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双禍の後宮  作者: 時雨笠ミコト
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少女脱力

……台風一過、というかなんというか。既視感が凄いというか」

私がぼそりとそう呟くと、雅亮はまるで糸が切れたかのようにその場で崩れ落ちた。

かなり気張っていたのだろう、雅亮を支えていたはーちゃんが明らかに動揺する。

「雅亮兄さん!?」

「はーちゃん落ち着きたまえ、生きてはいる」

「お前はもう少し可愛らしく狼狽えろ」

「ハハッ、無理無理」

軽口を叩く元気があることを確認しながら、私は地面に突き刺さったり転がったりした雅亮の剣を回収した。

あの激戦に使われた剣を回収して手に持った時、私はついつい驚嘆の声を上げてしまった。

その場に合わない声を聞きつけたはーちゃんが、疲労困憊の雅亮を支えつつ、不思議そうにこちらに視線を向けてくる。

「どうしたの」

「はーちゃん、さっき雅亮はもう戦えなくなるって言ってたよね」

「うん、実力差的にもそろそろ限界だろうなとは言ったよ」

「大正解だよ。さすがとしか言いようがないねぇ」

「え?」

私の端的な言葉だけでは理解しきれなかったらしいはーちゃんは、分かり易い答えを求めて雅亮の方に視線を落とした。

しかし今現在の雅亮は正直そんな彼女の要求にこたえるほどの元気もないらしい。私の方に説明しろ、という圧を発してきた。

なので剣を持ったまま、テトテトとはーちゃんの方に歩いて行く。

そして彼女に見えやすいように視線の位置まで剣を持ち上げ、件の個所が見えやすいように微調節した。

恐らく朱将軍の攻撃を何度も受け止め、もしくは流していたのであろうその部分にはひびが走っていた。

「……これは、なんとも」

「朱将軍恐るべし、だね」

あのまま戦闘を続行していれば、彼が持つ力のままに剣を折られていた可能性がある。いくら雅亮が強かろうと、得物をなくしてしまえば本来発揮できる力も発揮できない状態になってしまうだろう。

つまり雅亮の余力的にも、雅亮の得物の耐久度的にも限界に近かったのだ。はーちゃんの判断はこれ以上ない程に正しかったことになる。

その彼女の判断力を称賛しながら、私はその剣を持ち上げさやの中に戻した。

「一回これ預かるよ?」

「持ち逃げは許さんぞ」

「修理してやろうって言ってんだから素直に感謝してよねぇ」

「正確には修理を依頼するんだよね?」

「勿論。だって私鍛冶とかなんとかできないし」

もしかして私が新技能を取得したとでも思ったのだろうか、はーちゃんがそう確認してくる。心配せずとも才能のさの字も書けないレベルで才能がないので、安心してほしい。

「それにしても、どうして急に辞退したのか……つくづく読めない」

「それなら先程本人が述べていただろう」

不思議そうにそう呟いたはーちゃんの声に、雅亮はあっさりと回答を示す。

私も先程ぼそっとその回答を示していたはずなのだが、やはり私の推測では不十分だったらしい。

「……どこでそう判断したかは知らんが、戦闘能力を加味しても、お前の婿になるには自分の魅力は足りていないと判断したんだろう」

「色々予想外すぎる……」

恐らくはーちゃんが駆け寄ったタイミングで、自分ではなく雅亮が選ばれた事がきっかけではあったのだろう。

そう推測したものの、確定ではないしわざわざ言うのも面倒くさい。なので私は何も言わず、ただ事後処理に身を投じることにした。

大剣の攻撃を受けた喰邸の庭は、マアなかなかな惨状になってしまっている。

私は庭師では無いので、できることには限りがある。なので割れたものを避けたり、凹んだ土を元に戻す程度しかできない。

「お疲れ様でした」

せっせせっせ、と作業する私と同じように、静さんもずっと忙しそうに動き回っている。

しかしそんな彼女の忙しさは、私と同じような単純作業を繰り返す忙しさではなく、どちらかと言えば主の心の健康のために粉骨砕身しているようだ。

「ありがとう、静」

「いえ、お気になさらずに。今はただお休み下さい」

お茶であったり甘味であったり、はーちゃんの愛読書であったり。

はーちゃんの気持ちが落ち着く可能性があるものを片端から集めてきたらしい。

そういう点で、長いことはーちゃんのお世話をしてきた彼女は非常に優秀である。

傍から見れば、婚約程度で何をそんなに狼狽えるのかと言われそうだが、はーちゃんの場合、今回は結婚以外でも掛かっているものが多かった。

その中には王命に関するものもあり、それに影響を及ぼす可能性があるとなってはプレッシャーも相当なはずだ。

「役に立てなくてすまなかった」

雅亮が珍しくしおらしい表情をしながら、深深とはーちゃんに頭を下げる。

唐突なその行動に驚いたらしいはーちゃんは慌てて雅亮の頭をあげるよう促すが、雅亮は頑として頭をあげようとしなかった。

「雅亮兄さん!頭をあげて……」

「いや、あまりにも役に立てなかった。頭はあげられない」

「そんなことは……!」

フォローを入れようとしたはーちゃんの言葉を潰すように、雅亮は手ではーちゃんを制止して更にこう言った。

「役に立っていないだろう。あの馬鹿さえ宴で大部分を諦めさせたんだ。それに対して私は一体何ができた?何も出来てない。ただ剣技で負けただけだ」

悔しそうにそう零した雅亮であったが、思わず私もはーちゃんも何言ってるんだろう、というような顔で見つめあってしまった。

だって私の話術だって、自分自身の得意分野であったにも関わらず、落とせた人間こそ多いものの、一番落とすべき朱将軍を落とし損ねたのだ。

逆に雅亮は相手の得意分野で戦ったのだ。むしろ大健闘と言って差し支えないだろう。

「むしろ逆に良くあれだけやったなと思うけど」

「何だ急に気持ち悪い」

「私にしては超絶珍しく素直に褒めたのに辛辣過ぎない!?」

「それが気持ち悪いと言ってるんだ」

「言っておいて酷すぎると思わないのかい」

「微塵も」

「本当にコイツ心からいい性格してるわ」

「2人ともいい加減にして……」

雅亮とギャンギャン言い合っていると、疲れた声ではーちゃんから制止が入った。

実際疲れているのだろう、元気のない彼女の声に慌てて言い合いを止める。それとほぼ同時に静さんから非難の目を向けられた。

実際こちらが悪いと思うので何も言い返さないが、結構良心が痛むものである。

「……ごめんなさい」

「すまない」

2人揃って頭を下げる。私にしては珍しくさっさと謝ったのを加味してか、静さんは避難の目を通常の目へと変えてくれた。

それを確認してから、雅亮は座った時の体制を微調節し、はーちゃんの方に向き直る。

そして1つ咳払いをしてから、話を始めた。

「疲れているところすまないが、少し話をするぞ」

「疲れてるのは雅亮兄さんも同じでしょう。良いよ、何?」

「今後の朱一族……正確には朱将軍に対する態度その他についてだ」

「うん」

こくこくと、素直に頷くはーちゃんを確認してから、雅亮は優しい笑顔を浮かべて話を続ける。

「今後も基本距離をとるが、それはこちらから積極的に話しかけないと言うだけのことだ。相手は名門朱家、遠ざけたいところだが露骨に遠ざけると不利になることが多い」

「分かってる」

「…………しばらく塩梅を考えることになる。負担がかかるが、大丈夫か」

「それはもう、仕方ないでしょう。それに根は良い人だし、多分問題ないよ」

はーちゃんはそう言って微笑んだ。私はそうやって2人が今後の対策を膝を突合せて話し合っている姿を見て、ようやく一段落したのだと確信した。

安堵の空気が流れる。なんとも騒がしい騒動であった。

NEXT 5月2日

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