第九話 巨乳の谷間はいい匂い
間近で見ると、大魔神は想像以上にデカかったが、壊された甲冑の一部がボロボロと落下する中を掻い潜ながら懸命に御札を探す。
六畳ほどありそうな片足が目の前で土煙を上げながら動き回る傍を通るだけで命がけだが、それでも大魔神を見上げながら何処かにそれらしいものがないか目を凝らす。しかし幾ら下から見ても確認できるのは精々腰の辺りまでで、上半身はなにも見えない。
――クッ、上の方はどうすりゃいいんだよ……。
突然、大魔神の巨大な足がぐぐっと上がり、そのまま突き出すと殴りかかってきた巨大珍念の腹に見事にカウンターヒットした。
「――うっ!」
――バキバキバキ……ズワァァァァン……
巨大珍念は雑木林の樹々を散々薙ぎ倒しながら土煙を巻き上げ、派手に転倒した。林の中にいた鳥たちが一斉に飛び立つ。
「おい珍念! 大丈夫か!?」
腹を抑えたままゴロゴロとしばらく転がった後、片手をついて起き上がり「油断したわ――」と野太い声を出して珍念は立ち上がった。
「おい、珍念! 大魔神を何とか倒せねぇか? 上半身の方が何も見えねぇ」
「判った。やってみるわ。勇ちゃん巻き込まれないように注意してね」
立ち上がった巨大珍念は、首を左右に傾けボキボキとその関節を鳴らすと、巨体からは全く想像も付かない速度で大魔神にショルダータックルをぶちかます。
――ドカァァァァァァーン!
行き成りの攻撃で大魔神は避けることが出来ず、珍念に押し倒されて地面に大の字になる。辺りは激しい揺れが起き、土煙が周囲を満たす。
「よしッ――!」
勇次は大魔神の顔の辺りに向かって駆け出す。倒された大魔神もじっとしている訳ではなく動き回っているため迂闊に近づけないが、なんとか右肩辺りに近づいた勇次は両手でドスを持って大魔神に突き立てる。
道玄が呪を掛けた勇次のドスは錆びついた青銅色の肌にいとも簡単に突き刺すことが出来たが、その直後大魔神が立ち上がったため、勇次はドスを突き刺したまま肩に乗るような格好になってしまった。
「勇ちゃん!!」
遠くで戦いを見ていたかすみが思わず声をあげる。
「――うおぉぉ、マジかい……」
立ち上がった大魔神は五十メートルほどある。その肩口から見下ろした地面は土煙が渦巻き、宛ら雲海の上に居るかのようである。
勇次は四畳半程ある大きさの耳を間近で見ながら、大魔神が立ち上がったせいで突き立てたドスが足元にきてしまったため、振り落とされないようにドスを慎重に引き抜いて、すぐさまこめかみ辺りに突き立てた。どうやら大魔神は痛覚や触覚などという感覚は無いらしく、勇次が何処にドスを刺そうが判らないようだった。
「――ここから見ても御札なんてねぇぞっ、どうすりゃいいんだ! おい珍念、反対側の顔とかに御札はねェのかい?」
「勇ちゃん、ワタシから見ても、御札らしきものは見つからないわぉ――」
巨大珍念は勇次が大魔神に乗っているせいで、攻撃をせずに遠巻きにして様子を伺っていた。そこへ大魔神がドシンドシンと走りながら突撃を開始する。
「うわッ、うわッ。畜生、こいつ走るんじゃねぇよ!」
こめかみに突き立てたドスを離すと墜落してしまうため、勇次は振り落とされまいと両手で必死に握っているが、その様は大魔神が簪を差しているかのようだった。
――っつ、こりゃ耐えきれねェ……。
勇次は前後左右に激しく振られ、遂にドスがこめかみから抜けてしまい、振り落とされてしまう。
――ヤバ――っ!
「勇ちゃん!」かすみが息を呑む。
勇次は木の葉のように宙を舞い落ちる――しかし、巨大珍念が懸命に両手を伸ばして掬い上げるようにして勇次をキャッチした。
「大丈夫だった?」
そう優しく訊ねるが、目の前にある巨大化した珍念の顔を見て、勇次はその衝撃で気絶しそうになる。
「――うっ! あ、あァ……なんともねェ。助かったぜ、珍念」
「よぉーし、あいつぶっ壊してやるわ! 勇ちゃん、ちょっと邪魔だからここに居て」
巨大珍念は勇次を摘み上げると、自分の自慢の爆乳の谷間に勇次を押し込んだ。
「うが……。おい、ちょっと。うへぇ……。珍念、汗がすげぇな……。ベトベトだぜ――。でも、匂いだけは女みてぇだな、その分だけ命拾いしたぜ……」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
珍念は大魔神に向かってドシンドシンと突進し、強烈な右ストレートをその凹んだ顔面に叩き込むと、顔面がひび割れて崩壊し、空洞になっている中身が顕になった。
「やっぱり大魔神の中身は空っぽなのね」
「あ! おい珍念! あの顔の中!」
勇次が壊れた顔面から見える大魔神の内側を指差すと、そこに御札が貼り付けてあるのが見える。
「大魔神の内側に御札を貼り付けてあったのね!」
「珍念、俺をあの中に放り込んでくれ。あの札にドスを突き立ててやる!」
「判ったわ」
巨大珍念は巨乳の谷間から勇次を摘み出して軽く握りしめると、そのまま大魔神に突っ込んでいき、再び右ストレートを放つように手を伸ばして、割れた大魔神の顔面に手を突っ込んで勇次を離した。
勇次はそのまま手にしたドスを御札に突き刺して、そのままグイッと手首を捻る。
「往生せいやぁぁぁぁぁぁぁ!」
ドスを突き立てられた御札が激しく発光し、辺りを眩い光で包み込むと、大魔神は一瞬で唯の泥人形に姿を変え、力なくガラガラと崩壊し完全に瓦礫となってしまった。
「やったです!」かすみが喜んで両手を上げて飛び跳ねる。
「おぉ。見事。流石討伐者じゃのぅ」
道玄は緊張の糸が解け、安堵した顔つきになる。
瓦礫の山から這い出してきた勇次が、肩で息をしながら巨大珍念を見上げると、同じようにはぁはぁと呼吸を荒くしている。
「やったな、珍念……」
「そうね、ワタシ疲れたわ……」
巨大珍念がそう言ってドシンと膝を突くと、紫色のオーラがブワッと急激に発散して、その後に元の姿に戻ったいつもの珍念が現れた。
「おい、大丈夫かよ――」勇次が心配して声を掛ける。
「ワタシこの呪術を使うと、暫く動けなくなるのよ――。勇ちゃん馬車までおんぶしてってぇ」
「ったくしょうがねぇ……」
勇次が珍念をおんぶしようと屈んだ時、背後から声が聞こえた。
「へぇ、大したもんだ。私の玩具を壊すなんて、思ったよりやるんだねぇ――」
大魔神が上がってきた崖の突端を見ると、そこに長い髪を風に靡かせながら、赤い花魁煙管を咥えた一人の女が立っていた。
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