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青く光る魔法陣

こんにちは。

少し、書き直しました。

よろしくお願いいたします。




「ドレンテ、もっと僕に寄り添って」

「え、ええ」


 耳元で囁く声にハッとして、わたしはためらいながらも、婚約者であるマエストーソの背中に腕をまわした。

 ぐいっと腰を引き寄せられ、ハンサムな顔が近づく。


「近すぎない?」

「これくらい当然だ」


 金髪で青い目をしたわたしの婚約者。

 彼は優しく、そして、わたしを心から愛してくれている。それが態度で分かるのだから。

 周りの人たちがわたしたちをはやしたてた。


「彼女は僕の婚約者だからね。交代はなしだ」


 自分にもパートナーがいながらも、わたしを見ている男性にマエストーソが言った。



 今宵は、わたしが暮らす村の祭りの日。

 かがり火を囲んで、老若男女がパートナーを交換しながら、民族舞踊、すなわちフォークダンスを踊っている。

 軽やかにクルクルまわる男女。

 女性たちの淡色のスカートが回るたび、ヒラヒラはためいている。

 木陰では、幸せなカップルが手を繋いで寄り添ったり、軽くキスしている。


 音楽に合わせてダンスを踊っていたわたしは、目の端にキスしている若者たちを見て、思わず目を反らした。


 軽やかなワルツが聞こえているが、わたしは、マエストーソの熱い体を感じてドキドキが止まらなかった。


 わたしはにかみながらも最後のフレーズを聞いて優雅にお辞儀をした。

 マエストーソが、わたしの腰を抱いたまま輪から外れて椅子のある場所へ誘導した。


「何か飲み物を持ってこようか」

「ありがとう」


 マエストーソは、わたしの頬に軽くキスをすると、ジュースを取りに行った。


 今も胸がドキドキしている。踊ったせいじゃない。わたしは頬に手を当てた。

 ああ、どうしよう。

 彼ほど素敵な人がなぜ、わたしなんかに求婚したのか、今でも信じられない。


「ドレンテ、婚約者はどこへ行った?」


 一人でいると、少し小柄で赤ら顔の男性が近づいて来た。どうやら酔っているらしい。

 くだもの屋のバリーだ。彼は女性であれば、誰にでも声をかける。なので、女性たちからはあまり好かれていない。今夜は祭りなのでいつも以上に浮かれているのか。


「飲み物を取りに行ってくれたの」

「隣に座ってもいい?」

「いいけど、怒られるわよ」

「君とおしゃべりができるなら怒られてもいいよ」


 わたしは苦笑した。彼は人をおだてて楽しんでいる。

 バリーがわたしをジッと見て言った。


「君のグリーンアイは本当に素晴らしい。まるで宝石のようだ。よく言われない?」

「初めて言われたわ」


 わたしが肩をすくめると、バリーは手に持っていたお酒を一口飲んだ。


「この酒のように君の唇はさぞかし甘いんだろうな」


 とろんとした顔で言われ、背筋がぞっとした。


「酔っているのね」

「まあね」


 バリーは認めてから手を伸ばしてきた。その時、


「バリー、それ以上の事をするとどうなるか分かっているだろうね」


 不意に、頭上からマエストーソの低い声がして、バリーはひゃっと飛び上がった。


「冗談だよ。あんたが彼女を一人占めするから、少し話をしようと思っただけだ」

「冗談には思えない」


 マエストーソがじろりと睨むと、バリーはあたふたと退散して行った。


「何もされなかった?」

「大丈夫」


 冷えたリンゴジュースを手渡され、一口飲んだ。


「おいしいわ」

「少し歩こう」


 マエストーソの差し出された手につかまると、たやすく体が引き寄せられた。

 人ごみから離れ、暗い方へ誘導される。背後からはダンス曲とかがり火のぱちぱちと爆ぜる音がしていた。


「こっちへ」


 マエストーソの言われるままに足が動く。

 キスされるのだろうか。

 わたしはまだキスしたことがない。

 いいのかな。わたしも16歳になった。それなら、婚約者とはいえ、暗闇で男性と二人きりになってもいいのかな。


 不安と期待でいっぱいになりながらも、足は彼の後を追いかけていく。


「ドレンテ」


 名前を呼ばれるのが嬉しい。

 マエストーソはずっと大人だ。だから、キスは初めてじゃないよね。

 腰を引き寄せられ、彼の顔が近づいてくる。

 もう、心臓は爆発寸前だ。

 キスされる! そう覚悟したその時、


 ―たすけてっ…。


 マエストーソの唇が触れる直前、こどもの声がした。

 あまりに驚いて、息が止まった。

 キスしようとしていたマエストーソが、不思議そうに首を傾げた。


「ドレンテ? どうした?」


 キス、どころじゃない。

 頭の中で声がしている。

 わたしは頭を押さえた。


「ドレンテ、大丈夫か?」


 ――たすけてぇ…!


 今度ははっきりと聞こえた。

 鳥肌が立って、背筋がぞくりとする。

 唾を呑みこんで、マエストーソに抱きついた。


「声が、誰かの声が聞こえるのっ」

「え? 何を言っているんだ」


 マエストーソが困惑した様子で、わたしの体を離した。


 ――はやくきて、ころされる!


 切羽詰まったこどもの声と同時に、突如、足元に青く光る魔方陣が現れた。


「ああっ!」


 わたしの悲鳴を聞いて、マエストーソが眉をひそめる。彼には見えていないのだろうか。

 光の魔方陣はわたしだけを包み込み、その大きなエネルギーを感じたかと思うと体がどこかに引き寄せられた。

 そして、抵抗することもできずわたしの体は、マエストーソのいる世界から切り離され、消えた。



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