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第五話 大魔神

「――それで、白虎とかってヤローの情報ってなんだい?」


 そう言いながら客間に入ってきた勇次は、珍念の方を見ずに囲炉裏端に座り、懐から煙管を取り出して咥え、囲炉裏の炭に渋い顔をしながら近づいて火を点けた。

 正面に座る珍念は胡座あぐらをかいており、短い装束の中の派手なショッキングピンクのパンツが勇次には丸見えだったため、それを見せられるのが苦痛だったからだ。


「勇ちゃん、白虎っちゃんはヤローじゃないのよ。女。それ以外は何も判らないんだけどね。オンナなの。ゲスいことに」


 珍念は相当女嫌いらしく、下着のどぎついピンク色のような毒を吐く。


「女だァ? てっきりイカツイくそヤローか、そこのロリコン坊主みたいなクソジジイかと思ってたけどなァ。しかし……女だからゲスいって……ひでェな」


 相変わらず目線を逸し、勇次は囲炉裏の炭を鉄箸で愛撫しながら他人事のようにしているが、かすみはちょっとその話が癪に障ったようだった。


「そうですよ、珍念和尚様! かすみだって女なのです!」


 かすみは口をへの字に曲げている。


「あぁ、そうだったわね。かすみちゃんは別なのよ。チョー可愛いし。うふ!」


 そう言いながら珍念は、その丸々と肥え太った身体付きからは想像できない俊敏さで飛び付くようにかすみに抱きついた。


「ギャー」またかすみは一瞬で気を失った。


「おめぇら仲良くなったのかと思ったら、全然だったんだな……。かすみ……可哀想に。成仏しろよ」


 その素早い動きで一瞬驚いた勇次だったが、珍念に抱きつかれてぐったりとしてるかすみを見て――難しい話をするんだし寝てたほうが良いだろうと思い――祈るように手刀を切るような仕草をした。


「こら、勝手にかすみを殺すな、腐れ外道。珍念、さっさとかすみを離せ。全くどいつもこいつも……」


 それまで無口で煙管を咥えていた道玄が呆れたように煙をフーっと吐き出して、囲炉裏端に煙管をカンっと叩きつけて灰を落とす。


「じぃさん、珍念の前ではカッコいいねェ」


 勇次は道玄の顔をにやりとして見る。


「煩いわ。――それで珍念、白虎の情報をさっさと言わんか!」


 ちょっとバツの悪そうな顔をしてあからさまに話を逸らす道玄。


「あぁ、そうそう。アタシたちが今日買い物に行った太宰町だざいまちで聞いたんだけどね、白虎ちゃんがやった動大仏の儀で動き出した大仏――大魔神だいまじんって呼ばれてるらしんだけど、それが太宰町に向かって進んできてるんだって! もうやになっちゃうわよねぇ。桃色幻想郷無くなったらどーしてくれんのよぉ!」


 珍念があぐらをかいた自分の足をドンドンと手で叩く。するとその度に装束が捲れ上がって気持ちの悪い下着がチラチラと見え、同時に爆乳のおっぱいがブルンブルンと揺れる。目の前でその醜態を見せられている勇次はすっかりやる気を吸い取られてしまう。


「はァ…………。それは別にどうでもいいだろうよォ」


 投げやりな勇次の言葉に敏感に反応した珍念が丸々とした頬をぷくっと膨らませた――本人は最高に可愛い仕草のつもりのようだ。


「何ってんのよ! 大事に決まってるじゃないの! もし桃色幻想郷がなくなったら、ワタシは毎日すっぽんぽんで生活しろって言うの? あ。そうね……それも悪くないわねぇ……。折角巨乳になったんだし、見せびらかそうかしら」


 自分で言い放った言葉に自分自身が感化されて、頭の中でキュートで天使のような自分の裸体を妄想した珍念はアホ面になって口が半開きとなり、涎がすーっと糸を引きながら落ちる。


 ――気持ちの悪いアホ面、糸を引いて垂れる涎、無駄な爆乳、下品なパンツ……。動機は充分に揃ったな……。


「――お前を先に往生させたくなってきたぜ、カマ坊主よォ……」


 勇次の鋭くカミソリのような熱視線を全身で浴びた珍念は怯え……たりすることは全くなかった。むしろ自分が強く見つめられたことに喜びを感じているようだった。


「またぁ、そんな目で熱くワタシの事を見つめちゃってぇ。ウフ」


 勇次が堪え切れず気持ちの悪いものを、もう見たくないと言わんばかりに目を強く閉じて、珍念に飛びかかろうとした。


「往生せいやぁぁぁぁぁぁぁ!」


 勇次らのやり取りをじっと見聞きしていた道玄が声を上げた。


「待て、勇次! 珍念もいい加減にせんか、たわけが!」


 珍しく道玄に制止された勇次は、我を忘れて頭に血が上っていた事に気が付いて動きを止める。珍念は両目を見開いて大きく開けた口を片手で覆いながら「ごめーんメンゴ」とおどけて謝る。

 相変わらずの珍念に弱り果てたように道玄は話を本題に戻そうとイライラとする。


「それでっ! 大魔神のことについて、他に情報はないのか?」


 珍念は顎の下に人差し指を当てて、天井の隅を見つめるようにしながら――本人はこれが最高に可愛い仕草だと信じている――町で聞いてきた話なんだけど、と前置きをして話し始めた。


麻生山あそうさんで儀式を行った後、大魔神は歩いて太宰町に向かってて、遠くから見かけた人の話だと、大きさは五十メートル位らしいわ。まさに大魔神よねぇ……。あとね、全身が青銅で出来たような皮膚で覆われてて、鉄兜と鎧を身にまとっていたそうよ」


 想像以上の大きさに勇次は驚愕して、先程までの茶番が吹き飛ぶ。


「五十メートルの歩く仏像で青銅の肌だァ!? そりゃ……ちょいと難儀しそうだなァ……」


「やはり勇次の短刀は使えそうにないのぅ」道玄も苦々しい顔になっている。


「じゃ、エロ坊主らの呪術頼りって事になるか」


「そうじゃが、わしらの呪が通用するのかどうか……。こればかりはやってみんと判らんな。で、珍念、大魔神は後どれくらいで太宰町に辿り着きそうなんじゃ?」


「歩いて来てるから、まだ当分町には来ないんじゃないかしら? そうねぇ……あと一月ひとつきは掛かるんじゃない?」


「そうか……。それならしばしの猶予はあるのぅ。もっとも町に着く前には何とかせんと、被害が出てしまうでの――」


 道玄は煙管に煙草を詰め、囲炉裏の中から鉄箸で赤く染まる小さな炭を一つ摘んで、火皿に近づけるとチリチリと燃え始めた煙草の煙をくっと吸い込んで、大きなため息を吐くかのように煙を吐き出す。


「う、うーん……」


 珍念に抱きつかれて気を失っていたかすみが目を覚ましたようだった。


「お、かすみ、気がついたのかい」


「――はい……。珍念和尚様のハグは強烈なので……、かすみは耐えきれないのです」


 かすみは俯きながら、ちょっと恥ずかしそうにしている。それを見た珍念が口をすぼめて残念そうしながらも、直ぐにニコリと気持ちの悪い笑顔をかすみに向けた。


「あらぁ、そうだったのね! ごめーんメンゴ。今度からもっと優しく抱きしめるわね、ウフ」


 珍念の笑顔を見たかすみは、座ったまま少し後ずさるようにする。


「い、いえ……。その……、出来れば止めて欲しいのですが……」


「あっらぁ、かすみちゃんたら! 子供が遠慮するもんじゃないわよ! ホントかわいいわねぇ……。あぁ、食べちゃいたい」


「や、やめてください……」かすみは怯えている。


 二人のやり取りを見ていた勇次が、何度同じことをしても懲りない珍念に呆れて言う。


「ったく……。かすみに手ぇ出すんじゃねェよ」


 少しやり過ぎたのかも知れないと珍しく感じた珍念は、仕方ないなと言わんばかりに立ち上がった。


「お熱いわねぇ――。ノロケ聞かされちゃって、何だかワタシ熱くなってきちゃったから、お風呂入ってこよっと! おっぱいが大きくなっちゃったから、下乳のところに汗疹あせもが出来るようになって大変なのよぉ。かすみちゃん、ちょっと見てもらえる?」


 おもむろに着ている装束をバサッと脱ぎ捨て、ド派手なピンクのパンツ一枚になった珍念は、自分の大きすぎる乳房を両手で持ち上げて、その下乳の部分が汗疹で赤く腫れ上がってるのをかすみに見せた。


「ギャー!」かすみはそれを見てまた気絶した。

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