サーファー、交差点に現る~女神のサイコロが出した目は~
初投稿作品です。
サーファーはモテる。
日に焼けた肌。荒波に鍛えられた肉体。そして、海という爽やかなステージ。モテる要素しかないんだ、そりゃモテるに決まってる。
もちろん、サーファーといっても実際にサーフィンが上手くなければモテるわけがない。その点、女を次から次に取っ替え引っ替えできるほどモテる俺は、サーファーとしての腕もそれなりにある。
パドリング——サーフボードの上で腹ばいになり、海水を漕いで進む動作——をこなし、華麗にテイクオフ。そうやってまた女たちをキャーキャー言わせようとしていたのに。
どうして俺は交差点にいるんだ・・・・・・!?
◇
老若男女、交差点を歩く人々の視線が突き刺さる。やめろ、そんな目で俺を見るな。俺、普段はモテモテの超リア充なんだ。女が片っ端から集まってくる、水も滴るいい男なんだ。
そもそもここは、どこの交差点なんだ? 辺りを見回すと、女たちは俺の方を思いきり睨みつけてくる。待て待て。俺はただサーフィンをしていただけなんだ。決して怪しい者じゃない!
なんとか弁明しようとする俺の前に、警察官が歩み出る。
「交差点に海パン一丁の男が現れたと聞いて来たんだが……君、そんな格好で何をしているんだ?」
「いや、あの、違うんです! 俺はサーフィンをしていたんですが、気がついたら海じゃなくて交差点にいたんです!」
俺の答えを聞いた途端、警察官は「駄目だこいつ……」という顔になる。気持ちはわかるが、実際そうなったんだから仕方ない!
とにかくこの状況をなんとかしないと……と周囲を見渡せば、先ほど俺を睨みつけていた女たちがブツブツと何か言いながらこちらへ近寄ってくる。
「最低」「クソ野郎」「キモい」「女の敵」「死ねばいいのに」
唐突に浴びせられる罵詈雑言の数々。なんだ……理不尽な状況に追い込まれた俺は、思わず叫ぶ。
「なんだ! お前ら! 見ず知らずの他人が、ゴチャゴチャ言うな!」
その瞬間、世界が暗転した。
◇
気がつくと今度は、暗闇にいた。
「神であるわらわが改心の機会を与えたのに、そなたはそれを無下にしたか」
困惑する俺の前に、闇の中から深緑色の着物を纏った少女が現れる。少女はサイコロの入ったお椀を転がし、「残念だのう」と口を開いた。
「人は神に『悪しき者に裁きを』と願うが、この世に悪人は数えきれぬほどおる。だからわらわはサイコロで適当に悪人を選ぶが、それではあまりに不平等。故にわらわはどのような人間にも悔い改める時をやっておるが、そなたは自らの過ちに気づけなかったようだのう」
神? 裁き? いきなり壮大な単語が登場して戸惑う俺に、少女は続ける。
「交差点でそなたを責め立てたのは、そなたが過去に弄んで捨てた女たちじゃ。中には悲しみのあまり自害した者や、子を堕ろした者もおる。そなたがそれに気がつき、必死で許しを請えばそなたに救いがあった。だが、そなたは気づけなかったようだのう」
捨てた女……?
必死に記憶を手繰りよせると、女たちの中には確かに見覚えのある顔がいた気もする。だが俺はモテる男なのだ、関係を持った女の数なんていちいち覚えていられるはずがない。
そう思った瞬間、足下に冷たい空気が走った。
見ると俺の小麦色の足が、凍り付いていくのが見えた。それとともに地割れが起き、俺は奈落の底へと引きずり込まれていく。
「ま……待て! 俺は、これからどうなるんだ!」
叫ぶように尋ねれば、少女はニィッ……と笑って答える。
「そなたは人生の波に乗ったと調子づいて色欲に溺れ、藁をも掴めず沈んでいった愚か者じゃ。ならばもう、流されていくだけに決まっておろう」
少女はそれだけ言う俺にサイコロを投げつけ、踵を返す。体中が氷に包まれ、割れるような痛みの中最後に俺が見たのは三つのサイコロ。
「四」「五」「九」
地獄……俺は、地獄に流されるのか……
凍てつく寒さの中で俺の意識は薄れ、やがて闇へと呑まれていった。