「パリの調香師 しあわせの香りを探して」(映画)
嗅覚を失くしたわがまま天才調香師と、仕事も親権も取り上げられそうな崖っぷち運転手。真逆な組み合わせは奇跡を起こすのか?!香水業界での再起をかけた爽やかな感動ドラマ。
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職人さんのドラマが好き。
絶対音感のある人は、音程の狂った音がとてもストレスに聴いたことがあるけれど、この調香師も、絶対嗅覚(ってあるのかな? )のために、日常のいろんな香りに過剰反応して生きづらそう。
運転手はこれは何の成分か、なんて彼女のように知っているわけではないけれど、日常に結びついた言葉で表現するのが上手い。
そして、内向性の彼女にとって、社交的な彼の振舞いや人当たりの良さは、自分にないものであり羨望に値するものでもあったみたいで。
いっけん傲慢で我がままにみえる調香師は実はとても不器用で、自分自身が外からどう見えるかを、考えることもできないほど情緒的に幼い人のようで。
香りの世界の中でだけ生きてきた彼女が、外の世界に触れようとバーに行く。だけど馴染まない。彼女は彼女であって、その風景のなかに溶け込めない。その姿がとても、自我が確立されているようにも見え、徹底して個である孤独そのもののようにも見え印象的だった。
彼女にとって、自分の香りの世界を理解し、共感的に見つめ、なおかつ世界と断絶することなく生きることのできている運転手との出会いは、とても優しい神様からの贈り物のように思えた。そして運転手の彼にとって、自分では価値をおいていない、そして他者から評価されることもなかったのであろう彼の性質や能力に価値を見いだし、新しい世界を拓いてくれた彼女の存在は、それこそ宝くじに当たったようなものなんじゃないか。
それなのに、恋にならないところがいい。
ずっと無表情だった彼女の顔が、ゆっくり変化していく、笑顔が出てくるのが嬉しい。他者とのコミュニケーションの取り方を今さらながら学んでいくのが嬉しい。
調香師って、こんな仕事もするの! と、驚きの内容もあり。
だけど淡々と進んで決してドラマチックとは言えない。
すごく好きで面白い映画なんだけど、印象はとても地味です。丁寧に説明してくれない場面と場面のつなぎを推察で埋めながらついていく、とか、そんなところも好きなんだけど。




