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第一話 海道和尚

第二章スタートです!


 勇次たちが眩い光に包まれたと感じた次の瞬間、さっきと全く同じ小部屋の中にいた。


「どうなったんだ? 何か変わったのかい?」


「さっきと同じお部屋なのです」


 かすみがキョロキョロと部屋の中を見回す。


「さ、着いたぞい。付いて参れ」


「え? 着いたって何処へ?」


「北海道圏の点鉱寺じゃ。ここは海道和尚という、ま、ちょっと癖のある者が住職をしておる」


「癖ねぇ。ロリコン坊主ほど癖の強いやつが居るとは思えねぇけどな」


「いいから、黙って着いて来い、腐れ外道」


 道玄の後を付いて小部屋から出ると、そこは何処かの寺の本堂らしく、旅立った時と同じく観音菩薩像の裏側だった。ただし観音菩薩像の正面に回ると本堂らしき建物の中はまるで違っていて、観音菩薩像自体は変わらなかったが、本堂は広く畳敷きのスペースが二十畳ほどあって、その周りを板張りの通路が囲んでいる。

 本堂の天井には、吊り下げられている、人天蓋にんてんがいと、観音菩薩像の上にある、仏天蓋ぶってんがいが金色に鈍く光輝き、荘厳な雰囲気を醸し出していた。


「ほぉ……こりゃすげぇな。俺にはよく判らんが、立派なもんなんだろうな」


 勇次が本堂を見渡しながら感心する。


「本当ですね。とてもキレイです」


 かすみも見惚れているようだった。


「何処ぞのロリコン坊主の寺とは随分な違いだな」と勇次がちらっと道玄を見る。


「これじゃから最近の若いモンはだめだと言われるんじゃ。わしが住職をしとる点鉱寺の方が由緒正しく、歴史もある寺なんじゃぞ。侘び寂びが理解出来ぬようでは、勇次もまだまだ小童こわっぱよのう」


 道玄が余裕綽々といった感じの蔑んだ眼差しを勇次に送る。


「そりゃ、あんたに比べたら青二才だろうよ」


 本堂の扉を開けると、そこに北海道圏の点鉱寺住職である海道かいどうが出迎えのために立っていた。


「これはこれは、道玄和尚様。お久しぶりで御座います。御健勝で在らせられましたか。おや、そちらの御仁が討伐者様ですかな。それと可愛いらしい娘。楽しそうなお供をお連れで御座いますな」


 にこやかに微笑む海道は髭剃り後が青々としていて、勇次と殆ど同程度の背丈で百八十センチ程。がっちりとした体つきの迫力ある住職だった。ちなみに道玄とかすみの身長は殆ど変わらない。道玄が百五十センチ程度、かすみは百四十五センチちょっと、といったところだろうか。


「大きな住職様ですね。私はかすみと申します。その……勇ちゃんの妻です」


 かすみが海道を見上げて、頬をピンク色に染めながらモジモジとする。


「妻とな! それはまた……。なんとも……。討伐者殿は道玄和尚と同じスキルをお持ちでしたか……」


 驚いた表情を見せた海道だったが、何故か少し淋しげな目をしていた。


「やめてくれ。俺をこんなロリコン坊主と一緒にしないでくれ」


「誰がロリコンじゃ、腐れ外道め」


「そうですか! まあまあ、立ち話もなんですし、どうそ庫裡の方へおいで下さいませ」


 どういう理由か勇次の明瞭な否定を聞き、安堵の表情になった海道が皆を案内するように歩き始めた。


 勇次たちが降り立った北海道圏の点鉱寺は、境内が綺麗に整備され、大きな桜の樹が何本もあった。丁度満開となった樹々から桜の花びらが春風で舞い踊り、絵に描いたような桜吹雪の中、勇次たちは海道和尚の後を歩いた。


「勇ちゃん、桜キレイですねぇ」


「そうだな。正に満開で見頃だな」


 かすみは嬉しそうに桜の樹々を見上げ、ニコニコと楽しげに見ている。


「かすみは、あとで花見がしたいです!」


 勇次は桜の樹の下で両手を拡げてはしゃぐかすみを見て、珍しく頬を緩めた。



 先頭を歩く道玄と海道がヒソヒソと小さな声で会話をする。


「……道玄和尚から昨夜連絡がありました折、どの様な討伐者がくるのかと思って居りましたが……素敵な殿方ではないですか。拙僧何やらゾクゾクしてしまいました」


「……じゃろ? お主が会うたら必ずや喜ぶに違いないと、あやつを一目見た時から思って居った」


「……流石は道玄和尚。御賢察で在らせられる」


 勇次は急に何か悪寒のような感覚を覚えた。


 ――何かこう……、背筋が薄ら寒い気がするなァ……。



 勇次たちが通された広い客間は、襖が解放され境内が一望出来るよう設えてあった。

 室内から見える境内の満開に咲き乱れる桜が美しく、時折春風に誘われた花びらが室内に舞い込んでくる。

 かすみは縁側に腰掛けて、桜をじっと見上げていた。


「海道和尚、改めて紹介しよう。こやつが討伐者の木崎勇次じゃ。そして、こちらがこの点鉱寺の住職、海道和尚じゃ」


 道玄が勇次と海道を紹介する。


「どれくらいか判かんねぇが、暫く世話をかけることになる。よろしく頼む、海道和尚」


「いえいえ、遠慮などなされぬ様、御自分の家だと思って気楽にお使い下され」


「それで早速じゃがのう、海道和尚。真・閻魔について何か知っとる事はないか」


「はい。先ず関わりがあるかどうかですが……。最近耳にした話で、この点鉱山を降りての方に五十キロ程進んだ所に、札之町さつのちょうという賑やかな町があります。そこで夜毎鬼が現れ、町の者を喰ろうておると、先日寺に出入りしておる行商人より聞き及びました」


「なんと! この地にも鬼が出て居るのか」


「左様で御座います。町を警護して居りまする武士どもが束になって掛かっても一向に歯が立たぬ故、今では日が落ちた後は外出する者は一人も居ないとか」


「また鬼か……。ここにも陰陽師とかってぇのが居るってことか」


「そうじゃな。居るだろうな。この国のあちこちに居るじゃろう。それで海道和尚、真・閻魔のこと、もしくは四神については何か知らんか?」


「はい。それですが、拙僧一つ心当たりが御座います」


「ほう、それはどんな事じゃ?」


「今御話申した札之町を越え、更にそこからうしとら方に四百キロ程進んだ所に額叡山がくえいざんと呼ばれる山が御座いまして、その中腹に野梅寺やばいじという名の朽ちた寺があります。そこは嘗て白虎が祀られていたと聞いたことが御座います」


「白虎ってぇと……」


「うむ、四神の一つじゃな。そんな判りやすい所に居るとは思えんが、何か手掛かりがあるやもしれん」


「じゃ、とりあえずそこを目指してみる……のは良いが、ここから四百五十キロもあるじゃねぇか。歩いてったら、どんだけ掛かるんだよ……。それに単位はキロなんだな。ま、判りやすくていいけどよ……」


「途中でしんどくなったら、ここに戻れば良いだろ。な、海道和尚」


「左様で御座います」


「戻るって、そんなに簡単に行ったり来たり出来るわけねぇだろ」


「大丈夫で御座います。討伐者殿には帰来の護符をお渡ししまする」


「きらいのごふ?」


「左様。この護符は、一度行った所と、この寺を瞬時に移動出来るものなのです。ですので、ここから出立されて夜にでもなれば、その護符を使ってここへ舞い戻り、翌朝またここからその場所へ行き再び進む、といった具合に使うことが出来まする」


「おぉ、そりゃスゲぇな。この世界には便利なものがあるんだな」


「帰来の護符は誰しも使えるわけでは御座らん。正四位下しょうしいか以上の位階の陰陽師でなければ護符の効力は発揮出来ぬのです」


「なるほどな。でもそこのロリコン坊主が居れば大丈夫なんだろ。それなら問題はねぇ」


「当たり前じゃ。わしを何だと思っとるんじゃ」


「よし、じゃそれで行こう。昼飯食ったら出発するか」


「出発は明日でいいじゃろう。かすみも花見をしたがっておる様だし」


 道玄にそう言われ、縁側で桜を見ているかすみを見た勇次は、


「それもそうだな。今日はのんびりするか」と言いながら立ち上がり、縁側で花見をしているかすみの元へ向かった。


 勇次が離れていくと、また二人の和尚がコソコソと声を潜めて話し始める。


「道玄和尚、拙僧、今宵が楽しみで仕方ありませぬ……」


「わしもじゃ。かすみの寝所はわしの隣の部屋にしておけよ」


「承知しております。拙僧は勇次殿と隣にしますので……ホホホ」

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