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「わたしはロランス」(映画)

 グザヴィエ・ドラン 監督


 モントリオール在住の国語教師ロランスは、恋人のフレッドに「これまでの自分は偽りだった。女になりたい」と打ち明ける。



 後口がいいわけでも共感できるわけでもないのに、思考を刺激できるドラン映画。


「質問を始めるわ。ロランス・アリア、何を求めているの?(原語はchercheだから探しているの?だね)」

「私が発する言葉を理解し、同じ言葉を話す人を探すこと。自分自身を最下層に置かず、マイノリティーの権利や価値だけでなく“普通”を自認する人の権利や価値を問う人を…」



「私が発する言葉を理解し、同じ言葉を話す人を探すこと」

 自分とまったく同じ願いをもった人がいるなんて! 続くマイノリティーについての言葉も。なんだか泣きたくなる。もう少し前なら、うれし泣きだな。



 今作の主人公はゲイではなく、性同一性障害なんだな。



 しかし、全部見終わってみると、ロランスにまったく共感できなかった。女性として生きたい。女性の姿になりたい。自然な姿の自分で生きたい。そして女物の服、化粧で大学の教壇に立つ。学生は驚きはしてもそのことで彼をからかったりしない。

 抗議してきたのはその親たち。そこから新聞に書かれ、政治の圧力で彼は大学をクビになってしまう。知りたいのは、その抗議の内容。性同一性障害は精神疾患、というだけでは講師をクビにする理由としては根拠に薄い。ロランスは初めは訴えると言いながら、結局相手を説得するだけの言葉はもたずに大学を辞めてしまう。


 その直後のパブで、外見のことで口をだしてきた男に先に手をだしたのはロランスで、その内面の鬱屈した想いは判るものの、だからってこれは八つ当たりだろうとしか見えない。先に境界を越えたのは相手だから、だから暴力で応じて当然にはならない。それは、カフェで食事するとき店員ともめたフレッドにしても同じ。先に口を挟んだのは店員の方。だけど、自分の鬱憤をその公共の場で喚き散らしていいのか、と観客である私は、その場にいる別のテーブルにいる客の一人になって彼らを眺めることになる。

 要は、共感しない。


 それから、フレッドの妊娠、中絶、別れ。その後の二人は、自分自身の空漠を安易に他者で埋めて、なお心の奥底では失ってしまった過去を探し求めている。

 他人を巻き込むな。それが素直な感想。


 ロランスの本が出版され、おそらくそれはフレッドに捧げられたもので、手紙を書くフレッド。再会して、彼女は何を望んでいたのだろう?

 未だに愛されている自分なのか、彼がもとに戻っていることなのか。過去に引き戻され、今を忘れたことで彼女は“今”を失うことになる。


 それからまた3年たって、再びの再会。自分たちは、彼が女にならなくても上手くいかなかっただろうと言うロランスは、あくまで自分勝手に思えてしまった。彼は、自分を守ることしか考えられない。


 受け容れる、受け容れられないは、一方通行の問題じゃない。社会がマイノリティーを受け入れられないというように、マイノリティーも社会を受け入れられない。だから不可侵の礼節が望まれるんだろうに。


 傷つきは心に瘡蓋をつくる。本来もっと柔らかな皮膚であったはずなのに、その柔軟さを忘れてしまう。


 自分をありのままに愛してほしいロランスは、かつての自分を愛していた彼女に、変わることを求めている。

 

 彼らはどうすれば、別れずにやっていけることができたのだろう。これは、コウとアルに通じるテーマだな、とちょっと思った。

 

 自分が自分でありながら、自分ではない相手を尊重するって、そんなにも難しいのだろうか。










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