只今暇です!
「疲れた・・・」
その日の放課後、俺は生徒会室を目指して歩みを進めていた。
結局あの視線は1日中続き、俺は慣れない環境でいつもよりひどく疲弊していた。
ガチャリ。
「失礼しまーす。」
俺は生徒会室の扉を開け、中に入る。
するとそこには先についていた先輩方が机に向かってなにか作業をしていた。
「お、桐谷か」
「一体何をしているんですか?」
俺は気になって会長の机上を覗いてみる。
「ああこれか。これはただの今日の分の宿題だ。無駄に溜め込むのも良くないからな、こうやって宿題はもらったその日のうちに消費しているんだ。」
「あれ?生徒会の仕事じゃないんですか?」
俺は疑問になって会長に質問してみる。
「いや、この時期は特に目立った仕事はないからな。一応先生方がいつ来てもいいように生徒会室は開けているが、おそらくあと数週間は暇だぞ?」
「へえー意外です。」
生徒会ってもっと仕事が沢山で忙しいイメージがあったんだけどな・・・まあ、リアルなんてこんなものか。
ガチャ。
そうしていると、優が生徒会室に入ってきた。
「こんにちはでーす。」
会長が頭を下げて挨拶をしたので、俺も習って頭を下げる。
「さて、作業をするか。」
優は荷物を置くと、生徒会室唯一のパソコンを起動した。
あれ、今の時期って生徒会の仕事はないんじゃなかったのか?
「優は何をやっているんだ?」
俺は優の方に近づき、パソコンを覗いてみる。
そこにはいくつか浮かべてあるファイルとウィンドウ。
「ああこれね。生徒会室のパソコン内のデータを整理しているんだよ。このパソコンも買ってから結構経つからね。やっぱりどうしても整理できてないデータが生まれてしまうんだ。整理の不十分が原因でトラブルが起こっても困るし、今のうちになんとかしておいたほうがいいかなって。」
「へえ、優は偉いな。会長が言うからてっきり生徒会は今日、何もすることがないのかと。」
俺がそう言うと、優の目がすっと細まった。
「あんな会長の言うことは信じなくていいよ」
「へ?」
俺は意外な言葉が優の口から出たことに一瞬脳がフリーズする。
「それはどういうーー」
「お、そうだ。透はあくまで見学なんだし、以前はできなかった生徒会室の紹介とかもしよっか。そのほうが透としてもいいだろ?」
「あ、ああそうだな。じゃあよろしく頼む。」
結局、俺のそのもやもやは解消されないまま、俺たちは別の話題に移っていった。
「ーーっていう感じになっているかな。他に質問とかある?」
「いや、全く。だが正直言うと、こんなに物があることにびっくりしている。」
俺がそう言うと優は額を抑えて苦笑する。
「素直に汚いって言ってくれていいんだよ。」
「言えるかそんなん。無礼か。」
「まあ、十代近く続けばこんなにもなるよ。ただ、最終的にはここもある程度は整理したいよね。学校だから食べかすとかはないにしても、流石に仕事場がこんなんじゃやる気が出ないし。」
「今まではどうしてたんだ?」
俺の質問に優はうーんと考えるような仕草をする。
「今までか〜、考えたこともなかったな。きっと機会があるごとにどうにかしていたんじゃない?」
「どうにかって・・・よくそれで今までやってけたな。」
「人間やろうと思えば案外なんとかなるものだよ」
「不安しかない」
俺はそう言って笑う。
優も反論できないのか、まあまあと言って笑った。
すると、俺の中に一つの案が思いついた。
「じゃあ、俺がここの掃除をしようか?」
「へ?」
「俺も今の状況は嫌だしな。どうせ来ても暇なら生徒会室を掃除するほうがいいだろ?」
「それはまあ、そうだけど・・・」
「しかもさほら、俺としてもせっかく見学してる身なのに何もしないっていうのは気まずいんだよ。できれば俺にもなにかさせてくれ。掃除することで生徒会室の備品の把握とかにも役立ちそうだしな」
「まあ、そこまで言うのなら・・・お願いしていい?」
「おう、任せろ。」
俺はグッドサインを優に向け、はにかむ。
そういうわけで、俺は生徒会室の掃除をすることになった。
「さて、どうしたものか」
先程、何もしないのもどうかということで引き受けた生徒会室の掃除だが、俺は早速迷走していた。
何しろ、何を捨てて何を残すべきかがほとんどわからないのだ。
まさか、生徒会のあれこれがわからないことが、こんなところで障害になるとは・・・。
はあ、しょうがない。勉強中のところ申し訳ないが先輩方に聞くか。
「会長、ちょっといいでしょうか?この袋なんですが・・・」
俺が話しかけると、会長は頭をこちらに向けて
「ん?ああなるほど、それか。こういっちゃなんだが、それだけじゃなくて他の袋にはいっているものもほとんど生徒会に関わりがないゴミだからそのまま捨てていいぞ。」
「・・・わかりました、ありがとうございます。」
生徒会に関係ないゴミがこんなにも?という疑問が俺もなかで浮かび上がるが、俺はそっとそれをしまう。
まあ、ゴミの中身を気にしないでいいのは朗報だ。
俺は両手にパンパンになったゴミ袋を持つと、そのまま肘でドアを開け、校舎裏のゴミ捨て場に向かう。
するとちょうど生徒会室を出たところで、何人かの男子のグループがニヤニヤしながら俺を見ていることに気がついた。
俺が視線を無視して行こうとすると、そのうちの一人が俺に近づいてくる。
「なあなあお前って桐谷で合ってるよな。」
どうやら今回は視線だけでなく、冷やかしも加わるらしい。
俺はわざとめんどくさそうな表情をして返事を返す。
「そうだが・・・なんか俺に用か?」
男は俺の表情を見ても何も動じない。それどころかその男は、俺の名前が桐谷とわかったことでその笑みを更に深めた。
「おおやっぱりか、お前最近有名だからな。ちょっと気になっていたんだよ。」
「要件がそれだけなら俺はもう去るぞ。ごみ捨ての途中だからな。」
「まあまあちょっと待てって、俺たちはお前に忠告をしに来たんだよ。」
「忠告?」
俺が怪訝そうな顔をすると、男は、ああと頷く。
「お前、どうやら生徒会に関わり始めたらしいじゃねえか。」
「・・・まあそうだか」
「これは善意から言うが、正直、生徒会にはこれ以上関わらないほうがいいぜ」
「・・・一応理由を聞いていいか?」
すると、男は驚き、何を当たり前のことをと言いたげな顔をする。
「え、そりゃきまってんだろ?ここの生徒会が全く役立たずだからだよ。」
「役立たず?」
俺はここであえて、わからないといったふうな反応をしてみた。
・・・本当は大まかに優から教えてもらって知っている。だが、他の人からも詳しい情報を知りたいため、知らない振りをしてみたのだ。
「そうだよ、まさか知らなかったのか?ここの生徒会は他の学校と比べても特に何もできないって有名だぜ?」
だが、返ってきたものはやはり、優から聞いていたものと相違ないものだった。
しかし、ここまで直接的に言われるとは、どうやらこの学校の生徒会は生徒からの評価が相当ひどいらしい。
一体何やったらこんなことになるんだ?
・・・まあ、そんなことももういいか。俺はそろそろ去ろうかと考え始める。
すると、男は俺の今までの沈黙を俺があっけにとられていた間と考えてたのか、更に近づいてきて俺と肩を組む。
「俺としてはお前に嫌な思いをしてほしくないんだよ。だからこうやってお前に声をかけてんだ。どうだ?生徒会に関わるのを辞めないか?」
そんな下卑た笑みをしておいてよくそんなことが言えるものだ。
「そうだな考えておく。」
俺はそう適当に返事をしておく。
男はそれで満足したのか、俺に組んでいる腕を外した。
「ならいいんだ。じゃあな」
「ああ」
俺は改めてゴミ袋を持って廊下を歩く。
はあ、それにしてもめんどくさい輩だったな。
・・・今回のことは流石に優には言わないでおくか。
俺はそれから別の何の変哲もないことを考えながら、校舎裏に向かった。
最近朝起きるのが辛いと思い始めた今日このごろ、ハマった漫画ができました。みなさんも気をつけてください。