第七話:ここにいる全員が、俺のアイデアに振り回される
……条件は揃った。穴はないはずだ。もしあいつが寝ているのであれば絶望だ。だが本質を考えればそこから崩せる!
「だめっ!」
しまった! ミリアには俺の考えがわかるんだっけか!
「それはダメだよ! ほかにないのっ?」
全員何のことかわからず俺とミリアのやり取りを見守る。
「ミリア」
「やだっ!」
また泣いてる。俺と本音ぶつけるときは毎回そうやって泣いてたよな。だが安心しろ。泣くのは最後だ。このあとはずっと笑顔が続くぞ、ミリア。
「聞けよ」
「いやっ!」
周りは何も口にできない。俺とミリア以外介入できない話になっちまった。
「最初は、とんでもない連中に絡まれたと思ったよ。だがそれなりにいろいろとよくしてもらった。まぁまぁ楽しかったかな。俺の世界に戻ったら死ぬかもしれない。そう思うと、ここに来たばかりの俺の方が逆にたくさん失礼なことをしちまった」
聞きたくない と言わんばかりに耳を抑え首を横に振るミリア。首振ったって気持ち伝わるんだろ? 観念しろよ。苦笑ものだぜその仕草。
「元の世界じゃ、今まで発揮してきたいろんな力は全くないんだ。ちょっとした英雄気取り出來たこともいい思い出だ。その恩返しとしちゃ丁度釣り合い取れてると思うぜ?」
ミリアはうずくまって泣くばかり。自覚はないが、俺は何を言われても考えを変えず、腹を決めたということなんだろう。
そしてその作戦は間違いなく成功することを示唆しているも同然だ。
「まさかお前……!」
ランスって、そんなに察しがよかったっけ? ミスラスは先入観ありそうだからすぐに思いつかなさそうだけど、まさかランスがこんなに早いとは。嫌いじゃないぜ、そーゆー性格。
「なぁランス、俺ってカッコイイ役回りだと思わない?」
あら? ランスまでうなだれちまった。せっかくドヤ顔で決めたのに。「よろしく頼む」とか言いながら、せめて握手とかしてくれよ。手、ないけど。
「一体何なんだよ、ミリアもランスも。説明してくれよ。俺ができることがあるならなんだってやるよ。やれるよ。なぁ、トウジ、さっちん」
「もちろんだ。これでケリつけられるなら何でも言ってくれ」
「いや……ファイクル初め、冒険者たちにしてもらえることって特にないかなぁ。黒装束との対面くらいか? 何せミスラスにおんぶに抱っこだからな」
「私に……だと?」
「説明すんぞ。まず奴は何者だ? ってところからだ。ボケることはなさそうなランスに答えてもらおうかな?がっくりしてる場合じゃねーぞ」
「……宝石……だろう。しかも魔力が込められている」
「模範解答うれしいねぇ。だが賞品は出ない。欲しけりゃセルフサービスでどうぞ」
「おちゃらけてないで、続き聞かせてよ。生き物じゃなかったの?」
「生き物だとしたら、必要なことが最低三つある。トウジに答えてもらおうか」
「生き物に必要なこと……心臓……いや、心臓の代わりになるものがあれば必ずしも必要ないか。だがその心臓を動かす力は必要だ。力を蓄えるには……呼吸と食事……睡眠?」
「いいねぇ。ミスラス自慢の優秀な生徒なだけあるわ。……なんかミスラスの方から不機嫌な雰囲気がくるから軽口はやめとこうか」
「それで、どうなるというんだ?」
うわあぁぁ、思い切り不機嫌になってるよこのクォーターエルフ。年上からかうもんじゃねぇな。
「今の映像にあったか? 睡眠はともかく、食うのと呼吸は」
「する気配もなかったけど、する必要がないほど力が蓄えられてたんじゃない?」
「だがそれらは生き物としての本能なんだよ。それに力を蓄えるために必要なのは食事と睡眠。呼吸はその時間が長すぎて感じ取れない場合はあるかもな。つまりその二つは、濁龍が出現して、暴れる前からやってなきゃいけない本能なんだよ」
「出現して暴れるってぇことは、出現する前から力が蓄えられてたってぇことだから、その力の正体はなんであれ、どっかに集中してなきゃ……あ、それだったらさっちんが反応してなきゃおかしいか? 範囲外で出現したとしても、その力だって巨大だからアンテナ張らずともすぐわかるかも」
「そうね。生き物の気配がないところから出現するってことは、存在するための力が全くないないところに存在するってことだから。でもあれだけ大きいとマイトの言う通り、その存在感だけですぐ異変を感じるはずだもの」
「突然出てくるということは……自然の何らかの力を一気に集中させる物が存在したか、あるいは何者かが故意に作用させる術を作ったか だな」
「ミスラス、いきなりいいセンまで持ってきたな。ミスラスも研究に研究を重ねてきたっつってたな。世界一の術者って謳っているが、歴史的にはどうよ?世界史上一番と胸張れるか?」
「いろんな文献を漁ってきた。発想などは過去の偉人たちに負けるかもしれんが、それ以外の技術力や総合的魔力などでは私が一番と自負している」
「ならやつはもうお手上げだぜ。耳かっぽじってよーく聞け。手順を言うぞ」
ミリアとランスはもう俺のテンションについてこれない。こーゆーときは察しのいい奴は苦手だ。俺のカッコイイところを見てくれねぇからな。
「奴を魔法生物とか幻獣とか、そんな解釈をするな。あいつは魔力を放出してるだけの物体なんだよ。スケールがデカいし動くから幻獣扱いされてるだけだ」
「んなっ……! 物体呼ばわりかよっ、あれを!」
「その通り! 魔力が伴った物体は、お前ら見るのは初めてか? 違うはずだろ?」
「まさかお前……!」
ミスラスが凝視している。こんなに気が動転したミスラスを見るのは初めてだ。実に痛快。俺、ニヤリ顔がとまらねーわ。
「俺のことは『精霊殿』って呼ぶんじゃなかったのー? いや、軽口は止めとくか。ミスラスもゴールにたどり着いたご褒美だ。しょぼいけどな。さて、魔力がこもったただの物体。道具ですらない。だが魔力は内在している。そこにミスラスのある種の術式くらわしたらどうなる?」
全員が固まってる。議論でも注目を浴びるってのは気分がいいなオイ。
「精霊を宿す術式。そして俺に対して術具変化を加える。できねぇとは言わせねぇ。今ミスラス本人が言ったばかりだからな。世界一、史上一の術師が研究に研究を重ねた術だってな」
ミスラスは否定をしない。
「そして俺があいつになる。あいつは物体。そこに精霊を宿したら術具になるんだろ? あとは言わなくてもわかるだろうが言っとくぞ。俺を元の世界に戻せ。最初に聞かされたぜ。俺を元の世界に戻したら、俺が宿っていた術具も消えるってな」
全員が言葉を失っている。どうだ! 俺の発想に恐れ入ったか。
「術具の俺から言わせれば、持ち主や契約者とはいつかは別れの時がくる。なんせ俺はこの世界じゃ永遠に存在できるんだからな。けどな、わけわかんねぇ奴に契約の後継者になってほしくねぇんだよ。そんなやつに俺を使ってほしくねぇ。そしてあんな龍がずっといたんじゃこの世界でハッピーエンドなんて見れやしねぇ。だがその災いの元を絶てる代わりが俺の消去ってんなら、得体の知れない奴に使われる心配もないし、十分釣り合う成果だ。同じ別れならその方が夢見は決して悪くねぇ」
誰も何も言葉を発しない。めんどくせぇやつはミリアだけじゃなかったか?
「お前ら、腹決めろや。今後理不尽なことで命を落とす奴がいなくなるんだぞ? お前らが結婚して子供生まれて、その赤ん坊が何も知らないうちにあいつに踏みつぶされるなんてことなくなるんだぞ?」
「すまない、スタン……」
「さぁっすがリーダー、わかってんじゃねーか。ミスラス、リーダーはご覧のとおり腹を決めたぜ。準備してくんねーか? いろいろわがままとか言ったが、精霊殿の、最後の、最大の、最っ高のわがままだ。そしてそんな俺からの依頼の報酬は、この世界からの濁龍の消去だ! これ以上の報酬はねぇんじゃねぇのか?」
「……私ではとても思いつかなかったやり方だ。感謝する。『精霊殿』」
今更の、そして久々の『精霊殿』に敬意を感じた。ホントに俺、これから英雄になるんだなぁ。なんかワクワクしてくらぁ。
「わたしもっ!」
いきなり立ち上がるミリア。ほおぉ、そんな凛々しい顔つきって初めてじゃないか? 俺よりなかなかカッコイイ。
「わたしもそのときは一緒に行くからねっ! みんながだめって言ってもスタンについていくんだからっ! ミスラスもそれ、できるって言ってたよね! 冗談でしたじゃ済ませないわよ、ミスラス!」
俺まで呆気にとられちまった。ほんの数日前のことなのに懐かしいな。最初の食事会のときだったな。その場の勢いだと思ってたけどな。
「いいのか? ミリア」
「大丈夫。平気って言うより、大丈夫の方が言い方合ってる気がする」
「ちょっとミリア! あんた何言ってるの! あんたもファイクルに必要なメンバーなんだよ!」
「ごめんねさっちん。みんなより、スタンの方が大事になっちゃった」
「スタン、どういうことか聞かせてもらおうかなぁ?」
マイト、なんか言い方が怖いんですけど? つか、顔つきも怖いんですけどっ!
「マイト、スタンがわたしのためにここにいてくれるって言ってくれた時から決めてたの。一人でこの世界にきて、一人で不安と戦って、それでもみんなのために動いてくれて……。ミスラスが物扱いするな、仲間が増えたと思えって言われて、それも併せて考えたの」
マイトが再度沈黙。
「スタンに報いるために何をしたらいいんだろう? って。どんなことがあってもずっと仲良しになるってのが一番だと思ったんだ。元の世界に戻っても一人きりになるかもしれないこともあるってミスラス言ってたし。ずっと一緒だったから大丈夫だよ。忘れないよ、スタン」
最後の一言が俺に向かって微笑む顔ってのはヒキョウだぞ。俺まで何も言えなくなっちまった。
「と……とにかく、俺の作戦で異議はないよな? つか、代案出せ代案」
「無理だ。何も出てこない。いろいろと……ありがとう、スタン」
「お前が言うと雰囲気重くなるんだよランス。重いのは体重だけにしてくれ。あとはあいつに移ることができる距離にまで近づいて、そこで陣取って魔法陣の準備頼むわ、ミスラス。黒装束の奴らは……みんなに頼るか」
「あぁ、任せてくれ。ほかの者も手伝ってくれまいか? 理想を言えば、明日一日で黒装束を一掃し、その後魔法陣作成に取り掛かる。精霊転置術はその次の日だ」
「じゃあ後は連中にどう説得するかだよな。事情を分かってるお前らだから分かってくれたわけだが」
「その件なら俺に一任させてくれ。チームが持っているすべての所有権もだ」
「チームの隠し財宝もってこと? 策があるの?」
「……ある。きっとできる。あいつらも、この町、郷、そしてこの国や世界が好きなら、絶対に乗ってくる!」
「リーダーはお前だからな、トウジ。任せるわ!」
戻った世界での俺はどうなってるかわからない。だが生きているならこれ以上のないハッピーエンド。どのみち濁龍が消えることは間違いない選択だ。誰もがそれを望むだろうよ。俺は死んでしまう可能性もあるが、この世界でこうして生きてる間これだけのことを成し遂げるんだから文句なし。
だがまだ早まるな。宿のロビーに大勢揃っているあいつらとのどでかいやり取りが残ってんだからな。ある意味出陣だぜ。
さぁ、行こうか!ミスラスとファイヤー・クラックル!ロビーに出撃だ!
説得したスタンの発案よりいよいよ立ち上がりました。
ロビーではトウジはどう出るか?




