ひっこま○こ
あれは、何年前のことだっただろう。
十年、二十年?
とても昔のことなのに、今でも思い出せる。
何がきっかけで始まるのかはわからない。
だが、それはいつも私の眼の前で行われていたように思う。
「ひっこま○こ」
その言葉がかかると老婆の飼っていた犬が喜々としてやってくる。
老婆はとても醜い顔をしていた。その醜さは年老たが故ではなく、その心の醜さを反映したがゆえだろう。
老婆は数年前に卒中で右半身麻痺とはいかないまでも不自由になったはずなのに。
犬の股ぐらに当てた右手はそれを感じさせない。
「ひっこま○こ、ひっこま○こ」
老婆の言葉にか、老婆の与える刺激にか、犬は狂喜する。
一分、あるいはもっとか、それがどれだけ続くのかはわからない。
犬はよだれを撒き散らし乱舞する。
老婆は醜い顔をさらに醜い笑みに変え、私をちらりと見る。
長い前髪に隠した私の表情が老婆にどう映っているのかはわからない。
しかし、満足そうに犬に目を戻す。
「ワン、ワァン」
興奮を抑えない犬はやかましく吠える。
「がんばれ、がんばれ」
老婆は言いながら右手をわきわきさせる。
それを見た犬はより興奮を高めて、狂乱した。
その行為の意味を知ったのはそれより大分後のことになる