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見たこともない場所で




「ミアッ。目を覚ませっ。お願いだ!」


 誰?

 目を開けようとしたが、体が思うように動かなかった。

 でも、息をしないとこのままでは死んでしまう。

 空気、空気が欲しい…。


 わたしは必死で息を吸い込んだ。

 肺の中に空気が入ってくる。

 だが、その空気ですらも、わたしの体を突き刺すように痛かった。


 何が起きたの?

 キスできるかもってドキドキしていた胸が、まるで氷のように冷たくてチクチク痛い。


「ミアッ」


 誰かがわたしを抱き締めていた。

 まだ若い男の子だった。

 黒髪で顔はぼんやりとしか見えないけれど、柔らかい空のようなブルーの瞳ははっきり見えた。


「だれ?」


 声を出したが、相手には届かなかったようだ。

 彼は目から涙をポロポロこぼしながら、必死でわたしを抱き締めている。


「誰か! 助けてっ。妹が死にそうなんだ!」


 妹? わたしはこの男の子の妹なの? 

 わかるのは、お腹のあたりがものすごく熱を帯びていて、逆に手足は冷たい感覚だった。

 身体中の血液が流れ出てしまったように。


 何が起きたのか。

 朦朧としている頭で辺りを見渡した。

 あの村祭りの景色から一変して、焼け野原が見えた。

 地面は焼かれ、もくもくと灰色の煙が立ち込めている。その中で倒れている人の姿も見えた。


 ここはどこ? 


 その時、頭上で大きな羽音がした。

 ギャアッギャアッと獣の声がしている。

 目を上げると真っ黒いつるつるした羽に、鋭い爪をもった化け物が頭上を飛んでいた。

 それは石像で作られたガーゴイルのような見た目で、人間のような手足に鋭い爪とコウモリのような羽、とがった耳と大きな牙の生えた口をしていた。

 その数は数えきれなかった。


 恐怖のあまり声が出ない。


「あなたたちっ、どこから現れたのっ!」


 突然、若い少女の切羽つまった声がした。

 男の子が涙目でそちらを見る。

 わたしの意識は遠のきはじめていた。

 無意識に手を伸ばすと、声の主がわたしの手を取ってくれた。

 少女は赤い炎のような髪色をしていた。


「助けてっ!」


 男の子の言葉に少女が頷いた。

 少女の手がわたしのお腹に置かれると、なぜか痛みが止まった。

 楽に呼吸ができる。


「これで大丈夫。ケガは全部治ったわ」

「あなたは…」


 男の子が呆然として、少女を見た。


「早くここから逃げなさい。この先に私たちの仲間が集まっているはず。そこまで、逃げるのよ」

「でも、あなたは」

「私は大丈夫だから」


 少女はそう言うと足元に置いてあった剣をとった。


「急いでっ!」


 少女が走り出す。

 その先には、襲いかかってくる化け物の集団がいる。少女はそちらに向かって手を広げた。すると、少女の手から閃光が発せられた。

 光を浴びた化け物が一瞬で消滅した。


「救世主…」


 男の子が呟いて、わたしの体を抱き上げると走り出した。

 わたしは男の子にしがみつくので精一杯だった。

 生きている。

 わたし生きてる。


 それだけわかって、涙が出た。



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