第一章 珍念和尚登場
第三章、始まりました!
「さて、着いたようじゃの」
大きく改築された異界通路部屋で馬車に乗ったまま移動をした勇次らは九州圏の点鉱寺に到着しようだった。
「なァ、エロ坊主、外に出る前に聞いておきたいんだが、ここの和尚ってどんな奴だい?」
勇次は九州圏の住職について海道が少し言葉を濁していたことが気に掛かっていた。
「どんな? そうじゃのぅ、ち、ちと変わってるかもしれぬが、大したことはない……ぞ」
明らかに道玄の挙動が不審である。勇次は「またかよ……」とちょっとげんなりする。
「北海道圏の海道の師匠なんだろ? でも何だか反りが合わなかったとかって言ってたが?」
「うむ、ここの住職は、珍念といい、位階は従五位上じゃから、その霊力は目を瞠るぞ」
道玄の動きは心做しか落ち着きがないように見える。そして、明らかに話を逸らそうとしていた。
「じぃさん、俺はそんな事は聞いてねェ。変態かどうかって訊いてんだ!」
勇次が道玄の煮え切らない態度を見て、イライラとする。
「勇ちゃん、変態ってなんですか?」
いつもの様にかすみが大人の会話に口を挟む。
「このじじぃみたいな病気の人の事を言うんだ!」
「道玄和尚様、まだ病気のままなのですか? かすみが呪を掛けてあげます」
かすみは驚いて道玄を可哀想と言わんばかりの目をして残念そうに見つめる。
「煩い! わしは病気などではないわ! 腐れ外道め」
「イイから、早くどんな奴か教えろや!」
勇次は道玄の装束の胸元を掴んで激しく前後に揺らす。
「うが、うが……。こら、止めろ勇次。言うから、言うから……」
「素直にさっさと言えばいいんだよ。で、どんな変態なんだい?」
――バーン!
「ちょっとぉ、遅いじゃないのぉ。着いたら早く出てらっしゃいよぉ。もうワタシ待ちくたびれちゃったじゃないのぉ」
馬車の外から場末のオカマバーで朝まで飲んだくれて酔いつぶれたような気持ちの悪い声がする。誰かが異界通路部屋のドアを開けて入ってきたらしい。
「なァ、じいさんよォ。あの気持ちの悪いオカマ声は……まさかだよなァ?」
勇次が訝しい目つきをして道玄を見る。
道玄は勇次の手をサッと振り解き、馬車の外へ逃げるように飛び出す。
「あ、待てや、ロリコン坊主!」
道玄を追うようにして馬車の外へ飛び出すと、そこには、大きな赤い布をリボンのようにしたポニーテールをしていて、背丈は百六十センチ程、体重はおおよそだが、百キロ程の巨漢の持ち主が立っていた。服装のセンスは勇次の目にはかすみとそっくりに見えた。年齢は四十代半ばといったところだろうか。本人は綺麗にしてると思われる派手な化粧がバケモノ感を増幅させていて、更に身に付けているピンク色の極短装束の胸元がガバっと開いていて、残念なことに爆乳の谷間が見えていた。
――デブでブサイクで爆乳でオカマって地獄のフルコースじゃねぇか……。
それが勇次の第一印象だった。
「ぐっ……。す、凄いな、コレは……。かなりのマニア専門店でも中々見かけない逸材だぜ……。ヤベぇぞ」
勇次は珍念を見て思わず声に出してしまう。
「勇ちゃん、かすみを置いていかないでくださ――あっ」
「かすみ、見んな! 見るんじゃねェ。目をやられるぞ――っ!」
勇次はなぜか、かすみには見せてはイケナイものの様な気がして、慌てて飛び出してきたかすみを抱きかかえて、その目を手で覆った。
「ヒッドーイ。ねェ、道玄ちゃん、こちらが討伐者様かしらぁ?」
珍念が勇次を見て、何故だか嬉しそうにする。
「あぁ、そうじゃ。それと、かすみじゃ。珍念和尚、久しぶりじゃな……。しかしその乳……。まぁ相変わらず……いつも元気そうじゃの……」
道玄は一度暴発しそうな珍念の胸元をチラ見した後、明後日の方を見ながら余所余所しく挨拶をした。どうやら目を合わせたくはないらしい。
「うん。元気よ、元気ィ。花丸二重丸ぅ!」
珍念はガニ股になって頭の上で両手を使って丸を作り、そのバケモノじみた笑顔を全開にした。
その仕草を見て勇次は「もう無理だ」と小さく呟く。
「勇ちゃん、勇ちゃん。離して下さい。かすみもちゃんと珍念和尚様に挨拶をするのです!」
かすみは勇次の腕の中からゴソゴソと抜け出して、ペコリと頭を下げて、「かすみです。えっと、勇ちゃんの妻です。よろしくおね――」と挨拶をしながら顔を上げ、珍念の顔を初めて見た瞬間、口が開いたまま動きが止まってしまった。
かすみは、しばらく意識が飛んでいたらしく、ハッとして目をパチクリさせた後、勇次に向かって叫んだ。
「勇ちゃん! し、式神です! 早くやっつけて下さい!」
「まァ、早速のアメリカンジョークね! ワタシそういうのは慣れっこだから良いけど、いきなりジョークをぶち込んで来るなんて、見どころあるわね。好きよ、かすみちゃん」
そう言いながら、珍念はかすみに抱きつく。
「ギャー!」かすみは瞬く間に気絶した。
「あらら、どうしちゃったのかしらね、この子。恥ずかしがり屋さんなのかな? うふ」
「オィ、かすみを離せ。バケモンが」
勇次は珍念の腕の中でぐったりしているかすみを奪い取ると、頬を軽く叩いて目を覚まさせた。
「バケモって……もぅ、夫婦揃って冗談が上手なんだからっ!」
珍念はとにかく打たれ強かった。誰に何を言われても全くダメージを受けないタフな精神力の持ち主だった。
「珍念。とりあえず中へさっさと案内せい。いつまでここに居ればいいのじゃ」
いつの間にか珍念から距離を取っていた道玄が遠くから声を掛ける。
「あ、そうだった! ごめーんメンゴ」
――こいつは一回殺した方がいいんじゃねぇのか?
勇次は珍念の圧倒的な気持ちの悪さにげんなりとして、九州圏の旅が不安でいっぱいになっていた。
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