第十四話 スターライトシューティングスター
「もう出立されるのですか?」
火付盗賊改方所長官の長谷山が勇次ら四人を見送るため、札之町の町外れまで見送りに来ていた。
「鬼も退治したし天神組もぶっ潰した。ここでやらないといけねぇことは終わったからな」
「左様ですか……。慌ただしいですなぁ」名残惜しそうに長谷山が勇次らを見る。
「これが今生の別れという訳でもなし、また何れ相見える事もあるじゃろう。お主も達者でな、長谷山殿」
道玄が長谷山の肩に手を置く。
「討伐者様に、従一位の陰陽師で在らせらせる道玄和尚様。その両名に御会いできるなどという幸運、二度と御座らんでしょうな。拙者これほどの慶び、歓喜に堪えませぬ」
「また会おうぜ、長谷山さんよ。世話になった」と言いつつ後ろ手に手を振って勇次は歩き出す。
「あ、勇ちゃん、待って下さい。お世話になりました」かすみはぺこりと頭を下げて勇次を追いかける。
「皆様、ご達者で。旅の無事をお祈り申す」
長谷山は勇次たちが見えなくなるまで見送りをしていた。
――――――――――――
「なぁ、かすみ。その変テコな棒きれはなんだい?」
勇次は札之町を出てからかすみが持っている派手な棒状の物が気になっていた。桃色幻想郷で揃えたかすみの服装は、ピンク色で相変わらずガバっと胸元が開いた――道玄に言われせれば「谷間が眩しい」極短の丈の着物に黒い帯。そして膝上まである白いニー足袋。靴もピンク色のパンプス。草履でなくパンプスを売っていたのは勇次も店内で見た時は驚いたが、何処からどう見てもただのパンプスだった。
この世界は古い日本の文化と殆ど同じではあるものの、ゴムを加工する技術はあるようだった。そして問題のステッキ――何のために持っているのか勇次には判らなかった。
「これですか? これはかすみの今の一番のお気に入りで、『スターライトシューティングスター』というのです!」
かすみははしゃぐようにして、その派手なステッキを振り回している。
「スターライトシューティングスター? どこかで聞いたことあるような……」
棒きれというか、魔法少女が手にしている様なその派手なステッキは、クリスマスツリーの頂点に付いてるようなキラキラした星の付いたやたらと派手なアイテムで、何の役に立つのかさっぱり見当も付かない。
「なぁ、海道。アレは何か役に立つのかい?」と隣を歩く海道に訊ねる。
「旅籠を出る前に、あの足を覆っている布切れ、えぇ……と、あぁ、ニー足袋ですな。それとあのスターライトなんとかと申す棒きれに、道玄和尚が何やら呪を掛けて居りましたので、恐らくは何かしらの呪術効果があるものと存じまする」
「そうなのかい。まァ何か役に立つのならいいが……」
勇次は今ひとつ腑に落ちないが、細かいことを気にすることもないかといった面持ちで、楽しそうにステッキを振り回しているかすみを見ていた。
「さりとて、かすみ殿と道玄和尚は仲が良いですなぁ……。少し遠目で見れば完全に祖父と孫ですが」
四人で歩く時、かすみと道玄はいつも並んで先頭を進み、その後から勇次と海道が付いていくという構図が自然と出来ていた。三人の時は勇次が一人で後ろからダルそうに歩くだけだが。
「かすみはおじいちゃんだと半ば本気で思ってるっぽいけどな。道玄は完全に自分の欲求を満たしてるだけのようだがなァ。時々かすみのパンツを覗いたりしてるしな」
勇次は既に道玄の性癖はどうにもならないと理解していた。
「道玄和尚はロリコンが極まっております故……。拙僧の様に心に秘めたる乙女心と申しますか、そっと物陰から好きな殿方の御姿を小袖の縁を噛みながら見ているような健気な――」
――ドカっ!
勇次が聞くに堪えないと言った顔で、海道の尻を蹴り上げる。
「痛いで御座いまするぅ」
「ホモの話を聞いてると何だかケツの穴がヒリヒリして来やがるから止めろや。デカい図体してるくせによォ」
「ご無体ですなぁ……」海道は勇次に蹴られた尻を嬉しそうに擦っている。
「……ったく点鉱寺の和尚と言うのは変態じゃないと務まらねぇのかい?」
「拙僧は変態では御座らん。道玄和尚は、何と申しますか……」
「俺には違いが判んねぇわ……」
突然、前を歩いていたかすみがヤキモチを焼いたらしく、勇次の元に駆け寄ってきて手をギュッと握りしめる。
「勇ちゃんは海道和尚様と仲が良いですね。羨ましいです。たまにはかすみと一緒に歩いてください!」
「ホモと仲が良いとか言うのはやめてくれ。俺は普通なんだ。フツウ」
勇次らが次に目指す額叡山の野梅寺までは、四百キロ程の道のりである。歩いて進むため二週間程度は掛かるとみられ、帰来の護符を使いつつ、少しずつ旅の距離を縮める予定で進んでいた。
「なァ、じいさん。ずっとただ歩くのってどうにかならねぇのかい? 馬に乗るとか、それこそ馬車で行くとかさァ。ひたすら歩きじゃやってられねぇぜ」
今は古の日本風な世界に居る勇次は現代の人間である。日常の移動には車や電車を使う。道玄やかすみと違って徒歩のみで長距離を移動するのはかなりの苦痛やストレスを感じていた。
「馬か……。確かに馬があると便利かも知れぬな。考えてもみなんだな。馬車であれば尚の事。札之町に戻っても良いが、あんなにきっちりと見送られたのでは戻りにくいでのぅ。この先の何処かの村で調達してみるとするか」
馬車は江戸時代には幕府が禁止をしていて、使用することは出来なかった。もっとも今勇次が居る世界は江戸時代よりは古く、馬車自体も存在していた。但し、この世界では馬車というものは長距離の物資を輸送することにのみ使われていて、人間を運ぶという使い方はされていなかった。旅は歩くもの――これが至極当然の感覚だった。
「馬車を使って旅をすると言うのは斬新な考え方ですな、勇次殿。拙僧感服仕りました」
海道がうんうんと頷きながら感心している。
「そんな大したことは言ったつもりはねぇがなァ……」
「馬車で移動をすれば、歩かなくて済む上、荷台の中で休むことも可能となるのぅ。わしのように年寄りにはもってこいではないか!」
道玄がなんだか嬉しそうにしてる。やはり長距離を徒歩で進むのはキツイのだろう。
「かすみもお馬さんと一緒に旅がしたいです!」かすみも勇次にしがみついて嬉しそうにした。
――――――――――――
海道の点鉱寺に戻っていた勇次たちは、夕食を終えて、それぞれが思い思いに時を過ごしていた。
縁側に座わり境内でまだ満開のまま夜の春風に揺れている桜を見上げ、勇次は道玄に借りた煙管を咥えていた。
「勇次、ここに居ったのか」
風呂から出たらしい道玄がやってきて、勇次の隣に座る。
「ん? 何か用かい?」
「うむ。考えて居ったのだか、邪鬼との戦いの際に見せたかすみの陰陽師としての力量、可成りのものであった。あれは一度実力をちゃんと見極めておかねばならぬ。正しく把握しておらんと力が暴走してしまうことがあるやもしれん」
「そう……なんだな。じいさんがそう言うのならそうなんだろうな」
「それにあの式神を操って居った陰陽師は、何処かに居ったはずじゃ。恐らくかすみの事も見て居ったじゃろう」
「かすみの正体がバレたかもしれねぇって事かい?」
勇次は灰落しにコンと煙管を当てて、道玄差し出す。道玄は首を横に振り話を続けた。
「それは何とも言えんがのぅ……。かすみは一見した所、唯のちょー可愛くておっぱいが大きくて足がキュキュッとなってて頬を触るとぷにぷにして居って、あの短い丈の着物から時折パンツをちらっと見せてわしを悩殺するだけの娘に見えるが、本来の姿は――」
勇次は急にロリコンになった道玄を見て、煙管で頭を軽く小突く。
「い、痛いではないか!」
「じじぃ、アンタ隙を見つけてはしょっちゅうかすみのパンツ覗いてるよな? バレてないと思ってんのかい?」
「お主はいつも我らの後ろを付いて来るから、もしかしたら露見して居るかもと若干気にはしてたが……、かすみには気づかれて居らんはずじゃ」
今度は少し強めに道玄を小突いた。
「い、痛いと申して居る!」
「かすみは判ってて何も言ってないだけだと思うぜ、俺は」
ギクリとして半笑いになった道玄は焦ったような顔をして若干狼狽える。
「そ、そんなはずは……」
「かすみは、『道玄和尚様が見たいのでしたら、パンツくらい見せてあげるのです』とか言いそうだしな」
「う、煩い! 今はパンツの話などどうでもいいのじゃ!」
縁側に座っていた道玄は、足を前後に急激に揺らした。
「自分で言いだした癖によぅ……。で、どうするんだい?」
勇次が煙管に煙草を詰めて再び火を付ける。
「別に難しいことはない。わしが念を通した式神をかすみに使わせてみるだけじゃ」
「式神? じいさんも使えるのかい?」
「戯けが。陰陽師なら誰でも使える基本的な呪術じゃ」
「あぁ、そういうもんなんだな。へぇ大したもんだな」と煙を吐き出しながら感心する勇次。
「海道だって、わしだって、寺の掃除などは、全部式神にさせておるぞ」
「そうなのか? それは知らんかったなァ……」
――道理で誰も居なそうな寺なのに、綺麗になってると思ったんだ……。
「寺の掃除など面倒臭そうてやっとられんわい」
道玄は勇次から煙管を奪い取り、煙草を詰めて火を点ける。
「そういうの、なんてぇか、罰が当たらないのかい?」
「普段の心がけが肝要なのじゃ」道玄は煙をプーッと吐き出す。
――そういうもんなのかねぇ……。
翌日、かすみの力量を計るための試験が行われることになった。
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