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天才幼児? ミア!?



「もうすぐ町が見えてくるはずだ」


 そう言ったのは、魔法を使える唯一の男性、ジェイクだった。

 ゴーレが襲ってくる騒動のあと、休息をとったわたしたちは、翌朝も早く出発することになった。




 昨日の夕方、わたしとテオは、アメリアのテントの近くに夜営を張り、その時、初めてジェイクを紹介された。

 アメリアよりも少し年上の男の人。


 ジェイクを見たときの印象は、マエストーソと同じだ、という思いだった。

 外見や性格のことではない。

 マエストーソの年齢は21歳で、ジェイクもそれに近い年齢に見えたのだ。

 ジェイクの瞳は、テオの言う貴族ではなかった。優しいアンバー色をしている。

 いや、アンバー色が貴族ではないのか。何色を貴族と平民に分けているのか、その定義もわからない。


 ジェイクは体を鍛えているのかたくましく身長が高かった。

 髪色は金髪だ。


 わたしがあんまりじろじろ見つめるものだから、ジェイクは膝を折ると、わたしの顔を覗き込んだ。


「俺の何をそんなに見ているんだ?」


 と、低い声で言った。


 怒っているわけではない。冷静でクールな人に見えた。

 わたしは答えられず、無言で首を振った。


「アメリアからこれを渡すように頼まれた」


 ジェイクが持っていた本を渡してきた。

 ミアが持つには重く、分厚いその本の端々は擦りきれて、よく読み込んでいるように見えた。

 本を開いて驚く。ラテン語で書かれていた。

 わたしは、ドレーテだったとき、村の本はほとんど読んでしまう程の本の虫と言われていた。

 ラテン語の本もあったからなんとか読める。


 わたしがそれを読み始めると、ジェイクが顔をこわばらせた。


「まさかと思うが、読めるのか?」


 嘘をつく必要がないので頷くと、嘘だろ、とジェイクは呟いた。

 しかし、冷静な彼はふうっと深呼吸しただけで真顔に戻った。


「その本はミアに持っていて欲しいそうだ。大切な本だからなくすなよ」

「あい!」


 アメリアがわたしのために本を。

 嬉しさのあまり、わたしは本を抱きしめた。

 隣にいたテオは、ちょっと貸してみてと言って本を受け取り、ページを開いて言った。


「ラテン語は俺も少しだけ習った」


 そう言って読み始めると、ジェイクはやれやれ、といった風に首を振った。

 テオはやはり教養を身につけた高貴な男の子なのだ。

 中身が16歳のわたしならともかく、まだ、10歳にもなっていなさそうなテオがラテン語を読めるなんて。

 彼こそ頭がいい。

 

「それから、俺は魔法が使える。魔法でジニアまでの地図を作成しながら進んでいるんだ。そして、アメリアから、ミアの教育をするよう頼まれた」

「なんだって?」


 テオが、えっと声をあげた。


「ミアには魔法の才能があるらしい。アメリアが言うんだ。間違いない」


 テオは言い返さず黙っている。


「今日はもう休もう。明日は早いからな」


 それだけ言うと、ジェイクはテントを出ていった。

 夜、テオと一緒に眠りながら、少しだけ話をした。


「ねえねえ、テオ」

「ん?」


 テオは返事をしながらもウトウトしているようだった。


「ちぇんちょーは、いちゅまでちゅちゅくの?」

「ゴーレがいなくなるまでだ」

「ゴーレはわるいこにゃの……?」


 それを聞いてテオがビクッとした。


「俺たちの母上を殺したんだぞ」

「ごめんなちゃい……」

「俺たちには救世主がいる。アメリアが何とかしてくれる」


 テオの言葉はまるで自分に言い聞かせているように思えた。

 救世主って何?


 アメリアも言っていた。

 救世主の証しを持って生まれたと。

 その証しはいつか見せてくれると言った。

 アメリアは約束を守る人だ。


 そう信じてわたしは目を閉じた。

 テオも静かに寝息をたて始めた。


 翌朝、予定どおり早朝に出発して、昼前には町に着いた。

 大きな町だったが、人の姿はあまり見えない。

 アメリアとジェイクは、町の有力者の人に話があるから、と二人で行ってしまった。

 わたしたちは町に入る前に、整備もなにもされていない原っぱにとどまり、アメリアたちを待つことになった。


 その間、わたしたちはポリッジを食べて、のんびりとお話をしたり、休憩をとったりした。


 待つ間、アメリアから渡された本を読んでいると、まわりにいつの間にか人だかりができていた。


「ミアは本が読めるの?」


 中年に差し掛かる年齢の女性が感心したように言った。


「なんて書いてあるんだい?」


 わたしは数行目に書いてある散文詩を読んでみた。


「ちぇいなるあなちゃたち。きけんをおかち、けかをおっちゃもにょに、せいゆをしょしょく。ちぇいなるあなちゃたち、あくちゅうをはなちゅ、きじゅをふき、きよめりゅ」


 おお! と盛大にみんなが手を叩いて喜んでくれた。


「何を言っているのさっぱりだけど、天才なんだね、ミア」


 変人とはよく言われたが、初めて天才と言われた。

 誉められるのは嬉しい。


「ありあとう」


 お礼を言うと頭を撫でられ、なんとなく気分がよくなる。

 すると、ジェイクとアメリアが戻ってきた。


「受け入れてもらったわ。この町にとどまりたい人は残っていいわ」


 それを聞いた人々は、安堵した顔で手を握って喜んだり涙ぐむ人もいた。


「三分の一の人間はこの町を捨ててどこかへ行ってしまったらしいけど、この先に安全な場所があるとは限らない。ゴーレさえ空から降りてこなければここなら安全に住める。言ってはいけない言葉と恐怖を感じなければ、ゴーレを呼び寄せることはないわ。みんな、幸せになる道を選んで」


 アメリアがそう話していると、ジェイクがわたしたちのそばに来てさらに詳しく説明してくれた。


 旅の途中で安全な場所と受け入れてくれる町があれば、できるだけ多くの人にそこにとどまるよう伝えているという。

 アメリアたちの一行は、孤児や住む家をなくした人ばかりだからだ。

 住む家がなくて一行に加わる人はどんどん増えているという。


「私たちも何日かはここでとどまるわ。みんなの安全を確認したらジニアに向けて出発します。それまで、とどまるか進むか考えてみて」


 アメリアの言葉にみんなが頷いた。


「さあ、みんな町へ入りましょう」


 アメリアがわたしを見てにっこり微笑んだ。


「ミア、こっちへおいで」


 テオがわたしの手を引いてアメリアのそばに行った。

 アメリアに抱き上げられる。


「約束のものを見せてあげるね」


 アメリアはそう言った。





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