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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

運命

作者: もーふ

『本日未明、○○県△△市で20代のオメガ男性の死体が発見されました。死体は包丁のようなもので刺されており。犯人は現在逃走中です。現場の近所のコンビニの監視カメラから刃物を持った犯人と思わしき人物が写っていました。犯人は黒いジャンパーと黒いズボンを着用しており、170cm代の男性と見られています。現在警察は捜査を続けています。次のニュースは…』

「物騒ね…あんたも気をつけなさい」

「んー」

 母さんからの注意に生返事で答える。遠くの県で起きたことだし、別に夜はそんな遅くまで歩いてるわけじゃない。母さんが思うほど心配することはない。

「じゃあ行ってくるよ」

「はい行ってらっしゃい」



 今日は待ちに待っていた図書委員会の日だ。一緒に当番をする佐藤さんと話せると思うと自然と気分も上がる。

「おはよ!ニヤニヤしてたけどどうしたんだ」

「まじ?笑ってた?」

 気分が上がるだけでなく、他人から見てすぐに分かるほど頬も上がっていたらしい。なんだか凄く恥ずかしくて居た堪れない気持ちになった。それを見た友人は笑いながら話を続ける。

「おう。あ、分かったかも。今日水曜だからだろ?」

「ちが、くないけど…」

「へへ。今日もいっぱい話せるといいな」

「…うん」


 授業を上の空で聞いているとすぐに放課後はやって来た。すぐに図書室に向かいたいが、生憎今週は教室の掃除当番だ。掃除当番なのに喋っているクラスメイトに少し苛立ちを覚える。口を動かすなら手も動かしてくれ。まあ、そんなこと言える勇気なんてあるはずもない。自分が素早く掃除した方が手っ取り早いとせっせと机を運んだ。

 掃除を終えて図書館に向かうと佐藤さんは既にカウンターにいた。佐藤さんは僕に気がつくとにこっと笑った。

「こんにちは佐藤さん」

「こんにちは鈴木君。今日掃除だった?」

「うん」

「やっぱり。鈴木君いつも早く来るから今日は掃除で遅いのかなって。私貸し出してるから鈴木君は返却された本を棚に戻してくれる?」

「まかせて」

 この中学の図書室の利用者はそんなに多くない。だから本の貸し出しや整理などは委員会の始まってから十数分で終わってしまう。それでも図書委員の当番は1時間と決まっているわけで、殆どの時間は来もしない利用者を待ちながらカウンターで佐藤さんと小声で話している。

「もう来ないかな」

「そうかもね」

「今日は凄い晴れてるね」

「最近雨が続いてたから久しぶりだ。体育ずっと体育館で狭かった」

「確かに。もう少ししたら梅雨明けそう」

「そしたら暑くなるかな。やだな」

「中学校ってなんでエアコン付いてないんだろう。熱中症になっちゃうよ」

「早く夏休みになってほしいね」

 話すことはたわいのない話だ。その日あったこととか夏休みのこと、テストのこと、授業中に蜂が入ってきてパニックになって先生が一番ビビっていたこととか。でも僕はそんななんて事のない会話が好きだ。

 そんなこんなで話していたらすぐに委員会の時間は終わる。帰る用意をして校門までは一緒に帰る。残念なことに佐藤さんと僕の家は反対方向にあるため校門で別れるのだ。

「また来週ね」

「うん。またね佐藤さん」

 また来週ね、そう言って佐藤さんは僕に笑いかける。その笑顔を見て顔が赤くなったのがバレないように直ぐに振り返って家に向かった。



 今日は病院に行くからなるべく早く帰りたいって言う時に限って帰りのホームルームが長引く。ようやく終わったホームルームに安心しながら、友達に声をかけて急いで帰る。いつもよりも15分程学校から出るのが遅れてしまった。病院の時間に間に合わなくなるかもしれないから近道をして帰ろう。いつもの道は整備されてて歩きやすいけど、近道はいつの時代からある階段だよってぐらい古ぼけている。おまけに階段が急で通りにくい。だから普段は回り道になってしまうけど整備されている道を使う。でも今回みたいに急いでいる時は話は別だ。僕はその急な階段に気をつけながら降りて家に向かった。


「母さん、なんで今日病院なの?」

「健康診断で採血に引っかかったって言ったじゃない」

「…それってやばい?」

「それを詳しく調べるための今日の検査よ」

 もしかしてやばいのか?なんて急に不安に駆られてたら自分の名前が呼ばれた。診察室に入るとおじいちゃんの医者と看護師がいた。

「どうぞ座ってください」

「こ、こんにちは」

「こんにちは明くん、最近の体調はどうだい?」

「え?特に何とも…」

「体の変化とか感じない?」

「特にないです…」

「そうか。今日病院に来てもらったのはね、学校でやった健康診断の採血であるホルモンの値が高かったんだ」

「えと、それで?」

「落ち着いて聞いてほしいんだけど、君はΩの可能性がある」

「え?」

「今日は君の性別を確認するための検査のために来てもらったんだ」


 そのあとは超音波だとかctやらとかで検査はした。両親はβだし自分もそうなんだと思ってずっと生きていた。だから今まで信じていた性別と違うかもしれないのは怖かった。…自分の中の何かが崩れるような気がして。検査が終わったあとまた看護師さんに呼ばれた。恐る恐る診察室に入って、その時の先生の顔を見て話を聞かずとも分かってしまった。

「検査の結果は…」

 その後のことはよく覚えてない。先生と看護師さんが発情期だとか、薬のことだとかバースに関わることを伝えてくれた気がするけど、何も頭に入らなくて、その日は家に帰ってすぐに部屋に戻った。




「鈴木、今日図書委員会だろ?悪いけど本返しておいてくんね?」

「あっ、そういえば今日水曜日か」

「熱心なのに忘れてんの珍しいじゃん。悪いけど頼むよ」

 そう言って本を僕に押し付けた友人は教室から出て行った。まあ委員会で図書館行くからいいんだけどさ…。押し付けられた本を抱え、図書館に向かう。その途中で丁度佐藤さんと合流した。

「あ、やっほー鈴木君」

「佐藤さん」

「委員会だよね?一緒に行こ」

「うん」

「それ、何借りてたの?」

「ああ、これは友達に返却押し付けられちゃって」

「通りで。いつも鈴木君が読んでるジャンルと違うと思った」

「押し付けられてすぐ逃げられちゃったよ…」

「…鈴木君何かあった?」

「え?」

「何か今日元気ない気がして」

「そんなことない…いや、本当は元気ないかも。ちょっと色々あって」

「そっか…なんか嫌なことあったなら話聞くよ。あ、勿論話したくないならいいけど…」

「…ありがとう。でもごめんまだ自分でも上手く飲み込めなくて、何て言ったらいいか…」

「じゃあ、今じゃなくていいからさ。何か話したくなったら話してよ。待ってるから」

「…うん、ありがとう佐藤さん」


 委員会の仕事を終わらせていつも通り校門で佐藤さんと別れた。それにしても佐藤さんは優しい人だ。…やっぱり好きだな。なんだか少し気分が軽くなった気がする。そう思いながら家に向かっていると急に雨が降り出した。しかも結構強い雨だ。…今日は折り畳み傘を持ってきてないのに。

「近道通るか…」


 急いでいるとはいえ、注意しないと。雨で階段が滑りやすくなってるかもしれないし。なんて考えながら近道の階段に着くと小走りで下から人が登ってきた。あの人も傘を持ってなかったんだろうな…。

 そう思ってなんとなくその人の顔を見た瞬間、全身に雷が落ちたかのような衝撃が走った。

 足が止まる、息ができない、何故だか彼から目が離すことができない。今まで一度も感じたことのないこの高揚感。抑えることが出来ないこの感覚。

 これが一体何なのか分かった。…分かってしまった。…この前Ωと宣告された自分。そういえば医者の先生も話してたっけ、それによくあるラブコメの話。急に止まった僕を不審に思ったのか彼は僕に話しかけてきた。


「…あの、大丈夫で…」

言い終わる前に彼は動きを止めた。きっと彼は僕と同じことを感じている。目の前の彼が運命だと。


運命の番。きっと彼とは相性がいいんだろう。きっと僕は彼が好きで、彼は僕を好きなんだろう。きっと彼となら幸せな未来を送れるんだろう。


「あ、あの」

目の前の彼が僕に手を伸ばす。


ああ、でも。怖かった。こんなたった一瞬、彼を見ただけで何も出来なくなる自分が。…好きだった人が塗りつぶされていくのが。


 だから怖くて、怖くて、伸ばされた手を振り払った。僕に振り払われてバランスを崩した彼は足を滑らせた。古ぼけた、手すりもない階段。この急な階段を彼は落ちていった。彼の身体が地面に叩きつけられる。彼の身体から血が流れ出る。彼は動かなかった。

 僕は逃げた。いつも使ってる道に走った。



『本日のニュースです。□□市〇〇区4丁目の階段直下の路上で、近所に住む高校生が倒れているのが見つかり、その後死亡する事故がありました。警察は事故の当日には雨が降っており、滑りやすくなった階段から転落したとみて調べています。事故が起きた階段は年季が入っており、安全性に欠けていたとの情報が入ってます。次のニュースは…』

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