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黒幕の女装少年に懐かれています。

作者: ちゃこ

 

 漫画《赤き血の果てで恋をする》


 魔法学園に通う女主人公オフィーリアの友人ラリサがある日突然、何者かの手によって惨殺された。


 オフィーリアはラリサの婚約者・男主人公サイラスとともに大切な友人であるラリサの死の真相を探り、やがて彼と恋に落ちる──という話で。


 黒幕はサイラスの両親がとある理由で女として育ててきたエミリオという少年。


 閉ざされた世界で育ったエミリオにとって、サイラスが世界の全てであり、執着の対象だった。


 そのため、サイラスの婚約者を惨殺し、オフィーリアを監禁して彼女の体を乗っ取ろうとした。



 私はその物語のエミリオが最推しだった。


 桃色のロングヘアーにまっすぐに切り揃えられた前髪。

 長いまつげに縁取られた水色の瞳は星がちりばめられたような描写で愛らしく、趣味が可愛い洋服集め・ぬいぐるみ作りなもので、登場するたびに様々な衣装で読者を楽しませてくれた。


 ちなみに私は不思議の国のアリスのような衣装が大好きで、スマホの待ち受け画面に設定していたほど。


 エミリオは一緒に育ってきたサイラスに淡い恋心を抱いていたが、男という理由で愛を受け入れてもらえず、どろどろに病んでいるがそこも好き──だったのだが。





      ※※※



「おねえさま──先程話していた男性はどなたですか?」


「エミリー。道を聞かれていただけよ。田舎から出てきたばかりで何もわからないんだって」


「そんなのおねえさまに近付くための嘘に決まっています。少し離れただけでこれですもの。…滅ぼしてやりましょうか…」


 ふふふ、と令嬢らしく優雅に笑うエミリオが私を見上げる。だが、目が全く笑っていない。嫉妬心を隠そうもせず、腹黒いオーラがにじみ出ている。

 14歳という幼さなのになんたる迫力だろう。


 そして私の腕に両手を絡ませているのだが、外見女中身男のため見た目に反して力が強い。

 魔法薬で声変わりを遅らせているエミリオの声は、美しく澄んでいるのに吐き捨てる言葉は限りなく黒い。


 ただ、平和な街の通行人には女の子同士仲良く楽しくはしゃいでいるようにしか見えないんだろうな。


 エミリオ──女装中の名前はエミリー。

 そして私の名前はラリサ・デュミナス。このエミリオに惨殺されるキャラクターなのである。


 そして、


「ラリサ嬢、いつもうちの従妹が迷惑をかけて申し訳ありません」


 少し遅れて歩いてきたのは、サイラス・アルステッド。

 この物語の男主人公である。

 両手にはエミリオの戦利品である有名洋服店の紙袋を大量に抱えている。


 男主人公というだけあり、精悍な顔立ちに筋肉質で引き締まった長身は周囲の女性たちの視線を集める。


 サイラスは、私にべったりなエミリオを見て困ったように眉を下げた。



「サイラス様、気にしないでください。エミリーはとても可愛い妹のような存在なんですから」


「おねえさま…!嬉しい…!」


 これは、本心だ。たまに男だということを忘れそうになる。

 エミリオが瞳を輝かせて、私の腕に頬擦りする。


「…ほんの2年前までは俺にべったりだったんですがね。少し寂しい気がしますよ。人生何が起きるかわかりませんね」


 

 何とも言えない複雑そうな表情でサイラスが笑った。

 私も笑い返しながら、ふと思う。

 人生何が起きるかわからない──たしかにそうだ。

 本来なら、私はもうエミリオの手で死んでいるのだから。




   ※※※




『初めまして、私はサイラス・アルステッドです』


 2年前の14歳のある日、隣国ベルクードから婚約者にどうかと連れてこられた少年・サイラスを見た瞬間、私はこの世界が漫画の中の世界だということを思い出してぶっ倒れた。


 夢かと思い何度か湖に飛び込んだり、ベランダから飛び降りたけれども、ただケガをしただけだった。


 私が好きだった漫画のキャラクターに会えて嬉しい反面、私が憑依したラリサという少女は2年後にエミリオに殺される──


 前世では平凡な人生を送っていた私だがラリサは違う。

 領主の父を持ち、贅沢な暮らしを送ることができた。


 さらに作中では詳しく描写されていないがなかなかの美少女で。

 たった16歳で生涯を終えるにはもったいない。


 輝かしい未来をつかむことができそうだった。


 16歳でサイラスとの婚約が決まる前に、まずエミリオと親しくなろう。

 愛情に飢えた彼を手懐け、サイラスへの執着を捨てることができれば生存確率が上がるだろうと考えた。


 原作を知る私はある意味無敵だ。


 自然な出会いを演出し、私への興味を抱かせる作戦を立て、速やかに決行した。


 そして、彼は──私に執着することとなる。




   ※※※

 

「おねえさま、見てくださいませ。おねえさまの瞳のような紫水晶のペンダント…これを身に付ければいつでもおねえさまを思い出せますね、ああ、なんて美しいんでしょう」


「エミリー…ラリサ嬢が引いているぞ」


「婚約を断られたくせに、わたしのおねえさまに近寄らないでいただけますか?おにいさまは汗臭くて嫌です」


「なっ!訓練後にちゃんとシャワーを浴びてきたぞ!」


「存在自体が汗臭いんです。胸元のボタンもきちんとお止めになって?筋肉アピールですか?筋肉しか誇れるものがありませんものね」


「エ、エミリィィ…」



 原作は変わったと思う。放課後の学園都市ゼクスに響き渡る私たち三人の笑い声がその証拠である。

 念のため、サイラスとの婚約は断った──が、彼は友人というポジションで関係は良好だ。

 ちなみに護衛という名目でショッピングに付いてきている。



 しかし、私と二人っきりで過ごしたかったらしいエミリオはサイラスを荷物持ちにしたり、様々な無理難題を押し付けては彼を困らせる。


「おにいさまは少し離れたところにいてくださいな。邪 魔 で す」


「っ!」


 エミリオはドレスを軽くたくしあげると涼しい顔でサイラスの向こう脛を蹴った。

 その様子がおかしくて、ついつい口元が緩んでしまう。


「…ラリサ嬢…笑わないで貰えますか?ここは急所なんでね。とても痛いんですよ」


「すみません、サイラス様」


「おねえさま、謝らなくても大丈夫ですよ!おにいさまの日々の鍛練が足りないだけですから、お気になさらないで」


「いやいや、あのな?鍛練でどうにかなる問題じゃないだろう」


「それでもベルクードの騎士ですか?どうにかなさって」


「どうにかなるならそうしてるよ!騎士をなんだと思ってるんだ」


 軽口を叩き合う二人を交互に眺める。一緒に育った二人は純粋に仲が良くて目には見えない絆がある。

 その間に自分がいるのがいまだに不思議だ。



 ラリサに馴染んだ弊害か、原作の流れがところどころ思い出せなくなってきているけれど、たぶん私は殺されない。



 原作改変したけれど──私は今日もこの世界で生きていく。 

 

 

長編小説を書きたいなぁと思ったらまず短編小説を書くようにしてます。

無理矢理まとめたので変だとは思いますが楽しんでいただければ幸いです。

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