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第五話 兄さまのお守り(四)

 翌日。甘味処の中で彼女を待っていると、時間通りに待ち合わせ場所に訪れた麗子は、少しだけ、驚いた顔をする。

「どうかしましたか?」

「ごめんなさい。店長がきっとナンパだから行かない方がいいって言っていて。弟さんも連れて来てるってことは、本当に私の話を聞きに来たんですね」

「麗子さんは綺麗だから、その気持ちも分かりますね」

 兄さまの言葉に少しだけ、頬を染めると、麗子はふたりの前に腰掛ける。

「おふたりは」

「私たちは軍部の下っ端のようなものです。麗子さんは『伯爵令嬢の絵』ってご存じですか?」

「ああ。雪元男爵のコレクションだっていう」

「その件で調べていたんですよ。麗子さんは男爵の奥様のお友達なんですよね?」

「ええ。花江とは長い付き合いなんです。私は親から言われた縁談が嫌で家から飛び出して絶縁状態なんですが、花江とだけは連絡を取りあっていたんです」

 雪元男爵がまた高い絵を買ってきたと、花江は麗子に怒りながらも話をしたという。それだけではいつものことだと怒らなかった花江だったが、今までは優しかった男爵が絵を買って以降、部屋に引き篭もるようになってしまい、部屋に耳を当ててみれば絵と話しているようで怖いと麗子に相談してきた。

 どうすれば男爵を部屋から出せるか。ふたりで悩んだところ、麗子にある案が浮かぶ。男爵は自分のコレクション自慢をするのが大好きな人だ。夜会を催して、コレクションを皆さんにお見せするのはどうか? と誘ってみるのはどうかと話せば、花江もいい案だと乗ってきた。そのあとは、いつものようにふたりは甘いものを食べつつ、たわいのない話で盛り上がったらしい。

 後日、男爵の様子を麗子が花江に尋ねてみれば、久しぶりに男爵が以前の姿に戻ったようで安心したそうだ。

 また、麗子の休みのときにでも息抜きにお茶をしましょう、と話していた花江だったが、以降、音信不通になってしまった。雪元男爵の家に赴いたものの、麗子は全く、相手にされなかったことで、仕方がなく、家の名前を使った。

 麗子の家は雪元男爵よりも位が高いらしく、態度を変えた使用人たちは麗子を男爵の元に連れて行ってくれた。男爵に花江は夜会の準備で疲れてしまったのか、暫く、療養していると言われたが、麗子には信じられなかった。もしも、具合が悪いのなら、花江は麗子に手紙を送っただろう。執事に呼ばれた男爵が少しだけ席を離れている際、自分のことを覚えていたのか、普段は人見知りをする花江の娘が麗子の元にくる。

『あさちゃん、お久しぶりね。お母さまも元気?』

『あのね、おばさま。お母さまが絵になっちゃったの』『えっ?』

『お父さまはお母さまのことは忘れなさいって』

 戻ってきた男爵に少女はいつものように振る舞ったが、麗子は男爵に気づかれないように早々に立ち去った。もしも、男爵に花江の本当の不在理由を知られたことを知られれば、どんな目に遭わされるのか分からない。

 花江のことが気になりつつも、麗子に出来ることなどない状態で気落ちしていたのが分かったのか、周囲にも心配されたが、どう動けばいいのか分からなかった。

 そんなときに新聞で男爵家で開催される夜会に、花江が話していた絵が見られると聞いて、彼女も参加をしたかったが、今回は男性だけの参加に限ると言われ、諦めるしかなかったらしい。

「なので、おふたりがなにか知っていればと声を掛けたのですが」

「花江さんの顔が分かるものはお持ちですか?」

「女学校時代のものですけど」

 麗子は鞄の中から一枚の写真を机の上に載せる。すぐにふたりのことが分かったが、男爵が見せた絵と花江の姿は明らかに別人だ。

「こちら、預かっても大丈夫ですか?」

「ええ、どうぞ。あの、花江のこと。なにか分かったら、頂けますか?」

「もちろんです」

 麗子が頭を下げたあと、ここの甘味処のあんみつは美味しいと言われて食べたが、直には味が分からなかった。麗子と別れたあと、直は兄さまに尋ねてみる。

「兄さま。やっぱり、男爵が絵を持っているんでしょうか?」

「どうして、男爵が夜会でコレクション会なんてしたのかを考えていたんだが、彼は『餌』を見つけるために男性限定にしたのかもしれない」

「『餌』ですか?」

「そのうち、男爵の夜会以後、行方不明になったという人々の話が出てくるだろう。まだ、生きていてくれたらいいんだが」

「もしかして、男爵は」

「味を覚えてしまった絵の餌を集める為、夜会を開いたんだろう。また、男爵の家に行く必要があるね」

 目線でどうするか、と問いかけられて、直はもちろん、行くと答えた。兄さまは複雑そうな顔をしつつも、直の反対はしないようで、ひとりで無理はしないようにと、直は約束をさせられた。

 数多くある作品の中からお読み頂き、有難うございます。よろしければ、ブクマや評価を頂ければ、嬉しいです。

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