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給食週間初日

揚げパンとミネストローネ、冷凍みかんとミルメークコーヒー。給食週間初日のメニューは人気のものばかりで、残飯ゼロを意識しなくても、クラスで残りは出なかった。1年生のクラスでヘルパンギーナとかいう夏風邪が猛威を振るっていたらしいが、3年2組に欠席者はおらず、そもそも数人欠席したところで、揚げパンが残るはずなどないのだ・・・みんなおかわりのためにじゃんけんをするくらいなのだから。


雫さんはミネストローネを小盛りにこそしたものの、給食を残しはしなかった。ごちそうさまの合図のあと、胸元のポケットから出した白いハンカチで唇を品よく拭った雫さんは、


「ねえ、謝ってよ」


と俺に迫った。整った眉の下で、まっすぐな瞳が二つ、美しく険しい表情で俺を糾弾していた。


「はあ? 何のこと?」


と俺はすっとぼけてみせた俺は、雫さんの顔を直視しつづけることができなかった。皺一つない白いハンカチに、ミネストローネの朱がほんのりと移って口紅のようだった。雫さんが大きくなったら、きっと口紅の似合う美人になるだろうと俺は思った。


「『何のこと?』じゃないでしょ? まさか、忘れたわけじゃないでしょうね? 先週、あんだけ挑発したくせに・・・」


「いや、それなら覚えてるけど、お前別にクラスに貢献はしてないじゃん? 自分の給食食べただけだろ? 当然のことじゃね?」


「でも、クラスの残飯ゼロだよ? 悠太はクラスの残飯ゼロなら謝るって言った!」


頬にほんのりと朱が差した。どうして可愛い女の子が怒る姿はこんなに可愛いんだろう。いや、怒っていないときも可愛いから元から可愛いだけか。


「俺が言ったのは、お前がいっぱい食べられる証拠を見せたら謝るって話で、クラスの残飯ゼロなら謝るって話じゃないからな」


「何それ。言い訳するの? サイテー」


「サイテーじゃねぇし。てか、お前も普通の給食食べきっただけでドヤ顔すんなし。やっぱいっぱい食べれるってのは嘘だったんじゃね?」


「だから、嘘じゃないって言ってるでしょ!? もうなんか・・・そういう言われ方するの、すごい悔しいんだけど・・・」


雫さんはそう言って憤ったが、その日は他に食べるものがなかった。給食週間はその後も人気メニューが続き、木曜まで同じようなやりとりが繰り返されて、二人の言い争いはヒートアップした。正直に言おう、俺はあの日まで、雫さんがいっぱい食べられるというのは嘘で、ただ雫さんが後に引けなくなってしまっただけなのだと思っていたのだ。そう、証拠をまざまざと見せつけられた、給食週間最終日のあの出来事までは・・・。

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