第十一話 煙管の煙
「……成程、観音様にのぅ……」
かすみは既に眠っており、道玄と勇次は月明かりの下、境内が見渡せる縁側に座り話をしていた。
道玄はかすみが居ないことに最初は随分文句を垂れていたが、真・閻魔討伐の話になると人が変わったように真摯に話をしていた。
「それで、真・閻魔ってぇのは何処にいるんだ?」
「居場所について、詳しいことは判らん。四神の青龍か朱雀、白虎、玄武の何れかならば知っておるだろうが、粗奴らに近付くことすらままならんでのぅ」
「その四神とか言う奴等は強ぇのかい?」
道玄は手元にあった煙草盆を引き寄せて煙管を取り出すと、その小さな火皿に刻んだ煙草を詰め、火種に煙管を近づけてスゥーッと息を吸い込む。火皿の煙草がチリチリと音を立てて燃え、吐き出した白い煙が月明かりに照らされて、ゆらりと漂いながら消えていく。
「……そうじゃの。当たり前の様に強い、圧倒的な強さじゃ。されど先程聞いた黒鬼や大グマとの戦いの話を聞くと、お主――討伐者なら倒せるやもしれんな」
「そう思うかい?」
「うむ。じゃが、四神はそれぞれ強力な陰陽師の手下を持っておってな。粗奴らが式神を操っておるのだ」
「陰陽師?」
道玄が木製の灰皿に煙管をカーンと叩きつけて燃えかすを落とすと、再び火皿に煙草を詰め込みながら言う。
「判りやすく言えば、魔法使いじゃの。この地に眠る精霊と会話をすることが出来る力を生まれながらに持つ者がおる。粗奴らが修行を積み、精霊から得た霊力を増幅させて攻撃をしたり、何かを操ったり、時には怪我を治したりする」
「そう言えば、かすみも俺の怪我をあっという間に治したが、それもそうなのかい?」
火種に煙管を近づけて再び火をつけ、ゆっくりと煙を吐き出す。
「――ほぅ、あの娘はあの年でそんな力を持っとるのか。少し気にはなるが……、それならば陰陽師の素養があるのじゃな」
「そういうもんなんだな。じゃ、陰陽師ってのは悪い奴らばかりでもねぇんだな」
「かすみを見ても判るように、精霊と会話をすることが出来る者が全員悪人ではない。ちなみにわしも出来るぞ」
「そうなのかい?」
「うむ、見ててみぃ」
道玄は煙草盆に煙管を戻し、境内にある大きな岩に向かって右手の掌を向け詠唱を始める。
「――我は道玄。字は昇竜。この地に揺蕩う全ての御霊よ。須らく我渇求を知り眼前の岩をも砕く一念を通せ――」
すると、道玄の右手から白いオーラのようなものが渦を巻くように勢いよく飛び出し、大岩を木っ端微塵に粉砕した。
「おぉ、ロリコン坊主のくせにスゲーな。けどよ、そんな事が出来るんなら、あの大グマやっちまえただろ」
「ロリコンは余計じゃ、愚か者め。あの大グマは呪術無効の呪を掛けられておっての。わしの攻撃は効かなんだ」
「そういうことか……。で、そんな事が出来る奴らが、この世界にはゴロゴロいんのかい?」
「否、殆どおらん。お主の近しい所にたまたま二人居ただけじゃ。普通に暮らしておれば、死ぬまで陰陽師に会うこともない者が殆どじゃろう」
「そういうもんかい。それで俺はこれからどうすればいいんだ?」
「この国は、北海道圏・東北圏・関東圏・中部圏・近畿圏・中国圏・四国圏・九州圏の八圏に分かれておる。この点鉱寺があるのは、東北圏。それぞれの圏に点鉱寺があってな。これは重大な秘事なんじゃが――全ての点鉱寺は異界通路で繋がっておって行き来が出来る」
「異界通路だァ? なんでぇそれは」
「お主本当に討伐者か? 討伐者なら判るはずじゃが?」
「いやいや、言葉はまぁ判るし、意味もまぁ判る。でも、なんでそんなものがここに……っていうか、あァ、なんってったらいいんだ」
勇次は頭を抱え、自分の中の価値観が崩壊していくのを感じた。
「お主の想像を超えた世界に来たってとこかの」
「あぁ、そうだ。その通りだ。全くわけがわかんねぇ」
「ここはそういうもんだと納得するしかないのぅ。とにかく、そういう秘密ルートがあるんじゃ。それを使えば何れの国、何処にでも直ぐに行くことが出来る」
「仕方ねぇな。じゃこれから、それを使ってあちこち行きながら情報を集めればいいって事か……」
「そういう事じゃな」
「じゃ、明日辺り早速何処かの寺に飛んでって話を聞くとするかァ」
「楽しい旅になりそうじゃの。かすみも可愛いしのぅ」
道玄がまたロリコン坊主の顔になる。どうやら、かすみの事を話し始めると性癖が顔を出すようだった。
「ロリコン坊主には関係ねぇだろ」
「なんじゃと……。お主それは本気で言って居るのか……?」
「当たり前だろ。どうしてじじぃみたいな変態坊主と一緒に旅しないといけねぇんだ? 訳わからねぇ」
勇次はかすみだけでも厄介だと思っていた所に、その上幾ら凄い術が使えるにしても、こんな小汚いじじぃを連れて行くなど考えられなかったのだ。
「うっぅ……。こんな可愛い年寄りにそんな冷たい態度を取るとは……お主、鬼か」
道玄は両手をついて項垂れている。
――そんなにかすみがいいのかよ……。ロリコンの気持ちは判らねぇなぁ。あいつは、乳はデカいがまだ十二歳だぞ……。
「あー駄目なもんは、駄目だって。それにこれから先何があるか判らねぇし、あぶねぇだろ。だから諦めてくれって」
勇次は少し悪いような気がして、道玄の肩を宥めるようにぽんぽんと叩いた。すると道玄は勇次の足にしがみついて、「連れてってくれぇ――」と子供のように駄々を捏ね始めた。
「……あー、じいさん、諦めが悪りぃねぇ……」
「お願いじゃ! わしを連れてってくれ――!」
――お願い、だと……。これは何かの冗談だろ? ガキの世話だって面倒くせぇのに、こんなロリコンじじぃまで付いてくるのかよ……。そりゃねぇよ……。
何故か勇次が固まってるのを見た道玄は、そこで畳み掛けるように言う。
「それに、わしがおらんと異界通路は使えんぞ?」
「なん、だと……?」
「だから、これからはわしもお主らのパーティに加わるということになる」
急に道玄が薄っすらと勝ち誇った顔になる。
「うっ……」
「じゃ、お主はこれから何処に行くのか知らんが、テクテク歩いて、この国を延々と回るのか?」
道玄はドヤ顔になっていた。
「うっ…………」
「まぁ、お主はいいとしても、あの娘はどうするのじゃ? まだあんな幼いのに乳はでかくて、脚もキュキュッとしてて、ほっぺなんか触った日にゃ体中の全ての穴から色んなものが噴出してしまいそうなほど可愛いかすみを歩かせられるのかのぅ?」
道玄の顔は完全に末期的な少女愛好家のものになっている。
「……おい坊主……」
「ハァ……これから毎日あの娘と共に過ごせるなど天国じゃのぅ……。のぅ、お主は寝取られ属性を持っとらんのか?」
「坊主……、今ここで往生したいのかい?」
勇次が懐に手を突っ込んで睨みを利かせた。
「お主、い、幼気な老人を手に掛けるつもりか!」
「どこが幼気なんだよ……。まァ、ロリコン坊主が居ねぇと、そのなんとかが使えねぇんじゃ仕方ねぇから……一緒には連れてくが、かすみに手ぇ出すんじゃねぇぞ?」
「ち、下手に出れば調子に乗りよって。最初からわしが必要だと言えばいいものを」
再び勇次が懐に手を入れる。
「わ、わしが死んだら、異界通路は使えんぞ!」
「クソ坊主が……。ま、いいや。なんか変な術も使えるみてぇだし、役に立つこともあんだろ。しっかり働けよ、ロリコン坊主」
「どっちがロリコンなんだかのぅ」
――こんなにあれこれお願いされてたら、俺はこの先どうなるんだよ……。
勇次はかすみと道玄を連れてこれから旅をすることを考えると、こんな運命にした観音菩薩を恨んだ。
――観音菩薩様、こりゃひでぇや……。
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