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「ガス燈」(映画)

 監督ジョージ・キューカー


 19世紀末、霧深いロンドン。歌手の叔母が殺され、その財産を相続したポーラはイタリアで音楽家のグレゴリーと恋におち結婚。彼の望みで叔母の邸宅に住むが、次第に身辺に奇妙なことが起こり始め発狂寸前まで追い詰められる。




 白黒の古い映画で、カット割りなんかも現代の手法と違うので冗長かなぁと想像していたのだけど、(「ハスラー」がカットの長さで見るのがしんどかった)全然気にならなかった。集中して観れたし面白かった。


 しかし、登場人物に共感できるかは別の話で。ポーラという女性のもつ個性はよく判らない。

 初めての恋に浮かれて、音楽留学を切り上げて、出会ったばかりの男と結婚。両親を早くに亡くし世界的な歌手だった叔母に育てられ、それなりの財産を継いでいる。この叔母さん、欧州中をリサイタルで回っていた。その間の彼女はどんな暮らしをしていたのだろう? 


 本来の彼女なら、と思わせる要素が上手く想像できなかった。

 生来の性質が徐々に蝕まれていくのが、ガスライティング効果とも言えるのに。


 でもこの映画のガスライティング、心理学でつかわれているような意味の、支配欲から発したものでもなくて、犯罪の証拠を隠すための偶発的な思いつきから始まったようだった。彼女を精神病にしてその間に宝石を、と計画してのものではなくて、彼女が手紙のことを誰かにしゃべっても、誰も信じないようにしむけるためというか。


 心理劇なんだけど、その心理を追っていくと作られ過ぎというか。でも現実で知っているガスライティングを思い返すと、やはり相手側には隠蔽しておきたい事実があっての、工作だったなぁと納得するものもあり。


 ガスライティングにも、様々な動機があるものだな、と改めて納得したのでした。


 しかしポーラ、彼女は本当に自分を取り戻せるようになるんだろうか。夫への依存が、助けてくれた警部への依存に変わるだけなんじゃないかと思わせるラストだった。

 夫と対峙する場面の彼女なりの復讐は、小気味良く、そして痛ましさも感じられるものだった。






 



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