10.ユナ襲来
馬車を降りると、そこは立派な伯爵の御屋敷の前でした。はい。
いえ、何となくそんな気はしてました。
執事が恭しく中へ通してくれますが、私たちもここに泊まっちゃっていいんですかね。
あの赤毛の騎士さんも一緒に来てるから、大丈夫かな。
また、私を胡散臭そうに見てる。
目逸らそう。
奥から着飾った男女が出てきたけど、ポミエ伯爵夫妻かな。
「マティス様、ようこそいらっしゃいました。長旅でお疲れでしょう。先にお部屋へご案内いたしましょうか」
揉み手までして腰が低いぞポミエ伯爵、
やっぱりマティスは偉い人確定でしょ。
「ポミエ伯爵、ポミエ伯爵夫人、こちらはルナとお付きのアリスです。重大な機密に関わる事で王都へお連れするところですので、
くれぐれも失礼のないようお願いします」
私、ポミエ伯爵夫妻より格上扱いになってる?
いや、それまずいでしょ。
「かしこまりました。最高のおもてなしをさせていただきます」
えっ、OKなの?
どんだけ偉いの、マティスさん。
「それと、この方に害を及ぼす女が追ってくる可能性があるので、我々の滞在中は知らない者を屋敷に入れないようお願いします」
私の事、この方って、詐欺罪で捕まっても知らないからね。
でも、ユナの事を注意してくれたのはありがたい。
ポミエ伯爵夫妻は二つ返事で頷くと、メイドを呼んで私たちを部屋へ案内してくれた。
マティスは隣の部屋か、赤毛の騎士さんはそのまた隣なのね。
メイドは少ししたら夕食になりますと言って下がった。
「何だかやたら立派な部屋だね。
これだけ大きいベッドなら2人でも十分だね」
キングサイズの天蓋付きだよー。
アリスと私は無理矢理同じ部屋にしてもらった。
だって、何だかイヤな予感がするのよ。
離れちゃいけないって。
「それにしても、何だか怒涛の展開だね。
朝、ユナに殺されかけるまでは、まさか今
ポミエ伯爵の屋敷にいるなんて考えてもいなかったよね」
「でもお嬢様、マティスさんが偉い方だと言うのはわかりますが、このままついていって大丈夫でしょうか」
アリスの心配もわかる。
私も少し不安だけど、もう引き返す事は出来ない。
「大丈夫。それにいざとなったら私のだだ漏れ魔力でどうにかするから」
アリスはほっとしたみたい。
「そう言えばルナお嬢様、夕食の時もその麻袋スカートの中に隠していくんですか」
この袋、重いけどやっぱりスカートの中が1番安全だからね。
うん、と頷いた途端、部屋の扉がバーンと大きな声を立てて開いた。
「こんなところにいたのね、ルナ。
一体何をしてるのかしら。
私から逃げられるとでも思った?」
不敵な満面の笑みを浮かべたユナが仁王立ちして私を睨んでいた。
予感的中。
私の命もここまで、
サヨナラ、アリス。
完
じゃない、気を取り直して、お腹にチカラを入れて、ハイ、
「キャーーーーーーーーーーーーーーー
助けてーーーーーーーーーーーーーー」
あらんばかりの声を出す。
その叫び声を聞いて、マティスと赤毛の騎士が駆け込んで来てくれた。
「どうした!」
マティスはユナを見ると、さっと私とアリスを庇うように間に立ち、ユナを睨みつける。
「まぁ、マティス様。
こんなところでお目にかかれるだなんて。
今朝お会いしたユナ・トーマですわ」
コロッと態度を変えて媚びるのが気持ち悪い。
「ここで何をしている」
「あら、家出をした情けない姉を連れ戻しにきただけですわ」
「心配しましたのよ、お姉様」
顔に悪意だだ漏れなんですが。
「悪いが、ルナは私が王都に連れて行く事になった」
「意味がわかりませんわ。親の承諾無しに王都へ連れて行くなんて」
媚び顔で頬っぺたを膨らませてるけど、
正直可愛くないから、ユナ。
性格だだ漏れ。
「機密事項なので、一介の子爵令嬢に話す必要はない」
マティスさん、何だか今かっこいいです。
ユナが悔しそうに唇を噛んでいる。
ついでに舌も噛んだらいいのに。
「お引き取り願おう」
赤毛の騎士さんに掴まえられて、部屋から引き摺り出されたユナは叫んだ。
「覚えてなさい!
100倍、いや1000倍にして返してやるから。あんたなんか絶対に幸せにはさせない。ことごとく邪魔してやるから震えながら待っていな!」
何処かのチンピラみたいな捨て台詞を吐き、
ユナは馬車に乗せられ、トーマ領に強制送還された。
マティスが呆れ顔で尋ねる。当然だよね。
「どうしたら、あんなに憎まれるんだ?」




