1.願い
今日は母親から早く帰るよう呼び出しが来ていた。
また、何か面倒な事を押し付けられそうで
憂鬱だ。
大学のゼミを終えて家に帰ると、2ヵ月後に結婚を控えた私の婚約者が居間にいた。
今日来るなんて聞いてない。
両親と妹もいて、家族勢揃いだ。
いつも愛人宅にべったりの父親までいる。
妹のユナは何故か婚約者のレンの隣に座っている。
「ルナ、ここに座りなさい」
父が厳しい口調で指示した。
何、私、何かしましたか?
「ユナが妊娠した」
はっ?妊娠?誰の子?
「レンくんの子だ」
「はい?何言ってるの?
意味不明なんですけど」
驚くより、言われている事が理解できない。
思わずレンを見ると気まずいのか下を向いている。
「レン!どういうこと?」
信じられずレンに向かって囁く。
「あなたには残念な事だけど、こうなったら
ユナと結婚するしかないでしょ。あなたは身を引いて頂戴」
実の母親とは思えない酷い言葉。
呆れて言葉も出せないでいると、父親が続けた。
「2ヵ月後の結婚式はユナが花嫁になる。お前は出なくていいから」
「何言ってるの?
レンは私の婚約者だし。
子供って本当にレンの子なの?」
「ごめん」
レンが俯きながら謝る。
「とにかく世間体もあるから、結婚式は内輪でやるし、あなたも暫くは友達のところへでも行って顔を見せないで頂戴」
母は冷たく言った。
この人達はいつもこうだ。
妹ばかり可愛がり、辛い事や大変な事は全て私に押し付けた。
同居していた祖父の介護も学生だった私に丸投げしていた。
ヤングケアラーというやつだ。
私に介護や家事を押し付け、母親と妹は優雅に旅行やレジャー、父親は愛人三昧をしていた。
これで血の繋がりが無ければ、まだ諦めもつくのにそうじゃないのが更に悲しい。
それでも祖父の事は大切だったし、誰かが介護しなくちゃならないと思い、我慢してきた。
私は妹に向かって言った。
「ねぇ、それなら何で真っ先に私に謝らないの?」
そして全員に叫んだ。
「何で私が最後に知らされるわけ?」
ユナは口を尖らせ
「こわーい」
こいつはいつもこうだ。
都合の悪い事は全て私に押し付け、美味しいところは全摂り。
「もう仕方ないでしょ。そんな風にキツく言われたらお腹の子に障るじゃない」
これでもかという母の言葉に流石にキレた。
「あんた、それでも私の母親なの?
違うよね。
あんた達は私をいつも利用して搾取するだけ」
私は家族を呪った。
「みんな居なくなってしまえばいい」
小さな声で付け加える。
「そして私は異世界に転生したいわ」
次の瞬間、部屋中が強い光で包まれ、だんだんと意識が遠ざかるなかぼんやり考えた。
「興奮して脳溢血でも起こしたかな。それとも家に飛行機でも墜落したかも」