6.冤罪
ようやく領都に到着したので、私たちは急いで馬車を斡旋してくれる商会を探して歩いた。
街の人に聞いたら、アレン男爵の屋敷の近くに大きくて信用できる商会があると聞いたけど、ユナの次はアレン男爵家!
一難去ってまた一難、絶対に男爵家の人たちに見つからないようにしなくちゃ。
こそこそと物陰から物陰へ移動しながら、男爵の屋敷に近づいていく。
「あっ、あれじゃないですか」
アリスが屋敷の右隣を指差したので、見てみると、あるある、大きな商会が。
「よーし、突撃ーーーーーー」
掛け声を上げて商会に駆け出そうとすると、
ふいに体が宙に浮く。
「な、何」
足をバタバタさせて暴れてもビクともしない。
「お嬢様に何をするんです」
アリスが大声で叫ぶ。
アリス、お嬢様はダメだよー、
大声もダメだよー
ようやく首根っこを掴んでいた相手が、私を下ろす。
「何するんですか」
私が猛然と抗議しながら見上げると、どう見ても騎士といった出で立ちの赤毛の男性が見下ろしている。
「お前こそ今何をしようとしていた」
何って、そりゃ馬車を雇おうとしてたんです、と言いかけたところで
「どうした?」
と後ろから声がする。
すると赤毛の騎士が敬礼し、
「怪しい女を捕捉しました」
へっ?怪しい女って私の事ですかー?
少し怒りながら振り向くと、何とキラキラした美青年がいた。
うわー、眩しくて目が潰れる。
目を合わせちゃダメだ、石になるぞ。
と呟きながら、目を逸らす。
美青年は私のそばにツカツカとやって来て、
ジロジロとガン見している。
目を合わせたら負けだー、と意味不明な戦いを自分に強いて、ひたすら目を逸らす。
はっ!
こんな事してる場合じゃない。
早く王都へ向かわないと。
「私たち、あそこの商会で馬車を借りようとしていただけですけど」
すると赤毛の騎士がキラキラ美青年に説明し始めた。
「この二人の動きは明らかにおかしかったです」
「こそこそと物陰から物陰へ移動して、マティス様が商会から出てこられると、指差して、突撃ーーーと叫んで駆け寄ろうとしました」
いや待て、完全に誤解だよ。
このキラキラ美青年が出てくるのなんて、気付いてないし。
「それにこの娘、明らかに何か隠し持っています。体が異常に重いのです」
ヒィーーーーーーー。
レディーの体重の事、そんなに大声で言う?
仮にもあなた、騎士じゃないのーーー。
気を取り直して、反論しなくちゃ。
「あの、完全に誤解です。
いや、冤罪です。
私たちは急いでいて、
馬車の手配が出来る商会を見つけて嬉しくて駆け出そうとしただけです」
キラキラ美青年が赤毛の騎士に、どうなんだといった目線を送っている。
「でも体重が、」
赤毛の騎士よ、まだ言うかーーーーーー。
キラキラ美青年は私をジッと見て尋ねた。
「私が誰か知ってる?」
「今初めて会ったのに、知るわけないです」
ここは強くキッパリ言わないとね。
ふーん、と言った感じでキラキラ美青年はまだ私を見ている。
「あの、もう行っていいですか。
私たち、本当に急いでいるので」
何だか周りに人が集まってきているし、時間もない。
「馬車でどこまで行くの」
キラキラ美青年が笑顔で聞いてくるけど、
そんな事この衆目の場面で言えるわけないでしょ。
「秘密です」
赤毛の騎士がまたいきり立って
「ほら、やはり変ですよ」なんて言ってる。
もう、無視だね。無視。
私はアリスの手を引っ張って商会へ向かう。
すると、後ろからあのキラキラ美青年がついてくるじゃない。
いや、かまっているヒマはない。
急いで商会に入り、お店の人に小さな声で尋ねる。
「王都まで馬車を借りたいの。出来れば用心棒も」
店員さんは帳簿を見て困った顔をしてる。
「今からですか?
残念ながら今日貸馬車は全部出払っていて
無理ですね。明後日なら一台戻って来ますが」
しばし固まる。
「詰んだ」
明後日までアレン領都にいたら、
十中八九、ユナに見つかる。
どうしたらいい。
私がうんうん言いながら頭を抱えていると、
さっきのキラキラ美青年が側に来て囁いた。
「王都へ行くのなら私の馬車に乗せて行こうか」