3家族まるごと
気がつくと、自分の寝室に寝かされていた。
帰ろうとする医者をアリスが見送っていた。
アリスは私の意識が戻った事に気づくと、急いで駆け寄って来てくれる。
「ルナお嬢様、大丈夫ですか」
「アリス」
何故だかアリスの心配そうな顔を見たら涙が止まらなくなる。
泣きながら転生したこの世界の事を考えた。
私が転生したのは異世界ロシニョール王国。
剣と魔法のファンタジーな世界だ。
今私は15歳。
トーマ子爵家の長女だ。
そして、
家族を顧みず愛人三昧の子爵が父親、
贅沢三昧に暮らしている上にこれまた愛人を囲っていて、妹ばかり可愛がる母親、
ありとあらゆる嫌がらせをしてくる双子の妹。
‥‥‥…………………………………………。
私、転生したいって確かに思ったけど、
思ったけど、
家族まるごと転生したいなんて、これっぽっちも思わなかったんですけどーーーーーー。
そして、更にイヤな事に気づく。
あいつまでいる。
私を裏切って妹ユナを孕ませた婚約者レン。
いや、元婚約者。
あいつは隣の領地アレン男爵家の長男だ。
名前もレン。何だ、それ。
私、言葉使いは悪くないんです。本当はね。
だけど、こんなに前世でも転生先でも、
こんな扱い受けてたら、あいつら、とか、
こいつら、とか、お前らーーーー、とか
言いたくなるのもわかるでしょ。
泣きながら、はぁーっと息を吐く。
アリスが心配して覗き込む。
「お嬢様、大丈夫ですか?
お医者様はちょっとした打撲だけだとおっしゃっていたけど、辛そうです」
そして、小さな声で囁いた。
「今なら誰も居ませんから、魔法を使っても大丈夫ですよ」
そうなのよね。
私、この世界では魔法を使えるの。
それも使い手の少ない癒し魔法を。
もちろん、アリス以外は誰も知らない。
おそらく私は小さい頃から、薄々前世の記憶があったのかもしれない。
父親にも母親にも何となく嫌悪感があった。
妹に関しては、側にいるのすら嫌がって、避けていた。
そう言えば、まだ10歳位の頃、アレン男爵家からレンとの婚約話が出たけど、
「絶対にイヤ、婚約させたら死んでやる」と
普段大人しい私が泣いて拒否したから、
流石のあの父親と母親も諦めた。
まぁ、男爵家で玉の輿でもないから、あっさり諦めたとみてるけど。
それなら、妹をという話にはならなかったし、ユナは多分私に嫌がらせをしたいだけだから、私が嫌がるレンには興味無かったに違いない。
薄ら記憶があったのか、もしかして本能的なものなのかわからないけれど、幼い頃から家族を警戒して、本音を話さず、魔法の能力も隠してきた。
ただ1人、小さい頃から庇って優しくしてくれたメイドのアリスを除いては。
私は決心した。
「アリス、私決めたわ。この家から離脱する。必ずする」
アリスはルナが受けてきた仕打ちを十二分にわかっていたので、唐突な話でも頷いてくれた。
「その時はアリスももちろん一緒だよ」
前世の記憶が戻ったからには、一刻も早く、この家から離脱しなくては。