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モスフロックスの幸福論  作者: 池坊専慶
予知者
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超能力者

時の流れは早い。僕らが思っているよりもずっと早い。

桜が咲いたと思えば蝉が鳴く。

蝉が鳴いたと思えば紅葉が木々を彩る。

今度は紅葉が木々を彩ったと思えば雪が積もる。

そうして雪が積もったと思えばまた桜が咲く。

そうやって太古の昔より季節は繰り返され地球は回ってきた。

三六五日を四で割ってそのうちの一つを季節と捉えるなら約九一日、それを時間で換算すると実際は二一八四時間、分で約十三万五千分、要は桜が咲き乱れ散り落ちるまでの時間はたったの八百十万秒ということになる。


あれから一体どれだけの時が流れたというのだろうか。

はたして僕はあれから一体どれだけ変われたというのだろうか。


いや、たぶん僕は何一つ変わっていないのだ。

あいつの言葉を借りるようだが人間の本質っていうのはそう簡単に変わるものじゃないし変われない。

力や能力というのは表面的なものに過ぎないし、武器や金をいくら手に入れようが人間っていうのは強くはなれない。

考え方や生き様っていうのは人のもっと奥の方の魂とか心とかに刻み込まれているから。


つまり強い人間っていうのは初めから強い。

逆を言えば弱い人間っていうのはこの先何をしようが弱い。


僕、大炊御門(おおいのみかど)未来(みらい)は弱い人間だ。




僕は都立上鶴間高等学校に在籍している。

この春から二学年だ。

まあ、春といってももう七月なのだから夏という方が正しいのだろうか。

学年が一つ上に上がったからといって僕のやることは何も変わらない。

変えようとしても変わらない。

今までもこれからも。




四限目が終わり生徒たちはそれぞれに昼休みを始める。

学食へ走る者、教室でゲームをする者、恋人と弁当を食べる者、様々である。

僕はいつも旧校舎の屋上で昼食を食べている。一年生の頃に見つけたとっておきの場所だ。

旧校舎の教室は今ではほとんど使われていない。五年前に新校舎が建てられそれからは文化系の部活動や同好会などの部室として一部の教室が使われているだけで放課後以外ではめったに人は来ない。そのせいで管理が杜撰になっているのか何故か屋上の鍵が開いているのだ。

しかしそこについ先月から見知らぬ女子生徒が来るようになった。

名前も知らない、部活も知らない、クラスも知らない。

唯一分かっていることといえばその子が一年生らしいということぐらいである。

実のところ僕はその子のことが嫌いだ。

別にその子に限った話ではない。

他人とは極力、関わりを持たない方が良い、この点に関しては珍しくあいつと意見が一致している。

僕の両の手のひらは小さい。

だからいざという時に掬い上げられるものは限られている。

掬い上げるものを取捨選択をする選択肢は出来るだけ少なくしておくべきだ。

本当に大事なときのために。

だから他人との繋がりとは邪魔以外の何でもない。

手元に残すのは本当に大切なものだけでいいのだから。


他人との繋がりを持たない為にはどうすればいいか?

その答えは簡単だ。

出来るだけ時間を共有しなければいい。

どんな繋がりもすべては時間の共有から生まれる。

友達、恋人、知人もそうだ。

すべては同じ時を同じ場所で共有しなければ生まれない。

故に僕は今、例の女の子と時間を共有しない為に教室でわざわざ時間をつぶしているというわけだ。

言っておくが教室で昼食をとるという選択肢は無しだ、そこにただいるだけでも繋がりは生まれるからな。

クラスメイトという。


「おいおい、聞いたか? またモスフロックスが出たらしいぞ、何でもひったくり犯の指を全部切り落としたとか」

三人組の男子生徒グループの会話に耳を傾ける。

「てめえ、昼飯前にそんな話するんじゃねえ、考えただけでも気持ち悪くなってきちゃったじゃねえか」

すると今まで興味無さげに携帯をいじっていた一人が反応する。

「お前らひょっとして信じてんのか? あんなの噂だろ? そんなのいるわけねえって。般若面に黒スーツだっけ? 普通、そんな奴が街中歩いてたら目立つって」

そこに一人、女子生徒が会話に割り込む。

「私はいてほしいかな。モスフロックス。ちょっとカッコよくない? か弱い女の子を犯罪者たちから守ってくれる」

「お前は夢見すぎ。俺の見解では警察が犯罪の抑制のためにあえて流してる噂だと思うね」

腕時計にチラリと目をやる。

十二時五六分四三秒。

そろそろか。

僕は席を立ち上がり教室を後にする。

彼らの会話を背後に聞きながら。

我ながらよくぞここまでギリギリを攻められたと感心する。

何故僕が席を立ったかって?

僕はこの先この会話がどういった展開を迎えるかを知っている。

だから席を立ったのだ。


「第一、このご時世、そんな凶悪犯は国外逃亡でもしないかぎり逮捕されちまうと思うぜ」

「さっすがたけし、あったまいーな」

「そうゆうお前らはバカすぎ」

一同の笑い声。

「ねえ、大炊御門くんはどう思う? ってあれ?」

「ほっとけって。あいつはそういう奴なんだよ」

「去年も教室の端っこの方で本ばっか読んでたよな」

「そうそう、どういうわけか他人に興味がないって感じだ」

「だけど面がいいからめちゃくちゃモテるんだよなあ、恨めしいぜ」

「ああいう奴には自然とモノ好きが寄ってくんだよ。安心しろ、そういう女はだいたいブスだ」

「それって私のこと? 何よブスって」

女子生徒が頬を膨らませる。


この未来は絶対だ。

百パーセント確実に起こる現実。

それこそ何故かって?

すまない、少し説明が足りなかったな。

ここで先のほどの自己紹介の続きをしよう。

僕は大炊御門未来、超能力者だ。


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