俺の妹は漫才をしたがる
第一話 ゴキブリ
「あ、兄さん、ちょうど良いところに」
「ん? どうした?」
「最古の有翅甲虫が出たから退治して」
月曜日、自宅のリビングで、冷たい飲み物でも飲もうかなと冷蔵庫を開けようとしたとき、後ろから灰色パーカーのフードを被った小さな女の子、俺の妹の京華が何やら困ったように俺に声をかけてきた。
「ところで最古の有翅昆虫ってのは何だ?」
「え〜兄さん、知らないんですか〜? 学ないなぁ〜」
「うっせ! どうせお前が知っているのって、ネットとかで適当な知識だろ!」
「まぁ、そうなんですけど」
「そうなのかよ!?」
「それはさておき、兄さん。私の部屋にその黒い物体Gが出ましてね」
黒い物体Gと聞けば、もう流石のおれでもわかった。
「あぁ、皆まで言うな。京華、お前の言葉でピンッと来たぜ」
「え? キーンじゃなくて?」
「いや、なんで俺がかき氷を食べたあとみたいなリアクションを今取らないといけないわけ!? キーンじゃなくてピンだよピン!」
「確かに兄さん、普段の生活でピン高校生を演じていますが……」
「人を友達が一人もいない寂しい奴みたいに言うな! まぁ、友達と呼べる奴なんて数えるくらいしかいないけど」
「え? 私は妹だから友達にカウントしちゃダメですよ?」
「何処の世界に妹を友達とカウントする悲しい男子高校生がいるかっ!」
この妹には兄を敬う気持ちなど、ひとかけらも持ち合わせていないのだろうな。とんでもない美少女なだけに、性格もとんでもないようだ。
「兄さん、なんの話をしているんですか? 真面目に妹の話を聞いてくださいよ!」
「お前が真面目に話す気がないからだろ!?」
「兄さん、冷静に。常にクールな心を忘れるなっていつも死んだ父さんが言ってましたよね?」
「勝手に父さんを殺すな!? 今もちゃんと汗水流して俺たちのために働いてくれているから!! あと父さんが常にクールでとか言っているところ聞いたことねぇから!!」
「ふふっ、そうでしたそうでした」
ったく、この妹は。
「それで、部屋にゴキブリが出たんだろ?」
「え? なんでわかったんですか!? 兄さん!? もしかして超能力者!?」
「さっきお前が言ってたろうが!!」
仰々しく驚き慄く我が妹。
やれやれ、こいつと話すと疲れるな。
「兄さんと話すと何だか疲れます」
「それはこっちのセリフだよ!? あとナチュラルに地の文を読むんじゃない!! そんなことできるお前の方がよっぽど超能力者だよ!?」
「超能力者って兄さん、なに言ってるんですか? もう兄さんも高校三年生なんだから中二病はさっさと卒業しないとダメですよ?」
「お前もさっき言ってただろうが!?」
「ふふっ」
こいつは数秒前のことすら忘れてしまう愚か者なのか? 中学校の成績はいつも一番のくせに。
「ところで中二病と言えば、私が丁度その年になるのですが、私はまだ中二病にかかっていないんですよね」
「そういえば京華、お前もう14になったんだな」
「うん、やっと伝説の初代プリ◯ュアのお二方と同じ年齢になれました!」
「いや、なれたから何!? 特になにも起きないと思うけど!? あとお前にとってのプリキ◯アって何なの!? どうゆう存在なの!?」
「は〜早く怪物に襲われたいなぁ〜」
「いや、それどういう状況だよ」
「そうしたらなんか妖精が現れて」
「現れねぇから、そんなもん」
「そして、不思議な力をもらった私は変身してその怪物を殴り殺すの」
「物騒だし、その考えが出てくること自体お前はもう十分に中二病だよ」
冷静に諭す俺。この妹、すでに中二病にがっつり感染していた。末期である。
「はいはい、お前の中二病の妄想を聞いていたら、話が全然進まんわ。さっさとお前の部屋のゴキブリ退治するぞ」
「ゴキブリという名前のザケ◯ナー?」
「プリキュ◯ネタはもういいから!!」
「さすが兄さん、私と一緒に見てただけのことはありますね。これだけで話が通じるとは……」
「……………………」
いや、健全な男の子だったら見るよね? 絶対プ◯キュア? 見るよね!?
「さて兄さん、そのネタはもう置いておいて、さっさと私の部屋に来てください」
「お前が振ってきたんだろうが!!」
やれやれ、こいつは本当に厄介な妹だ。だが俺は妹とこうして話すことをそれ程嫌な気持ちはない。むしろ結構楽しいくらいだ。学校であまり話す奴がいないからとかは言わないようにな。
俺たちは、京華の部屋まで来ていた。
部屋は小綺麗に掃除されていて、ほのかにいい花の香りがした。こういうところはちゃんとしていて女の子らしい妹だった。
「京華の部屋ってちゃんと掃除してあるのに、ゴキブリが出るって珍しいよな」
「それは兄さんの部屋が隣にあるからですよ」
「人の部屋をゴミ屋敷扱いするな!! 俺もそこそこ綺麗にしているよ!」
「ごめんなさい、兄さん。少し口が滑ってしまいました」
「口は滑らすな! 閉じろ!」
「お口はミッフ◯ーちゃんと言うわけですね」
両手の人差し指で口元をバッテンしている京華。
「ちょいちょいパロディネタを挟むな! 冷や冷やするだろ」
「でも兄さん、私とこうやってお話しするの好きですよね?」
「まぁ、嫌いじゃないな」
「またまた〜本当は大好きなくせに〜」
うりうりと指でぐりぐりしてくる。
「はいはい、大好きだよ」
「やった〜私も好きですよ! 兄さん」
ギュッと抱きつく京華。
俺たちは何の話をしていたのだろうか?
まぁ、いいか。覚えていないと言うことは、そうたいして話じゃないってことだろ。
「じゃ、せっかく私の部屋に来てくれたことですし、これから24時間耐久◯リキュア鑑賞会といきましょうか?」
「あぁ、そうするか」
それで俺たちは二人仲良く隣同士で、プリキ◯アを見るのであった。
……………………ゴキブリは!?
了