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「アメリカン・スナイパー」(映画)

 監督クリント・イーストウッド


 米軍史上最多、160人を狙撃したひとりの優しい父親。観る者の心を撃ち抜く、衝撃の実話。 国を愛し、家族を愛し、戦場を愛した男――。描かれるのは伝説のスナイパー、クリス・カイルの半生。 Rating R15+ (C) 2014 Village Roadshow Films (BVI) Limited, Warner Bros. Entertainment Inc. And Ratpac-Dune Entertainment LLC. All rights reserved.




 昔のステレオタイプのアメリカ人の精神構造は、この主人公のような感じなのかな。冒頭の父親から植えつけられた「番犬」のイメージを、そのまま受け入れた人物。

 アメリカは世界の番犬だか、警察だか。正義は自分にあると思っているから。


 民間を巻きこんだテロ行為に対して、大軍で立ち向かう米軍。はたしてこれが戦争か、と疑問に思う。


 一人の狙撃者を攻撃するために組織されたチームが危険に晒されると、その街に空から爆撃させてそのすきに逃げる。これが、テロ組織の恐怖の支配から救うための行為だといわれると、蟻との戦いに象が加勢して踏み潰すみたいだ。


 前半のテロ組織の残虐性を強調したエピソードも本当かな、と疑ってしまう。カイルの、あるいは米軍の行為を正当化するために、盛ってるんじゃないかと。それが事実であっても、人の家に土足で踏み込み協力を強要する米軍が救いの主にはとても見えない。


 けれどそれが戦争というもので、大義名分が何であれ、どんな形で達成されるのであれ、それは暴力であるのは紛れもない事実で。その渦中にいる人々は正義がどこにあるか、などと関係なく暴力に踏みにじられる。


 本国と戦場の間を行き来するカイルは、本国では現実感を失い、家族との間にズレが生じている。けれどなかなかその自覚がないようで。この戦争に疑問を持って、そして死んだ仲間に対する言葉に現れているように、この乖離、ズレ、自分が抑圧しているものを見つめてしまったら彼は戦場で死ぬしかなくなるのだろうな。

 そして、大義名分すら色あせて、自分と同じ名狙撃手への執念は、ただの私怨となり復讐という目的にすり替わっていく。分析的な見方をすれば、その狙撃手=自分の影ということか。戦場の自分を殺すことで、ようやく彼は戦場を離れる決意をすることができたのだから。追っていた敵の頭を拘束も殺害もできていない、当初の目標は達成できているわけではないのだから、面倒な好敵手というよりも、影と捉える方がしっくりくる。


 平和な本国と異国の戦場、わずか数時間で変わる世界のそれぞれの現実。本来ならホームグラウンドであるはずの日常が夢になる。心は戦場に囚われたまま。

 退役軍人へのボランティア活動でPTSDを克服したとあるけれど、そのあたりをもう少し詳しく描いて欲しかった。そしてなぜ、殺されたのかも。




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