9.殺されかけてた
「な、なんでその名前を!」
顔面蒼白。
今度こそ絶対絶命。
馬車を降りたら外にユナがいる、ってオチじゃないでしょうね。
「アレン男爵家に押し掛けてきた。
すぐ追い返したけどね。
誰から情報が漏れたのか知らないが、極秘訪問だったから、男爵家は厳罰に処せられるだろうね」
「厳罰。縛り首とか?」
「いや、情報漏洩だから、せいぜい領地の一部を取り上げられるくらいかな」
えっ。軽く言ってますが、結構それ死活問題じゃない?
「漏らした者は牢獄行きだね。
事と次第によっては一生出られないかもね」
いやいや、マティスさん、そんなに軽く人の一生を。私も縛り首?とか言ったけど。
でも厳罰ってことは、それって。
「マティスが来てた事がそんなに重大な秘密って事なの?」
「あっ、わかっちゃった?
だから君たちも余計な事を漏らせば」
そう言って手で首を掻き切る動作をするの、
怖い、怖い、
ギルティはやめて。
「冗談だよ」
これだけ脅しておいて今更冗談とか言われてもね。
キラキラスマイル効果も半額シールが貼られてますよ。
「で、やっぱりあのユナが妹?」
もう誤魔化しきれない。
「ハイ、ソウデス」
ちょっと棒読み。だって妹って思いたくない。
だって、あいつ、今度は私の事、殺そうとしたんだよ!
それも2回も?
あれっ、前世の記憶が戻ったショックで肝心な事忘れてた!
記憶が戻ったのは階段を躓いたんじゃない、
ユナに突き落とされたんだ!
「アリス、私また、ユナに殺されかけた」
物騒なセリフだけど真実だからね。
「えっ、またですか!もしかして階段から落ちたのはユナ様に突き落とされたのですか」
「うん、今思い出した。さっきはいろいろ混乱してて躓いて転んだと思っていたけど、ユナが後ろから死ね、って言って押したから落ちた」
マティスさん、すごい目が点になってます。
イケメンオーラ消滅危機。
「何、実の妹に殺されそうになったの?
それもまたって、前にもあったって事?」
そうそう、ちょっと前にもあったのよ。
その時はユナが直接じゃなくて、ユナのメイドが、あっ、そうか。
「マティス、アレン男爵家への訪問が決まったのはいつ頃ですか?」
「10日ほど前だね」
「男爵家にはすぐ連絡されたんですよね」
「うん、そうだね」
ビンゴ!
「情報漏洩の犯人わかりました!
ユナのメイドのイリスです。
イリスの従姉妹がアレン男爵家のメイドで
情報筒抜けなんです」
マティスが驚いた顔してる。
キラキラオーラ復活。
「間違いない?」
「間違いないです。ユナの命令で私を殺そうとしたくらいだから、情報漏洩もクロですね」
マティスさん、またまた驚愕のおめめパッチリ。
「殺そうとした?それはどうやって?」
はいはい、お答えしましょう。
質問大魔王様。
「4日前の夕飯に毒を盛られました。
私、下働き扱いだったので食事はメイド達と台所で食べていて」
「その時は、台所にイリスしかいなくて、
いつもは絶対に私に配膳なんてしないのにわざわざ配膳して渡すので、変だなと思ってお皿を見たら、紫色の毒が見えたんです」
「それ、誰も食べないよね」
おっしゃる通り。
「いえ、多分私にだけ見えたみたいです。
知らんふりして、食べているフリをして、
あっ!ネズミーーー!って叫んでイリスの注意を引いた隙に皿を交換したんです」
「そしてそれを知らずに食べたイリスが血を吐いて倒れて、それから今日までずっと瀕死の状態です」
アリスもうんうん頷いて加勢してくれる。
「私はその時ユナ様に急な用事を言いつけられて、同席出来なかったんです」
ねっ、真っ黒黒助でしょ。
「それが事実なら殺人未遂と情報漏洩。
本当に縛り首ものだな」
えっ、捕まえてもらえます?
あの悪役令嬢ユナを!
私が皿を交換したのはもちろん免責条項ですよね?
「でも実行犯は瀕死で証言出来ないよね。
階段の方も目撃者はいないんでしょ」
「そうですね。私が最初に倒れているお嬢様に気付いたのですが、あの時は屋敷には執事しか居なかったですし」
待て待て、アリス。
お嬢様に戻ってるって。
いや、もうとうにバレてるよね。
「とにかく、この件は調べさせよう。
間も無く今日の宿に着くから、その時指示するよ」
えっと、マティスさん、何だか偉そうオーラだだ漏れしてますけど。
そうこう言っているうちに馬車が停まった。
アレン男爵領から半日馬車に揺られて着くのは、ポミエ伯爵領だ。
泊まりか。
ユナが追いつきそうで怖い。
「大丈夫。ユナからも守るから」
マティスさん、キラキラオーラ百万倍です。