21.フラグ立ちまくり
マティスがいつまでも離してくれないので、
「離して」と小さい声でお願いすると、
マティスは私の顔を繁々と見て言った。
「やっと、その気になってきたみたいだな」
はー?なに?
その気って。
そりゃ、マティスの腕の中は結構逞しくて、キスは優しくて、うっとりしちゃったけど。
私はこういう経験がゼロだったんだからね。
ちょっと女慣れした人ならお手の物でしょ。
「マティス、女慣れしてる。やっぱりたらしなの?キスも上手すぎる!誰とも比べられないけど、うっとりしちゃったもの」
マティスはまた満面の笑みを浮かべて言った。
「うっとりしちゃったんだ」
なに、その嬉しそうな顔。
ああ、狼の牙にかかった哀れな乙女がまたひとり。
私だけどね。
マティスはまた真面目な顔になり、帳簿を見ながらポツリと言った。
「これを取り返しにトーマ子爵が追いかけてきそうだな」
やめて、よして、ふれないで、フラグ立つから!
ただでさえ、ユナは確実に追いかけて来てるよね。
「もしかして、宝石も持ち逃げして来た?」
マティスさんさぁ、聞き捨てならない事、言わないでくれる?
「今までのタダ働きの慰謝料としていただいたんだから、いいでしょ」
タダ働き前世と今世で30年くらいかな?
全くもって足らんわ。
「慰謝料は構わないけど、その宝石は子爵夫人の宝物じゃないの?」
それ、すっかり忘れてた。
さすが査察官さま、良く調べてるぅ。
あの偽母親、宝石に異様な執着があって、宝石のためなら、人を数人やっちゃいそうなんだよね。
何か、またフラグ立った?
あの偽母親まで追いかけてくる?
ヤダよ、それ。
「でも、私が持っていったかどうか、わからないでしょう?あの金庫、魔法使わないと開かないし」
マティスは微妙な顔をした。
「家出した日に無くなってたら、普通は疑われるでしょ」
そりゃそうだ。
タイミングバッチリすぎだもんね。
でももう、あいつらには会いたくない。
何?金貨と宝石返せばいい?
それはない。
あいつらに返すことはない。
返すなら不当に搾取されている領民さんたちに返す。
「心配しなくて大丈夫。明日には王宮騎士団一個小隊来るからね」
もう、権力の権化ですね、マティス査察官さま。
「期待しないで待ってます」
そうだ!
大切なことを忘れてた。
「マティス、あの、ひとつお願いがあるんだけど」
マティスはまたニコニコしながら、
「何?おねだり?いいよ」
と言って抱きしめてくるのやめてほしいんですけど。
キスも今はいいです。
「ちがーう!アリスのこと。
アリスにステキなお相手紹介して欲しいの!」
キスしようと近づいて来た顔の動きが止まった。
よーし!待てを覚えた!
マティスは待てを覚えた!
マティスは躾のレベルが1上がった!
「アリスのお相手?アリスは結婚相手探してたの?」
何、その意外そうな顔。
「いえ、アリスが言ったわけじゃなくて、私のせいでまだ結婚していないから、誰か良い人がいたら、幸せになって欲しいな、と」
ふーん、と言うマティス。
まさか、本当はアリス狙い?
アリスかわいいもんね。
「別に変な人ならお断りだけど、
マティスならお勧め優良物件のストックありそうだから」
「考えとく」
何でそんなに冷たい言い方するのよ。
すごく機嫌が悪くなってる。
これまさか、本命アリス、対抗どこかの令嬢、大穴ルナって構図じゃないよね?
あれ、私、何でこんなに落ち込んでるんだろう。
気のせい、気のせい、もう早く寝よ。
マティスの部屋を出て、自分の部屋へ戻る時に、あの銀髪の騎士さんが絶対目を合わせないようにしてた。
絶対に変な誤解してるよね。
サヨナラ、私の評判。
何だか今夜は眠れない予感。




