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テオの秘密



「テオとお前は似ていないな」


 ジェイクは乾燥させたダンデライオンの()った根を細かく挽きながら、出し抜けに呟いた。

 休憩中、ダンデライオンのハーブティーを作ろうとしていた。


「ダンデライオンは魔法の力を高めてくれる効果もあるんだ」


 それで、ダンデライオンを見つけてはその根っこを抜いて大切そうに、乾燥させていたのね。

 魔法使いとあって、ジェイクは物知りだ。



 あれから、わたしとテオは、ジニアへ向かう一行に加わり旅を続けていた。

 空は常にゴーレが旋回していたが、回避する方法を知ってから襲われる心配はほとんどなくなった。

 しかし、進むにつれ、ゴーレに襲われて、焼け落ちた村は増える一方で、加わる人々も増えていた。


 しばらく大きな町はなく、その間もわたしはジェイクを師匠と呼んで、魔法を学んでいた。

 アメリアの言う通り、信じられないがわたしは魔法が使えた。


 ジェイクはいつも唐突だ。

 ぼんやりしていると聞き逃してしまい、三歳児であろうとも、聞いてない、と容赦ない。


「あい、ちちょー」

「ちちょーじゃなくて、師匠だ」


 ダンデライオンの根を細かくしてしまうと沸かしていたお湯をポットに注ぎ抽出し始めた。


「飲んでみるか?」


 進められて一口いただく。

 うん、根っこの味、と思いながら味わった。

 ジェイクも残りのティーをゆっくり飲みながら、


「それで、さっきの話だが。テオと本当にきょうだいなのか?」

 

 と、ストレートに聞いてくる。


「う……」


 返事に詰まる。

 わたしだってそれを知りたい。

 けれど、聞くのが怖かった。

 テオはまだわたしがドレンテであったことを知らない。話していなかった。

 テオの年齢ですら、まだ、知らないのだ。


「テオはガードがかたい。自分の話をしないからな。人を信用していないのか。身分を隠そうとしているんだろうな」

 

 初めて会った時、テオは、目的地ジニアがものすごく遠い場所であることを知っていた。つまり、地図を知っているということになる。

 そして、自分がいた場所も理解している。


 ミアに魔法が使えるという話をしても、あまり驚いていなかったし、ラテン語が読めると聞いても反応はあまりなかった。

 つまり、それらも理解していた、ということではないだろうか。


 テオとミアのお母上が殺されたと言っていた。

 もし、二人がきょうだいでなければ、どちらの母が殺されたのかも、考えると胸が痛い。


 わたしはまだ、真実に向き合う準備ができていないのか。

 でも、テオに黙っているのは心苦しかった。

 嘘なんて、つきたくない。


「よる、きいちぇみまちゅ」

「そうか」


 ジェイクはうなずいて残りのハーブティーを飲み干した。


「さて、片付けをして出発するか」


 


 その日の夜、テントを張って休む頃、テオは眠そうに目を擦りながら毛布に横になった。


「お腹空いてないか? ミア」

「ちゅいてにゃい」


 食事も変わらずで、朝はポリッジ、昼は果物、夜はポリッジとスープ、時々、肉やパンもあったりした。

 今日はこれから話をするので、夜は緊張のあまり食事が喉を通らなかった。


 テオとゆっくり話をする時間は限られていて、今しかない。

 わたしは心臓が飛び出そうなほど緊張していた。

 もし、もし、わたしがテオの知っているミアではないことがわかれば、彼はどんな風に思うだろう。

 拒絶されるのがとてつもなく怖かった。


「ミア? どうしたんだ?」


 体をこわばらせたわたしに気づいて、テオが不思議そうに言った。


 今話さなきゃ。

 わたしは覚悟を決めた。

 横になっていた体を起こし、テオの方へ向き直った。


「テ、テオにおはなちがあるにょ」

「うん」


 テオは横になったままうなずいた。


「あ、あたち……」


 どこから話せばいいんだろう。

 

「テオとあたちはほんちょのきょうたいなにょ?」

「え?」

「あたち、テオにほんちょのことかいえにゃくて。これいじょうたまっちぇいるにょ、ちゅりゃくて」


 舌足らずでうまく話ができない。

 テオがゆっくりと体を起こした。

 わたしは懸命に伝わるよう話を続けた。

 

「あたち、ほんちょはここちゃない、べつにょせかいからきちゃの。ほんもにょのミアから、たちゅけてってよばれちゃの。めをあけちゃら、ミアににゃってたにょ」

「ミアに呼ばれた?」

「うん。でも、アメリアは、あたちとミアはどういちゅじんぶちゅたっていっちぇくれたにょ。それて、あたち、テオときょうたいかもわからにゃいにょ」


 伝わっただろうか。

 目を見るのが怖くてうつむいていた。


「テオ?」


 テオの返事がない。すると、少ししてから、わたしの背中をテオが優しく撫でてくれた。


「ごめんな、ミア。俺こそずっとこの話から逃げていた」


 顔を上げると、見たこともないほど悲しい顔のテオがいた。

 テオも辛かったんだ。


「おちえて」

「俺とミアはきょうだいじゃないよ。詳しい話はできないけど、ミアのお母さんは強力な魔法を使える人だったんだ。それで、魔法で俺たちを転送したんだ。でも、その転送先はゴーレに襲撃されていた。移動したとたん、お前はゴーレの鉤爪で襲われ、ミアのお腹から血が溢れて、俺にはどうすることもできなかった」


 え?

 衝撃の事実に息を呑む。

 じ、じゃあ、あの魔方陣はミアのお母さんが作ったもの?


「あたち、ミアによばれちゃの。たちゅけて、はやくきちぇっていっちぇた」

「ミアはこうなるってわかっていたのかな。それからは覚えているだろ? アメリア姫が助けてくれた」

「おかあちゃまは、アメリアのもとへてんちょーちたのにぇ?」

「そうだと思う」

「おかあちゃまはとうなっちゃの? なにかあったの?」

「俺たちは城で暮らしていた。ある日、ゴーレの襲撃があって、それで、俺たちを守るためにミアの母上が魔法で逃がしてくれた」


 城が襲われるなんて、どれ程のゴーレがいるのだろう。

 お母上は亡くなられたのだろうか。

 それを聞くことはできなかった。テオも知らないかもしれない。

 わたしはテオの手をそっと握った。


「あたちをまもってくれちぇ、ありあとう」

「ミア………。俺にとってミアはいなくちゃならない存在なんだ。だから、何があっても俺たちは離れちゃいけないんだ」

「うんっ」


 わたしはテオをしっかり抱き締めた。

 三歳までのミアの記憶は全然ないけど、テオがとても大切な人であることはわかる。

 テオには知っていて欲しかった。


「あたち、ここにくるまえはドレンテってなまえたったにょ」

「ドレンテ?」

「うん。おばあちゃんがつけちぇくれちゃの」

「俺の母上と同じ名前だ」


 テオが小さく呟いた。


 テオのお母様と同じ名前。

 これは、偶然じゃない。

 何かの本で読んだことがある。

 この世に偶然はない。


 これだけ繋がっているのなら、わたしの名前とテオのお母様の名前が同じでも不思議ではなかった。


「ちゅてきなおにゃまえにぇ」


 テオがキョトンとして、わたしの言葉を理解してからクスッと笑った。


「ああ。優しい母上だった。忘れないよ」

「ておにょおとちはいくちゅ?」


 一番聞きたかったこと。


「俺は8歳だよ」


 子どもらしい笑顔。

 にっこりと笑うテオを愛しく思った。

 血は繋がっていなくても、心から頼れるお兄ちゃんだ。

 その夜はテオと手を繋いでいろんな話をした。

 テオにとって、わたしが16歳であった事が一番の驚きだったらしい。


「おかしいと思っていたんだ。普通、三歳の子どもはラテン語なんて読めるはずないだろ?」


 テオは表情を隠すのが非常に上手なタイプらしい。あのクールな顔の裏で驚いていたのか。

 

「ミアは万能なんだな。何でもできるのか?」


 変人と呼ばれていたことは黙っておこう。

 万能の方がよほどいい。

 こちらに来てからは、誉められてばかりだ。


「ちゃんちゃいにちてはばんにょうかもにぇ」


 テオは、うーんと唸って、まずはその言葉を理解しなきゃ、だけどね、と苦笑した。


「おやすみ、ミア」


 額にキスをしてくれて、わたしはテオの腕の中で今までで一番幸せな気持ちで眠った。

 

 ミアの気持ちがひとつわかった。

 テオが大好きなのだ。

 


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