後ろからはガヤガヤと警察の声が聞こえた。
「なあ米村議員ってもうきてるか?」
「なんでお前がその話…?もしかしてもうマスコミがかぎつけたか!?」
「は?なんの話だよ」
「今日の会談メディアに警察と治安に対し熱心な米村議員が会談する様子が一部中継される予定だったんだが米村議員の仕事が忙しいってことで1時間延期にしたんだが、実は…米村議員が行方不明なんだよ」
「…まじ、か」
「忙しいから切るぞ!俺も探しに…」
「ちょっと待て!今米村議員の車かもしれないのがコンビニに止まりっぱなしなんだ!」
相手の雰囲気と声色が変わる
「…本当か?照会は?」
「まだだ」
「ちょっと待ってろ」
電話先の人物が電話を保留にした。相良にはツー、ツーという人間味のない音だけが耳を迅る。
その様子を見て若い警官が小声で喋る。
「…どうしたんです?」
相良は店員たちに聞こえないように背を向けて話だす。
「どうやら米村議員が行方不明らしいんだ…。であの車と」
「あっ!自分番号とってきます。」
察した警官が番号を確認しに行くと同時に電話口の声が変わった。
「鑑識です。相良警部、紹介を行いたいので番号をお教えいただけますか?」
「今確認に行かせてます。ちょっとーー」
「とってきました。」
「あ、今来ました。品川のXXXXです。」
「…XX、XXですね。あっ!ちょっと待っててください!」
慌てた様子で鑑識は電話を保留にしていった。しかしすぐに先ほどの相良の知り合いが出る。
「相良!場所は!」
「住所はXXXーYYYYだ、早く来い!皆木!」
2400年代、技術は進歩し、古臭い体勢はほとんど残らないと期待されて迎えた年代。しかし殊、日本については違った。サイバー対策などはより強固になり、紙の書類における決済も無くなった。ハンコも無くなった。しかし、サーバー犯罪は一向に減らないどころかその数を増していた。どれだけサイバー対策を強固にしても、犯罪者側も技術を増し、さらに、サイバー犯罪だけでなく他の犯罪もその数は増えていった。2000年代発展途上だった国では犯罪率0%を記録するような年代。日本でも2000年代よりもかなり犯罪は減って30万件。しかし、問題はその凶悪性が増しているということである。殺人などの非常に凶悪な事件はそのうちの89.7%。日本は世界で唯一、時代が進むにつれ犯罪を劣悪なものにした国家になってしまったのだ。
朝の日差しを目一杯に受けて起きる。朝の支度をし、インスタントのスープを机に置いてテレビをつけ何気なく眺める。パンをオーブンに突っ込んでクシを紙に通しながらソファに座ってみてると…。
「昨日、6月24日に治安維持推進を主な政策として進める米村議員が行方不明になったことが判明しました。」
そして見覚えのあるコンビニが上からの視点で映る。
「ん?これなんか見覚えあるような…?」
オーブンのチーンという音の方に歩いていってトーストを出して、齧って、私は気づく。
「あぁ、そっか私が…」
ガチャ、ガチャ。
誰かが鍵を開ける音がして私が振り返って窓を開けると、
「あれ、お父さん!昨日は泊まり?」
父が通れるようにドアを開けて道を開ける。父が中に入って、カバンを置いてソファにどかっと腰をかけた。
いそいそと上着を脱ぎながら、
「あぁ、悪いな連絡できなくて、夜飯はどうしたんだ?」
「ん?そこのコンビニで済ましたよ?」
私はもう一つのトーストを齧りながら、いちごジャムを出して塗る。
「すまないな、昨日飯作ってやれなくて、ほい。」
そういいながら私に二千円をくれる。
「いいの昨日結構豪遊したけど千円しか使ってないよ。」
「服も畳んでくれたろ、昨日は父さんの番だったのに。そのお詫びだ」
「ラッキー」
私はそういいながら皿をキッチンに入れて二階の自分の部屋に行く。
残り数分なので急いで着替えて、家を出る。
「じゃ、洗濯物よろしく!」
「あいよ〜」
疲れ切った父の声がリビングからしたのを確認して家を出る。
玄関口にある母の写真と、父に行ってきますと言って、私は相良の表札が下がったドアを閉めた。