只今執行委員会トラブル中!
執行委員会はほとんどの場合、多目的教室で行われる。
今回もその例に漏れず、俺たちは多目的教室に入っていった。
「っち、今度は遅れなかったな。」
「ああ、すまない」
先程俺たちを呼びに来た先輩が舌打ちをして俺たちを睨めつける。
というかこの人も一応どこかの委員長なんだよな。まじかよ。
俺はざっと教室を見渡してみる。
やはりかなりの時間待たされたため、教室内の雰囲気は最悪だ。
皆何も会話などせず、ギスギスしている。
そんな中、こちらに向かって歩いてくる人が一人。
ん、誰だあの人?どっかの委員長なのは確実なんだけど。
「おーい、今回はやけに遅かったな。何かあったのか?妾で良ければ相談にのるぞ?」
「いい、結構だ。お願いだから早く席に座ってくれ。お願いだから」
「ふーむ、これはかなりのことのようじゃな。しょうがない、大人しく従おう。」
会長は目を抑え、疲れたように返事をする。
その人は学生服の上に白衣という、学生としてはかなり変わった格好をしている。しかし本当に目を引くのはその容姿だ。
まだ幼さを残すその顔は誰もが目を引くほど整っており、俺も少し見とれてしまったほどだ。
また、身長が俺の肩よりも低い。俺は男子の中でも高いほうだが、それにしても低い。
その身長も相まって、何も知らない人からしたら小学生に見えるのではないかと思ったほどだ。
その人も、会長に言われるとすぐ自分の席に戻っていく。
かくして、執行委員会の面子が全て揃った。
各委員長は全員、長方形に並べられた長机の端っこの一辺を除いた三つの辺に着いており、こちらを凝視している。
会長は残った一辺の席に向かい、そのまま座った。
俺と優もそれぞれ会長の両側に座ると、おもむろに会長が口を開いた。
「この度はおまたせして本当に済まない。皆としては早く執行委員会を始めてほしいところだろうが、・・・実は今回の執行委員会は本来なら開催されないはずだったんだ。こちらの手違いで皆を無意味集めることになってしまった。だから、皆には集まってもらったところ申し訳ないが、今回はそのまま解散ということでーー」
「ふざけるなっっ」
会長が全て言い終えようとしたその時、怒号が教室に響き渡った。
発言主は先程から会長に突っかかっている男。
見ると、その顔はヤンキーもかくやというほどの目つきでこちらを睨めつけていた。
「こっちは30分以上も待たされているんだ。手違いだからはい解散って素直にいくわきゃねえだろ!」
「・・・本当に済まない。このとおりだ。」
そう言って会長は頭を下げる。
俺と優もそれに合わせるように謝罪した。
数秒間の沈黙。
俺たちが頭を下げていると、先程の男が口を開いた。
「っち、しゃーねーな。今度またあったら承知しねーかんな。」
そう言って男は不機嫌な顔はそのままに、俺達から目線をはずす。
会長はその反応を確認すると、顔を上げた。
「ではこれにて執行委員会は解散としたい。なにか個別で用がある人はこの後自分に声をかけてくれ。では解散。」
すると、委員長たちはやっとかといったふうに席を立つ。
さて、俺たちもこれから海星先輩のところの進捗状況を確認せねば。
そう考え俺も席を立とうとするが、その前に少し気になることができた。
俺は隣にいる会長に向かって質問をする。
「すいません会長。ちょっと質問いいでしょうか?」
「ああ、なんだ?」
「もしかして会長とあの先輩は仲がいいんですか?」
あの先輩というのはもちろん、先程から会長に突っかかっている男のことだ。
すると、会長は心底驚いたと言った風の顔をして俺を見る。
「どうしてそう思ったんだ?」
「いえ、実はあの人のこちらに対する怒りの表現は少し過激すぎたのが引っかかって。普通、公衆の面前であんなに一方的な怒りを向ける人はいないはずなんですよ。執行委員会という公然性の高い場ではなおさらです。しかも、あの人は怒っている最中に周りの反応をつぶさに確認していました。・・・まるで、俺たちに理不尽な怒りを向けることで周りのヘイトを自分に集めるかのように。」
「!!」
「もしかしたら、あの人はこちらの味方なのではないですか?」
「・・・さあ、どうだろうな」
「しかしそうなると少し腑に落ちないこともあるんですよ。」
「なんだ?」
「あの人の演技が一部、本気に見えたんですよ。なんとなくですけど、あの人はこちらをかばいつつも少なからず不満をいだいてるような・・・いやでも、そうなると少し矛盾ができるんだよな・・・」
俺が少し考察していると、会長が俺のことを奇異なものを見る目で見ていることに気づいた。
「どうかしましたか?」
「・・・いや、早くも小鳥遊がお前を生徒会に誘った理由がわかった気がした。」
「・・・はあ」
うーん、なんか変なことをしたか、俺。
まあいいいか、とりあえず今は目先のことに集中しよう。
「よし、じゃあ海星先輩のところに行くか。」
「そうだな」
優が先に席を立ち、俺たちもそれに続いて椅子を直す。
多目的教室を出ようとしたところで、俺たちは思わぬ人物に出くわした。
一人は海星先輩、もうひとりは・・・誰だこの人?
うちは中高一貫校だから知らない先生がいることもありうるが、少なくとも俺には見覚えがない。
隣を見ると、会長と優の表情が明らかに曇っている。
ということは生徒会に関係する先生なのだろうか。それにしても二人の反応といい、こちらの味方かどうかは怪しいものだ。
その人の第一印象を一言で表すならばそう、蛇だろう。
外見は長身かつ細身、糸目ということもあり、まるで蛇のような鋭さ、狡猾さが感じられる。
俺はまだこの人のことをよく知らないが、なんとなくこの人は信用しないほうがいい気がする。
俺がそう思っていると、おもむろにその人が口を開く。
「これはこれは生徒会の面々じゃないですか、今回は私共のミスで迷惑をおかけしてすいませんでしたね。」
「・・・いえ、こうやって無事に収集したので大丈夫です。」
「そうですか、ならもう大丈夫ですね。多目的室の鍵閉めは私がやるのでみなさんはもう帰っていいですよ。」
「わかりました。」
会長がそう言って去ると、他のみんなもそれに続く。
俺もその後をついていくが、やはり雰囲気は悪いままだ。
その日の生徒会はそのあと直ぐに解散と相成った。
その翌日、俺は学校に登校すると、こちらを見る視線にいつもとは違う性質のものが混じっていることに気がついた。
「ねえ、あれってさーー」
「うんそうだよね。ーー」
それどころか明らかになにか陰口を言われている。
俺としてはそれが悪い性質のものではないことを祈るばかりなのだがーー
「え、マジ?うわ〜ないわ〜」
ーーどうやらそれは厳しそうだ。
というか俺なにかしただろうか?正直そんな変なことをした覚えはないのだが・・・
「おはよ〜」
そう考えていると優が遅れて登校してきた。
「お、透もおはよう」
「・・・なあ優よ」
「なんだ透よ」
「俺ってなんかしたか?」
すると本気で何を言っているのかわからなかったのか、優が、は?とでも言いたげな顔をした。
「なにかって何だよ。お前ついになにかしたのか?」
「いやしてねえよ、つーかついにってなんだついにって。俺がまるでいつも何か犯しそうな危険人物みたいじゃねえか」
「え、ちがうの?」
「よし優よ、遺言はそれでいいか?」
俺は腕を掲げて溜めを作る。
「ごめんごめん、冗談だって冗談。で、なにかあったの?」
「ふーん、まあいいか。いやなんか他のクラスメイトから変な視線を向けられているような気がしてな・・・」
「あ〜なるほどね。」
「ん?なんか心当たりがあるのか?」
「うんまあ一応」
ならば話は早い。
俺は目の前で両手を合わせて頼み込む形を作る。
「優、一生のお願いだ、その心当たりを教えてくれ。自分が知らぬ間に黒歴史を作っていたかと思うと気が気じゃない。」
「いやまあこれに関しては透は全く関係ないんだけどね、多分昨日執行委員会に出席してしまったのが原因だと思うよ。」
「ん?どういうことだ?」
優は少し気まずくなったのか、顔をポリポリとかく。
「あれで透が生徒会の一員だって皆に認識されてしまったんだよ。生徒会って人気がないからね。所属しているだけで色々と反感を買うんだ。」
「なにそれ、初めて知ったんだが」
「だって言ってないからね」
「なんで言わなかったんだ?」
「だって言う義理とかないし。そもそもこれ結構常識だから、知らない透のほうが異常なんだよ。」
「ゔ・・・というかなんでそんなに生徒会が嫌われているんだ?別に変なことをしているわけでもあるまいし」
「え、逆に聞いたことない?『無能な生徒会』とか『推薦狙いの集まり』とかいう悪口」
「あーなるほど」
そう言われれば聞いたことある気がしないでもない。
それでも直接会話に出てきたわけではないから、薄っすらと聞いたことがあるようなって程度だが。
「まあ透はそもそもクラスメイトとも殆ど喋らないからなあ。」
「うるせえ悪いか」
「そういうわけではないんだけど、でもせっかく根はいいやつなんだからさ。人並にコミュ力もあるし、もっと交友関係を広げたらいいのに」
「俺は優だけで十分だよ」
「と、透・・・」
優が感動したかのように目を潤ませる。
「というかこれ以上交友関係を広げたら読書の時間がなくなっちまう。それだけは絶対にいやだ」
「・・・さてはそっちが本音だな。」
「あれ、逆にさっきのを本気にしてたのか?」
すると優は顔に青筋を浮かべ、満面の笑みを作った。
あ、やべ、これガチのやつや。
優は静かに自分のバックを漁ると、中から裁縫道具セットを出した。
「さーて、まち針はどこだっけな〜」
「すいませんでした優さんもうしませんなので許してくださいお願いします。」
すると優は先程まで出しかかっていたまち針を元の位置に戻した。
「・・・貸し一つだからね」
「へいへい」
そんなこんなで雑談をしていると、そろそろ先生が来る時間になってきた。
「んじゃもう自分の席に戻るね」
「おう、じゃーな」
担任教師の影が見えたので、俺と優はそのまま解散した。
それからもずっと、俺に対する不愉快な視線はやまなかった。
それからいくばか経ち、時間は5時間目の休み時間、俺が心のなかにあるもやもやを考えないよう机に突っ伏し昼寝を決行していると不意に肩をトンッと押された。
「透ー。起きてるー?」
「・・・なんだ、お前か。鈴音。」
「えー、女の子に対して、お前かって酷くない?私これでも可愛い方だと思うんだけどなあ。」
俺が振り返るとそこには短い黒髪を肩にゆったりと流した俺の幼馴染がいた。
その容姿は幼馴染の色眼鏡をかけなくても十分可愛らしく、その明るい性格も相まって男女ともに人気がある。噂では校舎裏に呼び出され
たことも何回かあるとかないとか。
まあそんなでも俺にとってはただの幼馴染み、俺はいつもどおりの口調で返事を返す。
「てかなんでわざわざ俺を起こしたんだよ。何か用でもあるのか?」
俺は少しジトッとした目で鈴音を見つめる。昼寝中に起こされたのでこのくらいは許されるだろう。
すると俺の幼馴染も少しムスッとした顔でこちらを見てきた。
「どうもこうもないよ、なんで透くんが生徒会にはいっているの?」
何だそんなことか。
俺は質問の内容が予想通りで少し辟易する。
「そのことなんだがな、俺はまだ生徒会に入ってないぞ?」
「え、だってあんなに噂になってるじゃん。」
「いや、それはだなーーー」
俺は鈴音に俺が勘違いされるに至った経緯を話した。
「はあ、まあ透らしいっちゃ透らしいけど・・・」
鈴音は呆れたといったふうに肩を落とす。
「もうそんなに定着しちゃってるなら生徒会にに入っちゃえば?」
「そんなのは絶対嫌だ。大衆に惑わされるのはなんか負けた気がする。」
「なんでそんなところで意地張ってるの・・・はあ」
鈴音はそのまま体を反転させる。
「ん?もういいのか?」
「うん、やっぱりいつもの透だなって思ったし、いいや」
「はあ?何だそれ」
「さあね〜」
そのまま鈴音は去ってしまう。
ふあ、中途半端な時間に起こされたからまだ眠気が残っていたようだ。
俺は教室の時計を確認する。
今の時刻は12時50分、・・・よしこれならばあと10分は眠れるな。
そして俺はまた机に突っ伏したのだった。
いやぁ〜、たった二話目を投稿するのにこんなに時間がかかってしまい申し訳ありません。話はとっくに出来上がっているのに投稿自体を面倒くさがってしまい、こんなにも期間を空ける事となってしまいました。また、そうでなくとも私自身暇な時間が少なく、書くことすらままならない日さえありました。
まだまだ始まったばかりのこの話、決してつまらないものにはしないので、応援していただけたら幸いです。