園の穴
気づいていないが、実は黎明も雅亮に縁談話で焚き火をされている。
なんやかんや、宴が終わり次の日。
何故か私は、特に咎められるでもなく後宮に舞い戻っていた。
「……いやなんで?」
ツッコミどころが多すぎる、なんで何事もなかったかのように戻れてしまっているんだ。
「黎明?」
「……ッ、はい賢妃様」
流石におかしいと感じたのだろう、賢妃様が不審な表情でこちらを見ている。
返事をしてから気がついた。今のはしくじった。
変な間を作ってしまったことにより、逆に不信感を促進してしまっている。
「細充媛には、聞けなかったのかしら?」
「いえ」
どうやら、大口叩いた割に任務失敗したから凹んでいると勘違いされたらしい。
一応なんやかんや有ったが、目的は果たしているので否定する。
何故細充媛が舞上手か、その理由は本番を見ればすぐに分かった。
ひたすらに基礎の修練、そして技術を駆使して、体重を感じさせないのである。
余計な音がしない、そして滞空時間も長く軽やかに動く。
それだけで相当演技の幅と質は上昇する。
「細充媛の舞の秘訣は、体重を感じさせない体捌きにありました」
それだけ聞いて、賢妃様は理解ができたのだろう。何とも言えなさそうな微妙な表情で眉間を抑えた。
なるほど一つ勉強になった、優美を極めた人は呆れたり落胆するだけでも艶っぽく絵になるらしい。
そして賢妃様は、本当に察しがいい。
大抵の妃嬪は、ここまで話しても『じゃあ習得の仕方を教えろ』とせがんでくる。
だが、細充媛のあの舞は、先程言ったが修練と技術の結晶だ。
一朝一夕でできるような代物ではない。
教えろと言われても教えられるようなものではないのだ。
「……今更演目を変えても駄目でしょうね。出来ることを出来るだけしてみましょう」
「はい」
「ありがとう、黎明。下がって良いわ、お疲れ様」
「はい、では失礼します」
あっさりと下がってしまった私は、いつも通りの仕事をこなす。
宴の日以降、パッタリと妨害はなりを潜めた。これだけ見れば良いのがしれないが、事実これは、『妨害する必要すらない格下』と認識されたことを示している。
私は阿呆だが馬鹿ではない。その理由くらい流石に分かる。
……細充媛から、私の舞の腕を聞いたのだろう。そして、私は今回舞手として花見回に出る予定だった。
つまり、『舞手のひとりの腕前があの程度なら、他もたかが知れている』と判断されたのだ。
しかも悔しいことに、この予測だいたい当たっている。事実、賢妃陣営の妃嬪の中で、一番舞が上手いのは私なのだ。
これは、賢妃様からしたら屈辱以外の何物でもないだろう。
もともと高貴な家の出で、気位も高い人だ。心中穏やかではいられまい。
その心中を察してしまっているが故に、私はあの場であれ以上言葉を発することができなかった。
だってそれは、賢妃様への更なる侮辱になりかねない。
「はぁー……やらかしたかなぁ」
仕事に没頭して無理やり思考から目を背けていたが、妨害も無くなってしまったのでさっさと仕事が終わってしまった。
ならいっそ思案に集中してしまおうと、心地の良い場所を求めた結果、私は今屋根の上にいる。
弓術、その中でも超遠距離の射撃を行う際は、私は高所に登る。理由は単純で、その方が撃ちやすいから。
弓術を行う際は、必然的に思考を極限までそれに特化…つまり集中させなければいけない。
そのせいか、私は物思いに耽るときは大体高所にいる。習慣とはかくも恐ろしいものであったか。
「みんな頑張ってるよなぁ〜」
妃嬪もさることながら、女官だって忙しくなる。
そして大々的な催しでもあるのだから、いつもは異変なんてそうそうないとたかを括ってる警備の人間も多忙を極めることになる。
「毎年この時期はわちゃわちゃしてて……うん?」
静かな違和感が、小骨のように引っかかる。
確かに常に比べれば人は多い。けれど、例年に比べたらかなり少ない。
それも、全体的に少ないのではなく局地的に。
「何、この違和感」
女官は特に変わりない。人の多さも相変わらずだ。
妃嬪も変わりない。昨年から死者も脱落者も出ていないのだから当たり前だけれど。
では、この違和感の正体は。
「……警備兵の数が、かなり少ない?」
………それは、どうして?
次は4/26です




