第十二話:俺は彼女に、彼女は彼女らに振り回されている
登場する主要云々
眠り姫たち:五人組編成
セイザー :女魔法使い。チームリーダー。不条理に絡んだ護衛二人を嗜め、ペナルティを科す。
ジェイカー :男剣士。リーダー護衛担当。ファイクルがミスラスに話を聞きに行く際ミリアに絡む。
シューダッド:男拳闘士。リーダー護衛担当。ミスラス工房から宿に戻ったファイクルにジェイカーとともに絡む。
ニール :女狙撃手。遊撃担当。怪しまれながらも、リーダーと共にファイクルに友好的。
スバータ :女拳闘士。男二人の監視役のため未登場。
────て、スタン。起きてってばーっ。
目が覚める。無理やり起こされるのって、やはり不愉快極まりない。
そして、眠る必要がないと言われてたはずなのに、まだ寝ぼけ眼な気がする。
間違いなく朝じゃない。間違いなく宿の部屋じゃない。
……声をかけてきたのは、もっといい気持で休ませてあげようという気がまっっったくないミリアであることを確認。
「……起こしてあげたんでしょーがっ」
術具でも人権というものを認めてもらいたいのだが、誰に訴えたらよろしいか?
「不愉快な目覚めを申し訳ありません」
そこまで言われちゃ責めようがねーじゃねーか。
「でもよかったー。成功したんでしょ?ミスラス」
「形態解除、形態再現も問題なし。文字、絵、画像、音声も再生できた。こちらの方も問題なし」
「……寝る必要がない という説明を前にされたような気がしたが?」
「トウジたちは、今日は休みの日としたようですからここでお休みになられても問題ありませんが?」
「目覚めが悪いことがある という説明がなかった」
「ですから休んでいただいてもよろしいのですが?」
「つまり休まないといけない体になったということでいいのか?」
「調合の結果ですからね。日常に戻れば元に戻りますよ」
「眠いなら添い寝してあげよっか」
……こいつは……。眠くて頭もうまく働かないってのに、冗談か本気かの区別付きにくいこと言いやがって……。
「そう言えば思い出したぞ!ミスラス、もう一件依頼だ。報酬は依頼達成後に応相談!」
「な、何か?紐の件ならもう少し後ででも……」
うろたえてやがる。大した重要でもないが、ある意味問題な部分でもある。
「俺の問題じゃねぇ。ミリアの問題だ」
「彼女が何か?」
「わたしが何か?」
「俺を掴むとき、手汗が多めな感じがする。掴まれたとき摩擦がないってのも不安だが、べったりするときがあってそれがかなりイヤだ。彼女の手汗を何とかしてくれ!」
「……スタン……」
肩を震わせている。
「薬屋さんに行く方が安上がりでしょう」
さじ投げんなや、ミスラス!
「……スタン、あんたねぇ……」
「こっちにとっては割と深刻だぞ。お前この……」
「手汗くらーーーっしゅ!」
真上からビンタ一撃!!
「て、てめええぇぇ!」
「乙女に向かって何てこと言ってんのよーーっ!」
「……ここは遊び場ではないのだが?あとは医者に相談とかすべきだと思いますよ?精霊殿」
「ぅえんぃんゅっっれいやおにあ……」
「だ・ま・り・な・さ・い」
「うごがあああああ」
「手汗言うの今後禁止!わかった?!」
「ぅああっあぁぁぁ」
「ったくもぉ!なんでこんな恥ずかしい思いしなきゃなんないのよっ」
「やれやれ、普段の調子に戻ったと思ったら……。で、これからどうするね?もうじき宿の晩ご飯の時間だが?」
「宿に帰ります。いつも通りに戻らないと」
「ところで黒装束の件はどうするね?監視役の者は定期的に様子を見に行ってるようだが、何も異常なしという報告だそうだ。そっちの警戒をすると、逆に襲撃に遭うかもしれん。私からは注意を促すことはせず、いつものように行動してもらうつもりでいるよ」
「えぇ。スタンの能力が新たに加わったので、調査はこっちで単独でできると思いますし報告もしやすくなるかと思います。今日の夕飯時にトウジたちと打ち合わせします。おそらく明日出発はないと思いますので早ければ明後日また伺うと思います」
「うん、結果を待っている。くれぐれも無茶をしないようにね」
「はい。ありがとうございました」
「やれやれ、ヘンな恥かいちゃったよっ!」
「問題ない」
「どこが!」
「ワキガはまったくないから」
「い・い・か・げ・ん・し・ろ!」
「あら?ミリアちゃん?」
後ろから呼びかけられたようだ。まずいまずい。声を出すのは控えないと。いつの間にか宿の近くの大通りに着いていた。
「あ……セイザーさん、と……」
「お久しぶり、ミリアさん」
「ニールさん……でしたっけ」
「覚えててくれたの?うれしいな」
セイザーっつったら眠り姫って言われてたやつだよな? あの絡んできた男のチーム。馴れ馴れしくね?
「これから二人で食事に行くんだけど、一緒にどう?こないだのお詫びも兼ねて」
「え……いえ、こないだの件はもう別にいいです」
「いいならじゃあ女子会にしよっか」
「え?あ、いやいいってそういう……」
逆境に強いが、順境に弱いのかこいつ。やれやれ……。食事ぐれーならいいんじゃね? 途中でおかしな雰囲気になったらてきとーに俺を使ってくれや。
「どしたの?急に腰ポンポンして」
「え……いや、ちょっと」
露骨に俺にコンタクト取るなよ。思うだけで十分なはずだろうに。そうだ、こんな俺の使い方はどうだ?
息吸い込んで、こいつの腰に向かって……ぷぅーーーー
「ひゃあああ!」
「どしたの?」
「大丈夫?」
「あ、いえ、ちょっと……」
ロープの隙間に手を入れて俺を手繰っている。よし、で俺は体にこうやって……。
「何それ?折り紙?」
「え、ちょっと、手紙っつーか、メモと言いますか……」
うろたえてるわ。良いから普通に俺を……やってみな?
「いいの?開けるよ?」そんな声が頭の中に届いてる感じ。
俺の体を広げている感触。そして俺は自分の体に……。
ミリアは俺の体を見て目で頷いたあと、音筒の形に戻す。
『黒装束は極秘情報。絶対漏らすな。それ以外は問題なかろう。何かあったら音筒で』という俺からのメッセージを受け取ってくれたようだ。
「何か書いてるの?」
「トウジからの今日のこの後の予定についてちょっと。お食事だけならゆっくりできるっぽいなって。終わったらすぐ戻んないと」
「大人の会には顔出すな、か。うん、ミリアちゃんにはまだ早いかなー」
「あはは、もうちょっと大人になってからですね」
連中の男どもと違って和やかではあるが、警戒はしとこうか。だが姫と呼ばれたこの女が連中に接する態度を思い返すと、友好的なほうかもしれんが、それでも一応な。
所有物の義務として、所有者の無事を確保しなきゃならんから、気は引き締めないとな。
「ところでスバータさんは?」
ミリアからの俺への情報共有らしい。こいつらのメンバーの最後の一人ってことか?
「あいつらのペナルティで、軟禁状態の監視。ホントにごめんね」
「絡んできたあの二人からすれば、セイザーさんたちの笑顔は気味悪い感じなんですが」
「姫ぇ、警戒されちゃったよ。あのバカ何考えてるやらっ」
同時にため息が聞こえる。姫と呼ばれた女からだな。
「ミリアちゃん。なんかねぇ、ミリアちゃんかファイクルかわかんないけど、評判が分かれつつあるのよね」
「最近私も気づきました。呪いかかってるっぽいんですよ」
「何それ?初耳よ?ていうか、最近気づいたの?」
「それはちょっと……あまりに鈍すぎないかなぁ……」
苦笑いっぽい声。メンバーだって気づかなかったくらいだからな。
「呪いってどんなの?聞かせてほしいな」
まぁそれくらいなら問題ないか。この町の関係者にははっきり認識してもらうほうがメリットが大きい。
「私に安住の地を与えない だそうです。両親の件がらみで」
「あぁ……そういうことか……。大変だったもんね。あ、この店だ。入ろ入ろー」
「おー」
「な、なるべくお手柔らかに……」
スタンがどんどん有能になっていく・・・




