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第四話 だから拳銃は嫌いなんだ……。

 ――誰か居やがる……


 勇次は腰に差してあった拳銃を取り出して、身構える。


「勇次、いいから入ってこい」と中から聞き覚えのある声がした。


「兄貴……。どうしてここが……」そう言いながら中に入ると、行き成りに成田に殴りつけられた。


 吹っ飛んだ勇次は、倉庫の壁に身体をしこたま打ちつけて倒れ込む。


「バカが……。こんな女ほっとけって言ったろ! おめぇ、飛鳥組のチンピラ一人殺ったんだってな……。チッ、どうすんだ。戦争になるぞ」


 勇次は鼻血を垂らしたまま土下座をして謝った。


「スミマセン、兄貴。兄貴や組に迷惑は掛けません。この子無事に逃がせたら、俺殺して下さい。それで何とか……。お願いします」


「舎弟の落とし前は兄貴分が取るのが筋だからな。俺が出向いて謝罪ワビ入れてくる。この歳で指持って行かれるのはキツイが、仕方ねぇ。それで済むかどうかも判らんけどな」


「あ、兄貴! 俺のためにそんなことしないで下さい! 殺して下さい! お願いします!」


「うっせぇ、ギャーギャー喚くな。それよりこの娘さん、さっさと俺の車に乗せろ。で、横浜から出る船に乗せるんだ。台湾の知り合いに話は付けておいたから、まぁ何とかなるだろ」


「判りました……。何から何まで……、スミマセン。兄貴……」


 成田に何度も何度も頭を下げて、勇次がかすみを連れて成田の車に行こうと古びた鉄の扉を開けると、そこには神原が手下を十人ほど連れて立っていた。


「――! 神原さん……。アンタ、どうしてここに……」


「木崎、てめぇふざけたことしてくれたな……。まさかタダで済むとは思ってねぇよな?」


 神原は懐からゆっくりと拳銃を取り出す。周りの取り巻き連中も同じように勇次に狙いを付けている。


「オ、俺の事はどうなっても構わねぇ。ここでぶっ殺してくれていい。ただこの娘だけは見逃してやってくれ! 頼む!」


 勇次はその場で土下座をして地面に頭を擦り付けて必死に頼み込んだ。


「おめぇみてぇな三下のタマ貰っても仕方ねぇんだよ。その娘は当然店で働かせる。おめぇの兄貴の成田にきっちりケジメは取らせる」


「そ、そんな……。クッソぉッ――」


 勇次は殺意をみなぎらせて神原を睨みつける。


「オォ、やんのかい? これだけの人数相手に、おめぇ勝てると思ってんのか?」


 ――パン! パン!


 その時、倉庫の扉が開いて成田が発砲した。神原の手下の一人が頭を撃ち抜かれる。


「勇次、中に入れっ!」


 ――パン! パン!


 更に手下を一人仕留めると、成田はドアを閉ざし、内側から鍵を掛ける。


「いいか勇次。出港する船の船長の連絡先はこれだ。とりあえず急いで裏口から出て逃げろ。そしてお前も一緒に台湾に行け」


「兄貴はどうするんですかい!」


「俺の事はいい。出来の悪い舎弟を持っちまったバチが当たったんだと思って諦める。その娘ちゃんと守ってやれ。さ、早く行け!」


 成田から連絡先を書いたメモを渡された勇次は、倉庫の裏口へ向かって走る。

 裏口のドアを少し開けて周囲を確認すると、こちら側には誰も居ないようだった。勇次はかすみの手を引いてそっと外に踏み出す。

 

 急に倉庫の角から黒塗りのベンツがタイヤを鳴らしながら飛び出してきて、勇次たちに向かって発砲してきた。


 ――パン! パン! パン!


 隣の倉庫との間にかすみを押し込んで、勇次もその後に入る。

 目の前を通り過ぎたベンツがUターンして再び向かってくる。勇次は隙間から飛び出し、運転席を狙って銃撃する。


 ――パン! パン!


 発射した弾は見事ドライバーに命中して車は倉庫の壁に激突して炎上した。

 その隙にかすみを連れて走り出すと、後ろから再び銃声が聞こえる――と思った途端、手を引いていたかすみの身体がぐっと重くなる。


「おい、何やってんだ、走れ! おい!」


 かすみを見ると、背中の辺りがどす黒く染まっている。


「おい! かすみ!! おい! しっかりしろ!」


「勇次さん……。何か背中を強く押されたみたいで……す」


「大丈夫だ。しっかりしろ。意識をしっかり持てよ!」


 勇次はかすみを気遣いながら、撃ったやつを狙って引き金を引く。


 ――パン! パン!


 チンピラを始末すると、勇次はかすみを引き寄せて、再び倉庫の隙間に身を潜めた。


「おい、かすみ。しっかりしろ」


 かすみの肩を揺らし、頬をパチンと叩くと、閉じかけていた目が薄っすらと開く。


「おぉ、頼むからこんなところで死なないでくれ。俺はあんたの親父さんの願いを聞届けてやれなくなっちまう」


「大丈夫ですよ、勇次さん……。お父さんに会ったら、ちゃん……と、言っておき、ま……」


 かすみはそこで事切れた。


「くそがぁぁぁぁぁ!」


 勇次は倉庫の壁を思いっきり殴りつけるが、こうなってしまった以上、もうどうすることも出来ない。

 

 ――そうだ、兄貴!


 勇次はかすみをゆっくりと寝かせて成田の元へ駆けつける。

 成田は既に何発も弾を喰らい全身血まみれになっていて、それでも必死で抵抗をしていた。


「な、に、やってんだ……勇次、逃げろって言った、ろ」


「兄貴、もう、しゃべらないで下さい。後は俺がやりますから、そこで休んでて下さい!」


 神原の手下は残り三名だった。まさか勇次が戻ってくるとは思っていなかった手下どもが、死にかけている成田の元へ突っ込んできた。


 ――パン、パン、パン!


 勇次が撃った弾は見事にそいつらを仕留め、残りは神原だけになった。


「くっそ、勇次! おめぇだけは絶対にぶっ殺す!」


 神原は車に乗り込みエンジンを掛けると、全速力で車ごと倉庫に突っ込んできた!


 ――ガシャガシャシャーン!


 倉庫の扉がぶち壊され、車に跳ね飛ばされた勇次は倉庫にあったガラクタに激しく身体を叩きつけられ、倒れて動けなくなる。


「グハッ……」


 打ちのめされて身動きが出来なくなった勇次に、車から降りてきた神原が狙いをつける。


「三下がァ、調子に乗りやがって、死にさらせ!」


 ――パン!


「グフっ……」


 そこで血を吐いたのは神原の方だった――。成田が撃ったのである。


「成田ァ……、てめぇ……」


 神原は成田の方に向かってフラフラと歩いていき、その頭を目掛けて拳銃を発射する。


 ――パン、パン!


 至近距離から射撃された成田は、それ以降ピクリとも動かなくなった。


 ――あ、あにき……。


 声に成らない勇次は涙を溜めて、神原に狙いを付けて、引き金を引いた。


 カチ。


 弾が出ない――。


 カチ、カチ、カチ。


 何度引き金を引いても弾は出なかった。撃ち尽くしたのだ。


 ――クソッ! だから拳銃ハジキは嫌いなんだ……。


 勇次はフラフラと立ち上がり、いつも持っていたドスを懐から取り出すと、ゆっくりと短刀を抜き出して腰を低くして構えた。

 成田に撃たれた神原は、立ってはいるものの、かなりのダメージを負っていて、肩で息をしている。


「神原ァァァ、往生せいやぁぁぁぁぁぁぁ!」


 そう叫びながら勇次は神原に向かって突っ込んだ――。


 ――――――――――――



 満開の桜から舞い落ちる桃色の花びらが、月明かりにほんのりと照らし出されて、穏やかな春風ではらはらと踊っていた。


 かすみは縁側に腰掛けてその様子をじっと見ている。


「夜桜か……」


 ――そういやあの娘もかすみって名前だったな……。


 勇次は、かすみの頭を撫でて言う。


「いい女になれよ、かすみ」

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