「キャロル」(映画）
監督トッド・ヘインズ
出演ケイト・ブランシェット, ルーニー・マーラ, カイル・チャンドラー
1952年、ニューヨーク。高級百貨店でアルバイトをするテレーズは、クリスマスで賑わう売り場で、そのひとを見た。鮮やかな金髪、艶めいた赤い唇、真っ白な肌。ゆったりした毛皮のコート。そのひともすぐにテレーズを見た。彼女の名はキャロル。このうえなく美しいそのひとにテレーズは憧れた。しかし、美しさに隠されたキャロルの本当の姿とは・・・・・・。不幸な結婚、偽りの人生、何より大切な娘を夫に奪われようとしていた。それを知ったとき、テレーズの憧れは思いもよらなかった感情へと変わってゆく・・・・・・。(C)NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED
あーこさんと一緒に再視聴。一回目は、子どもと自分自身の在り方の間で揺れるキャロル視点で観たけれど、今回はテレーズ視点が面白かった。
キャロルはとても明快な大人。自分の望みも嗜好も知っている。そこに葛藤はないし、それが自分と受け入れている。
対するテレーズ。「性の逸脱」にあった、理想像に憧れる思春期の少女のよう。プロポーズしてくれる恋人までいるというのに、どうも自覚的じゃない。
上流階級に属する美しいマダムの見せてくれる素敵な世界。その憧れの人が、自分を肯定し評価し、自分の夢に興味を示し応援してくれる。どんどん惹かれていって、同一化し、彼女の苦しみを分け合い、彼女を救いたいと思い、不甲斐ない自分に失望し……。
キャロルに天使と呼ばれるテレーズの自我の薄さよ。キャロルに比べて、テレーズに言い寄る男たちの幼稚さよ。同性愛うんぬんの次元の話じゃないよな、と思ってしまう。
大人の身勝手さも自覚するキャロルに置いて行かれたテレーズ、ようやく自分の道を歩みだすけれど。キャロルに再会した後で、見渡した彼女の属する世界の貧しさ、猥雑さ。とてもキャロルという一人の女性の持つ世界に見合うものじゃない。こうしてテレーズは、自立の機会を自ら捨て、キャロルに従属する同一化の幻想世界に戻っていく。
いつか、テレーズが自ら羽ばたいてキャロルの許を離れるのか。それとも、ぬくぬくした閉じられた世界で満足するのか。あるいは、互いが互いを補いあえるような関係性に成長していけるのか。ちょっと、この段階では、相当の過程を必要としそうな……。
でも、キャロルって自立しているように見えて、依存的でもあって、テレーズに対する想いも、奪われた娘への感情転移もあるんじゃないかと思う。自分のことを明快に解っているように見えて、そうでもないんじゃないかな、などなど。
キャロルがなんとも、姑息で紳士な男性に見えてどうしようもない。赤子の手をひねるように、テレーズを弄んでいるような。
