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「デタッチメント 優しい無関心」(映画)

 監督 トニー・ケイ


 ヘンリー・バースは、学校から学校を渡り歩く国語の代用教員。一校の在勤期間はせいぜい数週間、生徒や同僚教師たちと濃密な関係をつくることはできない。子供時代の忌まわしい記憶を抱えたヘンリーは、そうした孤立した生き方をむしろ居心地よく感じていた。だが、新たに赴任した崩壊寸前の高校で、いじめにあっている女生徒、問題をかかえた美人教師、そして売春をする家出少女らの人生といやおうなく繋がりを持ち始めたことで何かが変わろうとする…。[シネフィル](C)Detachment, LLC.





 ・Wikipedia

 デタッチメント(英: Detachment)とは、 ノンアタッチメント(英: Non-attachment)ともされ、ヒトが世界における物事、人物、価値観などへの愛着欲求を克服し、それによってより高い視点を獲得するという概念である。


 ・デジタル大辞泉

 デタッチメント【detachment】

 《原義は、分離の意》かかわりがないこと。超然とした態度。また、無関心。「作品の傾向が—からコミットメントに転換する」


 ・実用日本語表現辞典実

 デタッチメント 英語:detachment

 物事にかかわりを持たず、孤立しているさま。無関心な態度。英語で「分離」という意味を指す。



 題のデタッチメントの意味。どう解釈するのがこの映画のテーマなのか迷うところ。発達心理学では重要な愛着(アタッチメント)(Attachment)が、ここでは克服しなければならない課題として扱われているんだね。


 荒れた学校に代用教師として赴任してきたヘンリー、そしてこの学校に在住する他の教師たちおのおのの生徒への接し方、考え方、報われない、救いのない、心身をすり減らされる日常が淡々と描かれる。


 子どもたちを救えないと嘆くカウンセラーがでてくるけれど、教師全員が、子どもたちに自害させない、他害させないを第一使命とする精神科医みたいで。とはいえ、心の治療にまでは手が回らない。そりゃそうだろう。彼らは医者じゃない。


 踏み込み過ぎず、一定の距離を置いて生徒と関わるヘンリーだけど、彼のトラウマがことあるごとにフラッシュバックする。それさえも、彼はほぼ淡々とやり過ごしている。

 その彼が、関わらざるを得なくなった女の子が二人。生徒のひとりと、町で身体を売りながらその日暮らししている少女エリカ。どちらも愛着障害で病んでいる。

 その彼らに対して、適切な距離を保ち続けるヘンリー。でもその距離は、彼女らの望む距離じゃない。大人の事情を呑み込めるほど、彼女らは大人じゃない。女生徒の告白を受け、自分のしていることの危険性を認識したヘンリーは、自らエリカを養護施設に引き渡す。愛着相互関係を充たされず、絶望した女生徒の方は、自殺してしまう。

 その後、ヘンリーは、養護施設までエリカに逢いにいき、飛びついてきた彼女をハグするのだけど。この場面の彼の心情がよく判らなかった。

 いろんな要因があったにしろ、自分が引き金になって、一人の生徒を死に至らしめてしまった。だから、もう一方の、自分に愛着してくる子の手は取ろう。彼女には応えよう、ではあまりに自己都合だろう。

 これまで一定の距離を取り続けてきた、いわゆる踏み込むことをしなかったヘンリー。そのために生徒が死んだ。それはお前の無関心のせいだ。と言いたいのだろうか。そして、エリカをハグさせる。それこそが無責任じゃないのか。教師という職業をしている以上、第二、第三のエリカは現れる。その時どうする? 愛着関係の恐ろしいほどの責任を解かっているのに。 

 むしろ、頽れそうな自分を立て直すために、自分を家族と言ってくれたエリカに縋った。そう思いたい。保護するものと保護されるものではなくて、自分が甘えられる存在としてエリカを位置づけることができたのなら、ヘンリーは家族のトラウマから、一歩抜け出ることができたと思えるから。


 それにしても、皆が皆、トラウマ抱えて病んでる映画でした。けれど、この距離感の問題は、いろいろ考えさせられる。

 親と子、教師と生徒、国と国民。保護される側は、万能感でもって、保護者が何でも自分の望みを叶えてくれるはず、あるいは叶えるべきだと期待する。けれど、保護する側は、とっくに疲れはてて息も絶え絶え、自分を生かすだけで精一杯なのかもしれない。自分を護るための距離がどれほど必要か。無関心は悪というバイアスを取っ払って、考えてもいいんじゃないか。





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