「テーラー 人生の仕立て屋」(映画)
アテネで36年間、高級スーツの仕立て屋店を父と営んできた寡黙なニコス。だが不況で店は銀行に差し押さえられ、父は倒れてしまう。崖っぷちのニコスは店を飛び出し、手作りの移動式屋台で仕立て屋を始める。だが道端で高級スーツは全く売れず、商売は傾く一方・・・。そんな時、思いがけないオファーがくる。「ウェディングドレスは作れる?」これまで紳士服一筋だったニコス。思い切ってオーダーメイドのドレス作りを始めるが―!?一歩を踏み出した生真面目な仕立て屋。彼が作る色とりどりのドレスが、新たな出会いと幸せを繋いでいく、希望溢れる感動作!
宣伝文句に偽りあり。中盤まではわくわくしながら観れたけれど……。
職人さんの話が好きだしスーツも好きなので、かっこいいスーツ姿のおじいさん見てるだけで顔が緩む。はさみの形の針が時を刻む時計とか、高級仕立て屋の渋い色合いの内装なんかもツボ。
ニコスの顔にも言葉にも出さないけれど、身体に現れる神経質さや感情が面白い。ほとんど喋らないニコスだけど、父親の正面に座るニコスの顔が少年のようで、この親子関係を見事に表している。
一緒にドレスを作っていく、近所の奥さんとその子供との関係性が良かったのに、関係を持ってしまったのが残念だった。彼女の娘は、仲良しのニコスを母親に盗られて嫉妬しているのか、母親をニコスに盗られ、自分が排除されたことに怒ったのか。子どもだからと邪険にしないニコスが素敵だったのに。
後半は場面と場面の間にどれほどの時間の経過があるのか、説明されずにその場面から結果を読み取るしかない。ニコスの身体言語から読み取れる前半の細やかな感情の流れのようなものが後半はない。
差し押さえがきっかけだったというよりも、彼女と関係を持ってしまったことが結末に繋がっていったのだろうか。店を失うことにはなったけれど、見方を変えればそれは父親からの遅い自立への道に踏み出したということで。
描かれていない場面で、ドレスで稼いだお金は借金返済に使わず彼女への給料として支払い関係を清算した、ということなのかもしれない。
一人になっての旅立ちの姿は悲しくも淋しくもあるけれど、几帳面で個々の人を大事に扱う彼らしいと思える。
しかし、ここ何作か見ている映画、ドラマチックじゃない。静かに人生の流れを追った淡々としたものが続いてる。要素としては十分劇的なのに、見つめ方、受け止め方が淡々としているというか。いろんなことがあって、これも人生さ、と慌てず騒がず。
人生の物語には、ハッピーエンドもバッドエンドもないのかもしれない。




