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「ヴィーガンズ・ハム」(映画)

監督 ファブリス・エブエ


コメディアン出身のファブリス・エブエが監督と主演を兼ねたブラックコメディ。ヴィンセントとソフィーは結婚30年。すっかり倦怠期に陥り、家業である肉屋の経営も厳しい。ある日、店がヴィーガンの活動家たちに荒らされ、ヴィンセントが犯人の一人を殺してしまう。死体処理に困ったヴィンセントはハムに加工するが、ソフィーの勘違いで店頭に出すと図らずも人気商品に……。戦慄の人間狩りと夫婦愛を両立させた不謹慎な笑いが満載。




 CMに騙された。肉屋の娘の連れてきた恋人がヴィーガン! って結婚を巡るコメディだと思い込んで、前知識なしで見始めたらとんでもなかった。


 「ザ・シェフ 悪魔のレシピ」のように、移民の夫に向けられる差別意識や屈辱に耐える鬱屈とした空気感は同質なのに、悲壮感満載のイギリス映画とコメディにしてしまうフランス(この)映画。お国柄か?


 しかし、進むにつれ肉屋の妻ソフィーがマクベス夫人に見えてくる。殺人を繰り返すことに良心の呵責を覚え、惑い続けるヴィンセントを、あの手この手でそそのかし続ける。けれど最終的に狂ってしまうマクベス夫人と違って、ソフィーはヴィーガンたちを肉塊としか認識しないサイコパスだった。


 彼らが殺したヴィーガンたちを「イラン豚」として売るのだけど、そもそもイスラム教のイランでは、豚を食べないよな。

 白人ヴィーガン男性だけがイラン豚にされるのも何か暗喩があるのかな、と考えてみたけれど、女性と子供、有色人種は襲わないというヴィンセントの信条は、彼らは自分と同じ社会的弱者だからだろう。それ以外の白人男性が報復しても構わない敵ということになる。だから、いじめられっ子で心臓疾患のあるウィニーには、同じ社会的弱者として同情して後悔する。


 それにしても、ヴィーガンであんな霜降りに育つものなのだろうか? 動物性脂質を摂らなくても、油分、糖分でああなれるのか? 思わず調べちゃったよ。ヴィーガン=健康的な食生活なわけではないんだな。ポテトチップスが主食でもヴィーガンだ。

 過激派ヴィーガンたちは健康的からほど遠いイメージで、もはやすることがテロリスト。肉屋を襲ってめちゃくちゃに荒らしたり、ソフィーを監禁して殺そうとしたり。


 ヴィーガンたちをハムにするヴィンセントたちが加害者なのに、きっかけとなった彼ら被害者にさらさら同情が湧かない。ソフィーの友だちの大型肉屋夫婦にしろ、胸糞悪い連中ばかりで構成された映画。

 でも観ている間は、笑えるコメディなんだよな。やってることは醜悪なのに嫌悪感をあまり感じないのは、ヴィンセントの持つ善良さが際立って、マクベスの葛藤が最後まで失われないからかな。ただの金銭欲・出世欲だけでなく、根本にある抑圧されてきた憎しみに共感するのもある。それ自体が、同業の友人に馬鹿にされ、軽んじられて蓄積されたもので、真っ当な自分自身を尊重する心から生まれたものだと納得できるから。それに、妻を満たしてやりたい夫としての責任感とか、職業に対する矜持とか、人間的に魅力的だった。やってることはとんでもないけれど。


 自分が向き合っているのは人間か、対象物か。霜降り肉とまでは言わないけれど、相手が人間であることを忘れずにいるのは、意外に難しく、思いがけないきっかけで、視点は切り替わってしまうのだ、と気づかされる。

 





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