終話その二:一つとなった我らの強さを知ったのちも、我らの強さに振り回されろ!
ミリアと二人きりのこの世界での、おそらくは最後の夜がきた。
静寂の時間を静かに止めるミリア。
「悲しいんだけどね」
「ん?」
「ミスラス、転移の魔法も研究してて」
「あぁ、知ってる」
「スタンの世界でも一緒になれるかもしれないんだって」
「らしいな」
「楽しみだね」
「その楽しみは、ご褒美だ」
「ご褒美?」
「明日の、俺の策が成功した時のご褒美だ」
「うん。褒めてくれるよね?」
「そりゃもちろん────」
「わたしのお父さんとお母さんから、ねっ」
そうだな……
気長に取り組むつもりだった。濁龍の取り巻く環境が、それを許してくれなかった。
だが、ミスラスの研究が、ファイクルやほかの冒険者たちの依頼達成の成果と成長が、俺の閃きが、ミリアの覚悟がそれを打開してくれた。
先の危機を救った無名の勇気の持ち主たちがアシストしてくれた。
そして明日はきっと、ミリアの両親が祝福してくれる。
良い転移日和を迎えそうじゃねーか。
なぁ濁龍。お前も覚悟しとけよ。お前にとっても俺にとっても、この世界で存在できる最期の日になるんだからよ。
──────────────
翌朝、黒装束討伐チーム全員出動。俺は魔法陣作製班と共に留守番だ。
時折入る偵察チームからの情報が、通信装置を通じて宿内に入ってくる。
苦戦しているらしいが治癒看護班も結成していたため大怪我を受けた人数はゼロ。
細かい戦況はわからないが、黒装束は一人、また一人と倒されているようだ。
やがて入る、黒装束全滅の報せ。
歓声は上がらず、次の行動に移す。
トウジには先見の明があるのだろうか、夕刻には全員現地にたどり着く。と同時に討伐班は治癒班と共に帰還。
作成チームは山の斜面の一部を削り、魔法陣作製に必要な広さの場所を水平に作る。
て俺にとっての最後の依頼達成を目指すべく、それぞれの準備に取り掛かる。
意外な敵が現われる。
それは夜の暗闇。作業が進みづらくなる。
濁龍に変化はないが、何かが起きたときどうなるか予想はつかない。それゆえに作業は素早く終わらせたい。しかし周りがよく見えない。
「夜間の照明なら任せてください。何の心配もありません」
魔力付きの道具をも扱うヒューラーが胸を叩いて自信あり気に言う。
照明が眩しすぎて濁龍が動くかもしれないという危惧があった。
「昼の光と同じ明るさを下から、横に広げずに上方向に向けてのみ照らします」
「その先に、空気中の塵などを集め、空中で固定します。光をそれに反射させます」
メルディさんもなかなかやってくれる。ほのかに辺り一帯を柔らかい光で照らす。
これなら眩しくはない。作業に必要な明るさでもある。
平らな場所を広げる作業を見守りながら、魔法陣の呪文を確認する。
「呪文の唱え方だが、精霊転移と異界召還を同時に行うが、順番に発動する必要がある。精霊転移できたらその直後に無条件で自動に、しかも速やかに異界召還を発動させなければならない。本来ならば、精霊殿が濁龍を把握したあとに異界召還を行うのだが、把握できるかどうかは不明。だから濁龍を精霊殿が把握できなくても、異界召還が濁流消滅につながる術式を内蔵させた」
「水晶や氷に閉じ込めたまま消失というわけね」
「その通り。消失しても空洞になるわけじゃない。水晶に同化するという解釈の方がわかりやすいか。無論込められた魔力も消滅する」
「じゃあその呪文を一緒に……」
「二人とも、覚えておけ。書き記したものを渡しておく。三人で一緒にやるぞ。発動時間も短縮できるし効果も大きくなるからな」
水平に削る作業と同時に、誰もが作ることができる魔法陣の作製が進んでいる。




