「プラダを着た悪魔」(映画)
監督David Frankel
出演Meryl Streep, Anne Hathaway, Emily Blunt
恋に仕事にがんばるあなたへ贈るゴージャス&ユーモラスなサクセスストーリー。ジャーナリストをめざしてNYにやってきたアンディ。オシャレに興味のない彼女が、世界中の女性が憧れる仕事を手にしてしまった!それは一流ファッション誌“RUNWAY”のカリスマ編集長ミランダのアシスタント。しかし、それは何人もの犠牲者を出してきた恐怖のポストだった!悪魔的にハイレベルな要求と鳴り続けるケイタイ、「センス、ゼロ!!」と酷評され、私生活はめちゃめちゃ。このままでいいの? 私って、本当は何をしたいんだっけ?
何年か前に観たのを、あーこさんと再視聴。以前印象強かった面が今回はそれほど心に残らなかった。全体の感想はそう変わらないように思う。
ミランダの最後の言葉、「あなたは私に似ている」に続く、他人よりも自分の意志を優先する。という指摘に納得。
アンディが口癖のように言うのは、「仕方がなかった」。自分の行動は全て悪魔のように思いやりのないミランダのせい、自分が相手に味合わせた不快は、自分のせいではなく、彼女のせい。だから自分は悪くない。
こんな自己犠牲せざるを得ない理由を悪気なく他人に押し付ける部下のために、彼女は悪魔でいるのかな、と思ったりも。
自分の知らない誰かにどう思われようと構わない。自分を言い訳にしてでも、部下が働いてくれればいい、と自分を最優先することを習慣づけるための無理難題。……かどうかは分からないけれど。
アンディがこの世界に馴染んでいく入り口になったのが、まず服装。彼らにとってファッションはアイデンティティの表現で、確かにアンディは、自分の職場も仕事も、そこに携わる人たちにも、「無関心」だと全身で表現してたんだな。そして職業的アイデンティティを獲得していくことが、それまでの友人や恋人との間にミゾを作ることに繋がっていく。
そこからの彼女の頭にあるのは、完璧なアシスタントをこなすことだけ。ミランダの望みを先回りして叶えることで、自分の有能さをアピールすることに満足しているだけのようで、仕事ができる、忙しいって文字通り、心を亡くすことなのかと。
けれど最後まで観て振り返っての印象は、流されやすい依存的な子。
「仕方がなかった」と呟きながら、その実、貪欲。
初回に観たときは、新しい職場環境に理解のない彼氏や友達が初めはちょっと嫌で、その理由が、本来のやりたいことであった硬派のジャーナリストになるという夢からそれていってしまっている彼女を憂いてのことと解って、ああいい友達なんだ、と納得した。
けれど今回は、アンディの主体性のなさが際立って見えた。だから最後の決定は、親しい間柄だったナイジェルの出世を踏み躙る仕打ちと、ミランダの生き方についていけないという以上に、彼女は「あなただってしている。自分の意志で選んでいる」という指摘に、目を覚まされたんじゃないか。
「仕方がない」と責任放棄して生きることはもうかなわなくて、それならば自分の意志で選択して生きたい場所は、ここじゃない、と。
意識高い系のファッション界のミランダたちと、アンディたちの思考の差が、大人と子どものようで面白い。けれど、見方を変えれば固定化された階級闘争的でもあって、どちらかが正しく一方が間違っていると言えるものでもない。ただ理解する、分かり合うのは大変だな、と思うだけで。




