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双禍の後宮  作者: 時雨笠ミコト
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渦中に入る

 疲労回復の効果があると言う茶葉の入った袋を軽く抱きしめるようにしながら、私は嬉々として廊下を歩いていた。

ちなみに言い訳をしておくと、ちゃんと仕事を探した後の挙動である。いつぞやの『細家花見会事件』で色々な仕事が先送りになったり逆に早倒しになったり、を経験した後宮の女たちは結構こたえたらしい。

何か起きてしまう前にさっさと終わらせてしまおうと、相当早く仕事を片付けていたのだ。

「……さてと、どうやって送ったもんか」

 茶葉と一緒に送る手紙はさっさと書ききったのだが、私は今現在その手紙と茶葉を贈るための輸送方法について迷っていた。

さすそりゃあ勿論?矢文でボーン!と送ったほうが早いのは重々承知しているのだが、なにぶん最近は弓に対する取り締まりが厳しいのだ。

曰く、弓矢で壁装飾を破壊するバカが居たとかなんとか。

私以上のお馬鹿さんがいたことにはビックリしたが、それにしても……とぼんやり考えていた私の思考がピキッと音を立てて硬直した。

(……もしかしてそのバカって私のことか?)

 直接見たわけではないが、はーちゃんから聞いた話を思い出したのだ。

私の放った矢が、廊下の壁装飾を破砕したことがあるらしい。

軽く頭を抱えそうになった。完全に自業自得じゃないか、何してるんだ私は。

(他に送る方法…)

 そんなこと考える私の目の前を、実家への手紙か何かを託されたのだろう、1人の使いが走ってゆく。

ただしその使いは、そのまま後宮の外に出ることはなく軽く検問を受けていたのだが。

まあこれは当然である。後宮の機密を漏洩されたり、実家に勝手に後宮の備品を渡されたりしたらたまらない。

(……あ、そっかアレがあるじゃん)

そーいや完全に失念していた。元々矢文なんて規格外な意思疎通の仕方ではなく、ああやってまどろっこしい方法を積み重ねてするものであった。

申し訳ないが、完全に失念していた。

「まあ解決法発見ってことで大目に見るとしようか……すみません、今宜しいですか?」

 可能な限り淑女の面を被りながら先ほどの使いに続いて外を目指す、目の前を駆けて行こうとした使いを軽く呼び止めた。

焦っているのか何なのか、その場に留まってはくれたものの足踏みは止めずにたむたむと地面をを踏みならしている。

そして茶葉と手紙を手渡すと、使いは軽く会釈をしてまた走り去ろうとする。

「あの」

 しかし更に私はその使いを呼び止める。顔だけ此方に向けたその使いに対して、私はにっこり微笑みながら念のための一言を伝えておいた。

「その茶葉は、賢妃様から頂いたものなので。できるだけ丁重に扱ってくださいな」

 その一言を受けた瞬間に、使いの顔が一気に引き締まった。

多分これで横領されたりくすねられたりすることはないだろう。いい茶葉と判断した瞬間にしれっと手紙を握り潰して茶葉を懐に入れるお偉いさんが結構いるのだ。

(……まあ、ちょっと賢妃様の力の乱用かな?気をつけようか)

 ぐっ、と軽く伸びて切り替えた……ところで。

皆様はお気づきになられただろうか、先ほど走り去っていった使いの腕の中に、おそらく朱修容が書いたであろう正式なお見合いを進行するための手紙が紛れていたことに。

因みに私はしっかり気づいていた。それでいて止めなかった。理由はまあ皆様お察しの通りである。

……さて、従姉のもとに十中八九本人が望んでいないお見合い話が舞いこもうとしているこの状況、大抵の人が取るであろう行動は大体三つに分けることができる。

①その手紙を回収してひっそり握り潰す。

②その手紙の存在をはーちゃんたちに知らせて事前に策を練らせる。

③朱修容に思いとどまるように今からでも全力説得する。

とまあこんな感じだと思うのだが、何を隠そう私は頓家の人間、楽しそう、面白そうであればハプニングであれどウェルカムな人間である。

つまり何が言いたいのか?私が選ぶのは第四の選択。『放置してあわよくば屋敷の外とかいい感じのどっかから野次馬する』、である!

「さて、楽しいことになりそうだねえ……」

 私は本音と共に湧き上がる笑みを抑えきれずにいた。


 あれから数日後、私は珍しく後宮の外を足取り軽く歩いていた。

何でお外にいるのかって?すっごく分かりやすく言えば、有給休暇的なサムシングである。 

あの時お茶を贈ると同時に手紙も渡しておいた。そして後宮から荷物が出る周期を加味して考えると、そろそろお茶を飲んでくれた頃合いである。

感想を聞くついでに顔を見るくらいしてもまあ、罰が当たったり問答無用にしめだされることはなかろうて。

物事を覚えるのが基本壊滅的にヘタクソな私でも、さすがに従姉の家に通じる道くらいは覚えている。迷いなくてくてくと歩いて行った先に、記憶とほとんど変わらない従姉の屋敷が鎮座していた。

ひょいと正門の方に目をやってみれば、靴が行儀よく並んでいた。

はーちゃんを昔から見守ってきた女官である静さんは今ここにいないらしい。

なのでしれっと中に上がり込み、家の間取りは覚えているので台所に侵入する。

そして台所の戸棚を無遠慮に開け放つと、その片隅につい最近見た茶葉が収められていた。

全部なくなってはいないが、少し減っている。

と言うことは、二人とも一度はこのお茶を飲んでいるはずだ。

まあ少なくとも感想は聞けるはずだ。

ついでに今からこのお茶を淹れてやろう。

なんて優しい私、きっとあの二人も泣いて喜ぶことだろう。

ということで、一人ルンルンでお茶を淹れて、盆の上にお茶のための一式を作りのせる。

そして耳を澄ませ、二人がいるであろう方向に、声で当たりをつけて歩き始めた。

しばらくすると二人の声が鮮明になってきた……といっても何を言っているかはあまりよく分からないんだが。

だが声に乗っている感情は汲み取れる程度にはなった。

そして汲み取れた感情は……珍しいことに、二人揃って『焦り』であった。

(二人とも焦ってるなんて珍しい。でも確か焦るって結構疲れるらしいし…お茶淹れたのも結果オーライで成功ってことかな?)

 そんなあんまり脈絡のない思考を頭の中でぽっかりぽっかりと浮かべながら、私は二人がいるであろう部屋にひょっこりと顔を出す。

それとほぼほぼ同時に、部屋の中にいた二人と目があった。

そしてその二対の目には、総じて『驚き』が滲んでいた。

「え、何でいるの?」

「ここに来たからだよ?」

「何しに来た!?」

「何しにって、前送ったお茶の感想もらいに来たんだよぉ」

「……ちょっと待って、どうやって入ってきたの?黎明」

「え?玄関からー」

「どこから帰るつもりなんだお前は…」

「え?玄関から歩いて帰るつもりだっただけど…」

 何なんだこの尋問の時間は……と半ば引き気味になりながら、淡々と聞かれたことに回答していく。

すると、二人揃って困り顔をしたと思うと、雅亮は頭を抱え、はーちゃんは額を押さえてしまった。

(あれ、私何かしたっけ?)

 そう思った瞬間に、はーちゃんは深々とため息をつく。

「黎明、多分もう暫く帰れないよ」

「……へぇ?なんで?」

「今から朱家の御一行で玄関が塞がるからだ。つくづく間の悪い……」

「え?朱家の御一行?」

「今から顔見せに来る予定になってるの、朱家のご兄妹が」


次は来週月曜日投稿予定です

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