第八話:彼女は俺を振り回す
パソのメモ書きで下書きをしています。そのメモ一つ目がようやくここで終わりました。
でも第一章はまだ続きますし、「俺」が召喚された日の出来事はまだ続きます。
「俺がこの世界を受け入れるなら、俺はずっと存在することができるが自分で移動することができない。その点では俺にはお前が必要だ。なぜなら、他のやつには俺を動かす見返りがないからだ。ファイクルの他のメンバーにも当てはまる。だがお前には見返りはある。そして俺の名付け親はお前ただ一人でもあるしな」
「それで考えたんだけど、わたしが動けなくなって何もできなったらスタンも何も出来ないよね?そうなったら最悪だし、スタンを使える人はわたしのほかに誰かいた方がいいと思う」
対策としてなら構わないだろうが、常にその効力があることが気にかかる。
こんな心の引っかかりも過去にあったような気がする。だが今は俺の過去の詮索より、その引っかかりをミリアに伝えることが優先だ。
「それでも俺は、使用者はお前に限定すべきと思う。悪用されても困るし、追加の契約者が正式な主のお前に無断で何者かに貸し出すとか、最悪何かの担保にされたらお前はまた無力として扱われるぞ。お前は俺無しに何も出来ないことは、お前が一番わかってるだろう?」
ミリアが俺の存在に慣れてくるのは仲間としてなら歓迎するが、自身の立場を見失いがちになりそうだ。度々釘を刺さないとまずそうだ。
「話しがずれたな。とにかく優先順位はお前が一番上だ。優先順位は一番目だと勘違いするような追加者の相手はしたくないし関わりたくもない。お前よりも上手の使い手であろうともな」
そんな輩の妄想が発言よりも先行して、言い捨てる口調になる。
「そりゃもちろん、よく知らない人にスタンの契約者になってもらいたくないし、知ってからもふさわしいかどうかも判断する必要があるし」
「そう、だから追加しても大丈夫という判断が俺とミリアで一致してからだ。そんな人材が現われなければずっとお前一人でも構わん」
「え……」
「気にするな」
おそらく自分がいなくなってからの俺のことを案じている。自分が突然いなくなっても俺が不自由しないように。俺に断りなくここへ呼び寄せたのが負い目に感じているんだろう。
そこまで気に病むと言うことは、すべて本当のことを言っているのかもしれない。
だが本人の意志の及ばないところから俺が消える可能性もなくはない。ミリアへの対応は、しばらくは離れ過ぎずくっつきすぎずの現状維持としておこう。
それにしても、気の遣い過ぎという気もする。他の誰かが困ってたら、自分がいくら深刻でも絶対そいつを優先して助けに行きそうな性格だ。油断すると目的と一緒に自分も見失うんじゃないか? こいつ。
「人の役に立てるようになりたいのがお前の願いなんだろう? そのために何が一番必要かをしっかり考えてみろ。それ以外のことを気にする必要はない」
「うん……ありがとう……」
ホッとしたような、申し訳ないような、そんな顔。
「まとめるぞ。契約者の追加は俺が許可するまでは禁止だ。目安は……これから新たに変わってくるお前の周り次第だな。間違いなく環境は変わる。それに慣れてからその後の方針を決めても遅くない。今は俺の言うことをわからなくていい。それくらいの制限は我慢しろ」
ミリアが真顔で聞いてきた。
「……わかった。スタンは、わたし以外の友達はいらないってことだよね?」
「違う」
即答。
的外れにもほどがある。冗談は嫌いじゃないが、もう少し今の立場を考えろ。
「それとまだ気になることがある。それは、ちょっとした風でもどこかに飛んでいくような軽さと薄さの体だ。知らない間に飛ばされたらおそらく気が付かないだろう。ましてや新しい術具を手にしたんだ。扱い慣れるまでしばらく時間がかかるんじゃないか?」
「使わないときは、落としたり風に飛ばされないようなホルダーをミスラスに作ってもらったよ。ここ」
右側の腰骨のあたりの装具を指し示す。
「トウジとかの武器は左側だけど、長い武器だから利き腕と逆の方だと構えやすいの。でもスタンは長さのことは考えなくていいから、利き腕と同じ側の方が、身体が動きづらくても手にしやすいからこっち側にしたの」
用意周到、準備万端といったところか。
「だが油断はするなよ。忘れ物されたらお互い致命傷になるからな。ホルダーごと、あるいは俺を取り出してどこかに置いたときには手放すときに置き場所を確認すること。ずっと肌身離さずってのは無理な話しなんだからな」
「無理じゃないよ? その気になったらお風呂も一緒に入れるし、寝るときも一緒」
「お、おまっ……! 年頃の女がそんなこと言うんじゃねぇ! 風呂に入ったら濡れるし、一緒に寝たら寝相で潰されるわ!!」
「え? スタンは濡れても平気だし、潰れるも何も、初めからペッタンコだよ? 折れても平気だってミスラス言ってたし」
顔つきが真剣なだけに冗談か本気かの区別ができん。
それどころかミリアの気持ちに余裕がでてきたのか、今までの悲壮感が表情から消え、俺との会話を楽しんでる様子。
彼女にとっても不安だらけの願いだったのだ。その願いを叶える第一歩を踏み出せた安心感からだろう。
急を要する方針と大まかな話はまとまった。だがこの世界に留まるを決めたことで、俺が知らなきゃならないことがたくさん増えた。
ミリアは俺をホルダーに納める。客間に入った時のおどおどした様子は消え、ホルダーを大事そうにさすりながら力強い足取りで、ミスラスとファイヤー・クラックルのメンバーと改めて合流するため工房に向かった。
これからはこいつと行動を共にする。同じ思いを分かち合うこともあるだろう。
だが、部屋を出るその一瞬だけ浮かんだ感情がある。
うらやましい
この思いだけは分かり合えまい。
そんな思いが心の中をよぎり、通り過ぎ去った。