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ルナティック メモリーズ  作者: うたかた
忌憶の章
3/4

キス

初めて眼の前でキスをしている人間を見たのは、便宜上(あるいは生物学上の)母親と小汚い男であった。


母親は少し頭の弱い人だった。

悪人ということではないのだが、妻子ある男とことを致してしまうほどには。


「結婚するの」

生物学上、血縁上、母親である彼女のことを私は家族だと思ったことはなかった。

だから、それを聞いた私が十歳になったかあるいはそれくらいの私にはどうでもいいことだった。

「お前も一緒に―――」

だが、一応扶養されている身の私には無関係でもない。

相手の素性を少し調べることにした。


相手の男は母親が働いている寮の住み込みだった。

部屋の広さは3畳くらいのタコ部屋みたいなところで、あちこちにウイスキーやビールの瓶があって私物はあまり無いようだ。

私は母親が仕事で男が風呂に入っているところに、忍び込んだ。

あちこちにある酒瓶に気を付けつつ、男のカバンを見つける。財布の中を見ると、数千円くらいでそう大した事ではない。

まあ、金には用はないのでどうでもいい。免許証を確認する。

名前――――年齢―――。

特に問題はなさそうか?

ぽとり、と何かが落ちる。

それは1枚の家族写真だった。

そこには笑顔の男と女性と子ども達の姿。

私はその写真をカメラで撮り、それをしまって部屋をあとにする。

私は素知らぬふりをして母親と男の関わりを見ていた。

それからしばらくして、私は男と同僚が馬鹿話をしているのを見かける。

―――おめえも悪いやつだよな。

―――奥さんいるくせに。

―――見た目はあれでもあっちの―――。

下世話な話ではあるが、男はまだ既婚者であることがわかった。(この時点の私は男女の体の関係の意味や内容は知らず、理解していない)


私は義理の祖父に事の次第と写真のコピーを添えて送り届けることにした。

義理の祖父は短気だが、行動力があるのでことを打ち壊すのには適任だと思ったためだ。


義理の祖父は私の思ったように動いた。

会社に怒鳴り込み、男を殴り飛ばす。

「クズが。どう責任取るんじゃ」

自分の暴力を棚に上げ、がなり立てる。

「お前もお前じゃ、バカタレ」

義理の祖父は私を蹴り飛ばした。

暴力には慣れているが、それ相応に効く。

元ボクサー志望だったとかで、老人の割に力は強い。

私はそのまま倒れたふりをしておく。

「お義父さん、やめて」

母親が部屋に駆け込んできた。

しかし向かう先は当然私ではない。

痛みに呻く男のもとに駆け寄り、男を庇う。

「このゴミがタレコミをしてきた。お前が妻子持ちの男と関係を持っていると」

義理の祖父は倒れたふりをしている私を踏みつけてきた。

私は抵抗せず、されるままにしておく。

母親は私に不快そうな視線を向ける。

そしてさも当たり前のように、

「あたしが幸せになるにはあんたは邪魔だね」

そう、のたまった。


そして男に口づけをした。


それから先のことは覚えていない。





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