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別世界でも誰かに振り回されている件  作者: 網野ホウ
第一章 俺は初日から振り回される
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第二話:誰かが何かを初めて振り回している 

 無駄かもしれない。口が開かないんだから。誰かに俺の思いを伝えることは、叶えられそうにない希望だ。それでもすがらずにいられない。


 声を出そうとして空気を吸い込む動きはできる。しかし呼吸をしなくても苦しくはない。血の気のひく感じはあるのだが、血流も動悸も感じられない。


 しかし意識があるということは……俺は幽霊にでもなったのか?

 落ち着くどころじゃない! しかし心のざわつきを抑えきれない中、俺の周りで会話がまだ続く。



「で、これは一体何なんだ?刃物じゃないから武器にはならないよな?」

 別の男の声が聞こえる。


 続いて自らミスラスと名乗った男が答える。

「扱い方次第だろうな、トウジ。今までになかった道具だから、道具の名称ならば俺が命名してもいいな。こういうのは単純な名前を付けるのが一番だ。種類としては『紙型(かみがた)』と名付けよう。トウジとさっちんが持っている『武器』、ランスがいつも自慢している『防具』、マイトがいつも持っている『爆薬』『火薬』、ミリアの『回復薬』などと同格だ。道具としては……そうだな……。『音筒(おとつつ)』とでも名付けるかな。お前たちにとっての剣や魔法杖と同格となるか。わかりやすかろう?」



 錬金術師が新しい何かを生み出して、それについての説明をするところらしい。

 俺の事には目もくれず、随分盛り上がってるようだ。会話の中で5人の名前が出てきた。錬金術師もいれて6人ということか。


 俺のことに誰も気づかない以上、俺に対して話しかけるということはないだろう。そうなると、俺が得る情報を自ら分析して、自分の立場を理解する必要がある。

 

 自分の存在をないがしろにされたことで腹立たしい思いが俺の心の中に加わる。


 全員いい加減俺に気づけよ! なんで俺はこんな目にっ……!




「遊び道具の折り紙で見たことないか?使用者の腕前が未熟でも扱いやすく、効果もほかのメンバーと見劣りしない条件で思いついたのがこれだった」


「依頼しておいてこういうことを聞くのは気が引けるんだけど、効果が打ち消されたりすることはないの?」


 別の女の声が聞こえる。先の女は声を発する度に金属同士がこすり合うような音があった。さっちんと呼ばれていた女ではないとすると、今の声はミリアと呼ばれる女か?



「普通の折り紙だと当然火や水に弱いし1枚の紙に戻ることもある。だがこいつの生成時に俺の念術で、そういうものと不干渉の前提を組み込んだ」


「劣化しないということね」

 さっちんと呼ばれてた女の声だ。


「その通り。そして生成後のほかのアイテムとの調合時に使用時の効果と、持ち主になる依頼者のミリアのことも組み込んだ。あらゆる状況できちんと扱えるのはミリアだけ。そして道具の成長や変化をもたらすことができるのはミリアと俺だけ。できるな? ミリア」


「できないなんて言ってられない。絶対に、できる。」


 やはりミリアと呼ばれた女だったか。若干震えた声を出している。

 

 それにしてもいまだに俺のことが話題に上がらない。ここまで無視されると、普段だったら激怒のレベル。叫ぶどころではない。怒号の連発ものだ。人生でここまでイライラさせられるのも初めてだ!

 



「もっとも使用時の効果は、その目標が能力が高い者ならば通用しないこともあるだろうな。だが使用者ならびに道具自体の鍛錬、それに応じた調合による成長で効果は強まる」


「効果ってば、どんな使い方になるんだ?音筒とか言ったか? これで相手を叩いたりするもんじゃねぇよな?」



 相手が目上の者でも、相応の態度はとってなさそうな口調。まだ聞いてない声の名前を考えると、ランスかマイトのどちらかのはずだ。



「順を追って話そう。持ち主はミリアになる。ただしこいつに銘をつけなければ、誰にでも扱えるただのおもちゃだ。そしてミリア以外は銘をつけられない。銘をつけてからは音に関する様々な能力をミリアの下で発揮することができる。」


「銘をつけることは、思ったよりかなり重要な事なんだな」


 太めの声。俺を含めてここにいる7人目で男の声。


「かなりどころじゃないぞ、ランス。精霊が宿るきっかけでもあり、契約の一つになるからな。飲食や睡眠などは必要としないが、独自に思考したり会話もできる。チームメンバーが一人加わるようなものだ。だが契約者以外の人物が使用しても、その効果はまったく出ないし精霊も無反応になることもある。」


 ランスと呼ばれたな。するとさっきの声はマイトと呼ばれた人物か。

 

「じゃああたしが倒れたりしたら誰も使えなくなるってことよね?」


「銘をつける契約をしたのちに使い手追加の契約を結べばいい。だが即時追加はあまりお勧めはしない。精霊が使い手のことを気に入らなければ能力ががた落ちになることがあるからな」


 使い手? 契約者とは違うのか?

 疑問を持ってもミスラスの説明はどんどん進む。メモもとれない俺はその流れにのるしかない。



「それはミリアにも当てはまること。だが名付け親に対して無反応になることはない。だからといってかしこまる必要もへりくだる必要もない。なぁに、仲間が増えたと思えばいい。だが人ではない。そこに持ち主としての落とし穴がある。モノ扱いするんじゃない。見下すような気持ちがあれば手痛いしっぺ返しだってある」


 

 

 説明は一区切りついたようだな。

 それにしても俺はなぜここにいるんだ?ここといっても、あいかわらずどこなのかまったくわからない。とにかく、家に帰りたい! しかし俺の家のことも思い出せない。声も出せなきゃ奴らに聞くことができない。

 


「ところで精霊って言うくらいだから、自然界に存在するものなんだよな? 調合したアイテムで無理やり力を発揮させるということか?」


「いい質問だ、トウジ。さすがリーダーだな。道具に宿す精霊はこの世界に元からいるものではない。別の世界、いわゆる異界の知的生命体で、我々と意志疎通ができる存在だ」


 

 何もできない今の俺の現状。まともな神経でいられるはずがない。


 ……なりきろう。

 俺もこのグループの一員のつもりになって聞き手専門になりきるしかねぇ。どうせ何もできねぇし、現実逃避にも使えそうだ。奴らの会話に耳を傾けるのも、そこから得た情報で何とかできるかもわからんし。

 

 にしても、持ち主? 使い手? 異界?

 耳を傾けると、頭をフル稼働してもついていけない話が展開されてる。かといって何もしないでいると退屈な上に心がどうにかなりそうなんだよ。


「だがその世界で命を維持することが不可能になり、かつ死後間もない魂を対象とする。その精霊が生存していた世界については私も詳しくは知らない。だが生きていた者がいきなり物体に変わるのだ。その環境を精霊が嫌うことも予想される。この世界を拒否されれば元の世界に戻ることになる。死を迎えることになるがな。そして精霊を宿す物体は、代わりの精霊を宿すことなく消える。今までのアイテム採集をまた0からやり直す ということだ」




「なんか、私のわがままで無理やり道具に押し込めるような感じ……。わたしだけこんなふうにしてもらっていいのかしら……」

 口ごもってる様子の女。


「気にすんなよミリア。特に急ぎの依頼とかもなかったし、暇つぶしにゃちょうどいいクエストだった。その他の貴重なアイテムも手に入れられたしよ。よーやく願いが叶えられるってんだから、ここは喜ぶとこだろ? 俺らだってそれは大歓迎だしな」



「召喚できる精霊の条件の一つは、意識していた、いないに関わらず、命を永らえたい要望を元の世界で必ず抱えていた。生きたまま召喚したら精霊にはならないし、そもそも召喚自体不可能。召喚された者はすでに肉体を失っているため、その願いを両立するのは無理だ」


 俺だって戻りてぇよ。でもできることっつったら、何か考えることだけなんだよ。いい加減この状況なんとかしろよ。

 


「死にたくない、生きていたいという願いを叶える代償として、存在していた世界からの移動、生命体から物体の命の受け入れ先の移動の二点。だが精霊にも選ぶ権利はある。ここに居続けるか願いを諦めるかの選択だ」


 筋は通ってんじゃねーか。こいつがそんなことを思いついたのか? けど死んだことを取引にするってのはどんなもんだよ。


「ただ、元の世界での人格はそのまま維持されていく。だからその物に接する上で人としての尊厳を損ねる言動をとるなら、ここを拒否する精霊の要求を叶えることに抵抗はない。たとえ依頼者から反対の意見があったとしてもな」


 ……依頼者からのその手の依頼は必ずしも叶うとは限らないわけか。依頼者サイドの立場と思ってたが、意外と中立寄りなんだな。


 にしても、死んだやつが別の世界で生まれ変わる話しというのはわかった。常識とかが通用するなら、赤ちゃんとは違って生まれた途端に互いの意思疎通ができるってことか。子育ての手間が省けて楽じゃねーか。

 


「みんなと同じように接するってことね。わかった。じゃあ名前なんだけど……」



「決める前に注意しておく。この道具はレベルアップして使い続けることができるが、融合するアイテム次第では別の道具に変わることができるし変えることもできる。望まない道具になるかもしれないし、みんなから引っ張りだこになるようなものになるかもしれん。そして使用を続けて劣化するものでもない」


 諸行無常の世の中だぜ? ずいぶん便利なモンじゃねーか。同じ道具があるなら、それ一つありゃ他は無用だよな。



「つまり、どんな道具やアイテムになってもおかしくない名前が好ましい。そして名前を呼ぶことで力を発揮する道具になることもある。長ったらしい名前だと力を発揮する前に持ち主が倒れることもある。嫌悪したくなるような名前だと愛着もわかないし愛用されることもない。努々忘れるな」



「念のため聞くけど、このままでも音は出るの? この道具その物の音も名前に取り入れたいの」

「……そういうことならよかろう。精霊は宿っているが、まだ出音に関わらないからな。試してみるがいい」



 スパン!


 乾いた音が綺麗に響く。良い音じゃないか。耳ばかりじゃなく空気の振動を体で受け止める感覚もある。

 全身で受け止める音の感覚すべてが心地よい。



「……うん、決めた! この音に似た擬音で、スタンにする」


「音にこだわっていいのか? 今後別の道具に変わることもあるんだぞ?」


「だからそれにするの。スパンって音が聞こえた。そのまま名前にすればミスラスの言う通り、ほかの道具になったら違和感があったりするかもしれない。でも始まりってとても大事。この時間を忘れずにいたいし、この音筒が別の物になったとしても、面影のようなものは残しておきたいの。だからそれにいつも繋がる名前にしたい」



「それだけ思い入れがあるなら十分だろう。こちらの準備はすでに整っている。契約を始めたら、終わるまではお前らは余計な口利くなよ」


 ミリアの声が響く。しかしなぜか自分の耳には意味のある言葉として入ってこない。例えていうなら、異国の言語による、リズム感がまったくない歌。


 その歌がしばらく続き、止まったその瞬間!




ゴガゴゴゴオォォォォォ!! ズガガガアアァァァァァァ!!




 遠くから聞こえる落雷の音がそのまま、俺のそばで炸裂するような音! この世のすべての音を遮り、それらと入れ替わるような、俺の耳の中、体の中を充満するような轟音!

 そして同時に発生した、視界が奪われた俺にすら眩しく感じる閃光!

 耐えられそうにない。しかし耐えなければならない。また気を失って、俺のことを知るチャンスを失うくらいなら、そんな衝撃なんざ屁でもねぇ!


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いつも見て頂きましてありがとうございます。
新作小説始めました。
勇者じゃないと言われて追放されたので、帰り方が見つかるまで異世界でスローライフすることにした
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