1話 暗黒の森の小さな小屋
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「ノア!」
弓矢を背負った少女が身軽に木の上から降りて走り出す。
髪は艶のある長い銀髪、それを紐で頭に巻き付けるようにして髪飾りで纏めている。キラキラときらめく翠眼、柔らかく色づく唇。服は柔らかくドレープのあるゆったりした膝丈のチュニックのようなもので、それを体に沿うように紐を巻き付けている。足には膝までの革の編み上げブーツ。
彼女が走る先にいるのは一人の青年。
「リーア」
ノアと呼ばれた青年は少女に笑顔を向ける。
帯剣し、鍛えられた肉体の背の高い男だ。黒髪に深い青い目、年の頃は20代くらい、着古したシャツにトラウザー、ブーツといった格好だ。
「鳥の巣か?」
「うん!近づくと警戒するからとなりの木に登ってみてたの。雛がかえってたよ。ほわほわですごく可愛いの!」
「そうか」
ノアは少女の頭に手を置くと、目を細めた。少女はくすぐったそうな顔で青年を見上げる。
「ほら、早く弓を片付けておいで。飯の支度の時間だぞ。今日はオーブンに火を入れるんだろう?」
「はーい!」
少女はぱたぱたと走って彼らが住む小屋へ入り、背中の弓を弓立に置くと台所へ向かう。
「えーっと、今日は昨日取ったムキの葉とトメロの実があるし、鶏の卵は4つあるから……」
少女は材料を確認して集め、作業台に置く。そしてまずは慣れた手つきでパイ生地を作る。バターに小麦粉、砂糖。そして卵黄、水に塩。生地をまとめてしばらく置いておく。
その間に肉にスパイスを摺り込みオイルを塗る。野菜を井戸で洗い、笊に入れて台所へ戻る。
小屋の外では、青年がこちらも手馴れた様子で薪オーブンに火を入れている。
少女は肉、ゴロゴロに切って塩をふった芋のような野菜、トメロを並べたプレートを小屋の外のオーブンのところにいる青年に渡す。青年はオーブン係だ。
少女は台所へ戻るとサラダを作り始める。
レタスのようなムキの葉を軽く手で裂いていき、オイルと塩、酢、胡椒で作ったドレッシングで和える。ハーブを適当に選んで刻み、サラダの上にパラパラと振りかける。
昨日ノアが森で取ってきたムルの実を洗う。ムルの実はラズベリーのような木の実で、甘酸っぱくて美味だ。生で食べてもいいが、ジャムにしてもいい。
「沢山食べたくて畑に植えたけど、なかなか大きくならないのよね。来月までは実がなるから、ジャムにして保存したいし、またノアに森で採ってきてもらおうかな」
2年前に庭の隅に植えたムルの木はまだ1メルトほど。実をたくさんつけるのは数年先だろう。今年はほんの数個しか実らなかった。
パイ生地は半分をキッシュに、半分をデザートのパイにする。カスタードパイは青年の好物だ。キッシュに入れる具材を切り、コンロで炒める。続いてパイ用のカスタード。カスタードを作り終わったら、コンロには今朝がた作ったスープの鍋をかけて温めなおしておく。
石窯オーブンに火を入れるのは二日に一回。毎日の食事は小屋の中の台所のコンロで作る。
青年が小屋へ入ってくる。
「リーアも飯の支度がうまくなったな。もう一人前だ。」
「ほんと?!」
「ああ。」
「嬉しい!」
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1メルト=1メートルくらい
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