表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

短編

封じられた女神と解呪のオトメ

作者: 霧島躑躅


 死んだと思ったら爆誕した。しかも異世界に。

 日本の商社でバリバリ働いていた彼氏いない歴=年齢の喪女だった私。三十歳越えた辺りまではわりかし切羽詰まっていたけれど、誰が相手でも友達以上に発展することはなかったのだ。


 まあ、家庭の事情で護身術習っててそこでついでにストレス発散したり、有名大学入学直後家族の反対を押し切って二年間休学して海外をバックパッカーでぶらり独り旅したり、稼いだ金つぎ込んで趣味に全力投入したりと、お一人様人生かなり楽しんだから別にいいのだが。

 それにアラフォーになる頃には色々突き抜けてて、まあ自由だし楽しいしもういっかぁ~、みたいに気ままに生きていた。


 ちなみに死因は不明。

 でも多分、数年前に買ったマンションで死んだんだろう。記憶はマイホームでくつろいでいた辺りで途切れている。クソぅ、死ぬと分かってたら貯金、別の使い方したのに!


 ん、まあ、過ぎたことは仕方ない。

 何故かは知らないが、前世の記憶を持ち越して生まれ変わったらしいし、この優越を有効利用して後悔の少ない人生を楽しんだらぁ!

 会社がちょっぴり気になったけど、出社しないことに不審を感じた同僚が私の死体を見つけてくれるだろうし、後のことだって、私の遺品の中からデスクの鍵とかパソの暗証番号とか発見したらどうにか出来る能力はある。

 私は私で新しい人生に全力掛けるぜ!



 …………なぁんて、気楽に考えていたのは生後数日のみ。

 私の容姿がはっきりしてくると――とどのつまりは猿から人間に近づいてくると、周りの落胆したような反応に何やら悟らざるを得なかった。

 あ~、簡潔に言うと、私は大層ぶちゃいく、らしい。

 し、仕方ないよね! こういうのは運だし。そうそう、見た目なんて関係ない! 君の性格に惚れた! って人に出会えれば今度こそハッピィな家庭を築ける、はず!

 とか夢想しながら、どうにかこうにか自力で鏡を見れる年齢になり――。


「あ、あれっ?」


 私は首を傾げた。


「私、美少女じゃーん!」


 左右線対象になるように繊細に配置された形のいい目や鼻や唇。白磁の肌にサファイアの瞳、黄金を溶かしたような金髪を縦ロールに整えたビスクドールのような美少女。それが私。なのに皆は私をぶちゃいくと呼ぶ。ぶちゃいくでも可愛いよ! 我が家のお姫様だよ! 結婚なんてしなくていいよ、家で一生健やかに過ごしなさい。

 ちょ、愛娘を優しい言葉で追い詰めんなぁ(涙)!


「こんなにぶちゃいくでは嫁の貰い手がいないかもしれません。可哀想に……。美人に産んであげられなくてごめんなさいねぇ」


 涙目で私の将来を哀れむ母。豚さんみたいな容姿の貴女こそ私から見れば可哀想なぶちゃいくですよ!

 父はたゆんと肉襦袢を揺らして笑う。


「馬の骨に可愛い娘を奪われずに済むな! 母に似た美人に生まれずよかったよかった!」


 私視点で母の容姿は豚さんと瓜二つ。うん、似なくてよかった…ね。

 それから三つ年上の兄(賢い)がぷんすか父を叱る。


「父上、デリカシーが足りません。僕の可愛い妹を追いつめるような真似はやめてください!」


 言ってることは同意するが、兄よ。ぷるんぷるんと頬の肉が揺れる貴方も将来はきっと豚。齢五にして既にヤバいくらいのメタボ感。痩せろ。


 ……ていうか。え?

 エ、ドウナッテルノ?

 ついカタコトになっちまいました。

 つまりこの世界は、


「美醜反転世界?」


 だとしか思えない。

 前世の私の美意識でぶちゃいくが絶世の美人で、絶世の美人が二目と見れないぶちゃいく。

 ……詰んだ。

 お一人様人生リトライ?

 い、いやいやいや! 中にはきっとまともな美意識の美男子がいるはず!



 そんな夢を見ました。すぐに現実を思い知りました。



「うわぁ、すげぇぶちゃいく!」

「気持ち悪いこっち見んな!」

「いやぁぁあ! おかあしゃまぁぁぁ! あの子気持ち悪いぃぃっ」



 心ガ、折レタ。


 すぐに屋敷に引きこもりました。

 あ、美醜関連より優先度が低かったので言わなかったけど、我が家は子爵という下級貴族の、富豪。富豪。これ大事。

 爵位は低いけど金はある。

 だから私を生涯養える。

 ぶちゃいく(私のことさ! けっ)を可愛がれる心の余裕もある。


「お兄さま、私、お兄さまに寄生してもいいですか? 内政はお手伝いしますから引きこもりたい。切実に!」

「勿論いいとも!」



 そんな会話をしたはずなのに!

 年頃になった私に、縁談が降りかかり……兄の裏切りによって強制見合い開始。どうやら兄の友人の美男らしい。

 美男……びなん?

 ぶっっちゃいくじゃんかぁぁぁ!


「ぐふ、ぐふふ。君のようなぶちゃいく、何処にも嫁に行けないだろう? 俺の第八妾にならないかい?」

「なりません気持ち悪い!!」


 追い返したら兄にしこたま怒られた。

 裏切りの兄、お前は敵だ!


「あんな美男の何が不満なんだい? 第八妾が嫌なのかい? でも君のようなぶちゃいくが一桁の妾になれるなんて奇跡みたいなことなんだよ?」

「お兄様は私が嫌いなのね! あんな色魔に嫁がせて平気だなんて! あんなのの妾になるくらいなら一生独身の方がずっとずっとマシよぉぉぉ!!」


 ガチ泣きした私に何を感じたのか、兄平謝り。


「君のためになると思ったんだ。ごめん、ごめんよ」

「おにいじゃまぁぁぁ」

「う゛っ……」


 てめ、今マジでどん引きやがったな? 美少女の可憐な泣き顔……が、兄にはぶちゃいくが顔をぐしゃぐしゃにしているようにしか見えない。なんて悲劇!

 あ、でもすぐに思い直したのか、私をぎゅっと抱きしめてくれた。たゆんたゆんの肉襦袢に正直私の方がどん引きだった。絹の服が汗でしっとり気持ち悪かったです。



 けれど、話はまだ終わらなかった。

 クソキモ色魔野郎が、しつこく私を妾にと望んできたのだ。

 まさかブス専? と思ったが、それ以上に相応しい疑惑に思い至った。


「ずばり貴方は転生者!!」


 しかないよねぇ?

 美醜がまとも……ってか、前世のまま。

 で、ぶちゃいくに生まれ変わって、この世界では美男ともてはやされた。更にはこの世界でのぶちゃいく=前世の美意識での美人を妾に迎えまくってハーレム。

 ……わ、わかりやすい!

 ってか他に考えつかない! 私だってその立場だったら逆ハーやる――げふん! り、倫理的? 道徳的? に、やる前で立ち止まると思うけどね、私は! 嘘じゃないよ! やらないよ! ………………多分。うん。

 で、疑惑を持ったら確かめたくなった。

 ので、チョクで訊いてみた。


「な、なななな何でわかった!?」

「わからいでか! この世界でのぶちゃいくハーレム築いてたら、私と同じ美意識だって疑うに決まってんだろキモ男!」


 そうして分かったのは、キモ男以外にも記憶持ち転生者がちらほらいるということ。

 男女問わず。キモ男にわかってる全員がぶちゃいく容姿で生まれたそうだ。なんとなぁく、この世界のぶちゃいくを集めてハーレム作ってる輩の様子を窺えば、どうやら自分と同じ転生者らしい。ならば転生者のコミュニティ作って元の世界の料理とか文化とか再現して優雅に生きようぜ! と裏で繋がるように……。


 ええと、つまり、そのコミュニティに属する転生者たちの共通点として、自分はぶちゃいく(この世界での美人)に生まれ変わり、しかし周りの認識を利用して美人(この世界でのぶちゃいく)をたくさん囲ってハーレム・逆ハーレムを作ってウッハウハ。せっかく転生者仲間出来たんだから懐かしの日本食研究しよう、と同じ目的、同じ趣味(ハーレム作り)で仲良しになったそうな。


 この国のみならず多くの国々で一夫多妻、一妻多夫が許されているのもそれを助長した。

 何この世界!

 日本からの転生者(ぶちゃいく限定)に優しすぎる!

 そしてせっかく美少女に生まれた私に厳しい! 泣くぞクルァァ!!


「あ~あ、君の容姿は超絶好みだったのになぁ」

「だろうな! 私でも鏡見る度にヤヴァイ何この美少女! って見とれてるからね!」

「ドNかい!」


 そんなこんなで、私からは手を引いたキモ男。

 ホッとしました。




 それから、私は歴史を調べーの、宗教を調べーの、ぶちゃいくの記録を調べーの、とアレコレ調べてみた。主に過去――転生者の痕跡を。

 そして、見つけた。

 見つけてしまった。

 普通~に美男美女こそがこの世の正義だった頃を!!


 あったのだ、およそ千年前。

 日本で言うなら、平安時代の貴族の美の条件が下膨れだったらしい、とかロン毛こそ美の極致! みたいな、そんな感じで発見した。

 とある国のとあるぶちゃいく王子がぶちゃいくと蔑まれて育った果てに単身旅に出て、美女(現代のぶちゃいく)を何人も引き連れて帰ってきた辺りから歴史上の王族のツラと伴侶がおかしくなった。

 それまでは美男美女の連続だったのに、突然変異で爆誕した黒髪黒瞳のぶちゃいく王子がいきなり王位に就いた後から、世界規模でどの国家も美意識が反転したのだ。

 ぶちゃいく王子より前の時代の記録では、ぶちゃいく王子をぶちゃいくとはっきり記してあるのに、ぶちゃいく王子が即位した後は美しい王と大絶賛。その上、ぶちゃいくな女性たちを複数妃に迎えた、見た目で人を判断しない御仁とか何とかいい感じに持ち上げられてらぁ。

 何かもう、記録残した人、いきなり心を病んだとしか思えない! その変化を疑問視する様子も全くないなんて……怖ぁ。

 こりゃあ、アレですかね。

 異世界チート転生? 旅立った先で何かの常識改変の力でも手に入れたんだろうか?





 私は実家の有り余る資産を利用して、件のぶちゃいく王子の旅路を辿ることにした。旅路、ていうか、帰路? の記録は点々と残っていたのだ。行きの記録は皆無なのに、帰りに寄った場所では大歓待を受けている。それを辿れば、ぶちゃいく王子の目的地が分かるかもしれない。

 この世界の美醜反転の原因がそこにありそうな予感がしたからだ。


 何故か――無性に行かなければならない気持ちに駆られた。


 それだけでなく、家に居てもこの容姿では社交関係も歓迎されないし女が内政にかかわるのは非常識だからとやんわり拒否られて(子供時代のあの約束は微笑ましい兄妹愛と受け取られたらしい)やることないし、また裏切り兄がひょっこり再発したら逃げられなくなるかもと恐れたからでもある。

 見合いしたキモ男は我が家と同格の子爵家だったからどうにかなったけど、伯爵家以上の場合逆らえない。私はこれでも家族を好きなのだ。愛しているとまでは言わない。前世の記憶のままに多少ひねくれている私に、家族愛を恥じらいもなく叫ぶのはハードルが高いのである。

 ただ、我が儘を通して家族の害になるくらいなら我慢して転生ハーレム野郎だかブス専ハーレム野郎だかの妾になる。が、本音を言うならなりたくない。マジ勘弁してください。


 まあ、そんなわけで旅立った。護衛付きの安全な旅――のはずだった。




 国を出て間もなく、護衛たちが我が儘ぶちゃいく令嬢のお守りなんてしてられっかよ! と親からたんまり貰った金銭を奪って私を放置、スタコラサッサと逃げ出しやがったのだ。

 だがしかしこの私――見た目は少女、頭脳はオバチャン。

 念のために身体のそこかしこに隠しておいた金で宿を取り、そこから実家に手紙で一部始終を連絡、すぐに返ってきた返信には護衛だった奴らはあらゆる手段を使って社会的肉体的に始末してやるからすぐに帰ってきなさい! と走り書きがあった。旅立つまでも長い闘いがあったのだ、こんなことになったからには家族が私に帰還を望むことは分かり切ったことだった。

 私も一度帰ろうかな、と頭をよぎったのだ。

 でも、何故か。

 何故か、そうはしなかった。

 私は追加の金を無心して旅を続けることを強固に主張。次は手紙ではなく、我が家に仕える従僕が私を迎えに来た。

 私と家族の意志は平行線を辿り、とうとう私は諦めて――。


 金を稼ぎながら旅をすることにした。


 いやぁ、最初からそうしとけばよかったんだけどねぇ。

 でも実家金持ちなんだし、使ってもいいじゃんか、と甘えた結果です。

 従僕の目を盗んで単身宿を抜け出して旅を続けた為、こちらから手紙を送ることは出来てもあちらから私に手紙を送ることは難しく、止める手だても失われたようだった。

 前にも言ったが、私は家族を好きなため、必要以上に心配を掛けたくはなかった。なのに旅をやめることだけは考えられなかった。この辺りでおかしいと気づくべきだったのかもしれない。

 でも、自由気ままに旅をするのが楽しくなり、見る物聞く物にはしゃいでいる内に浮かび掛けた疑問は湯気のようにふわっと消えていった。

 それだけでなく、持ち前の負けん気ですでに意地にもなっていたし――上から押しつけるようにやめろと言われると逆らいたくなるアレだ――、美醜反転の原因が転生者の仕業なら正してやりたいと――正義感ではなく、単なる腹立ちと不快感からそう決意したのだ。


 ただ、チートなど皆無の女の一人旅である。

 長い、長い時間が必要だった。

 野を越え山越え海を渡り砂漠を歩き続け、十数年。気づけば、前世の死んだ年齢に達していた。

 ま、まあ、時間がかかったのは時折「私何してんだろ……」っていきなり我に返って定住じみたことした、ってのもあるし、寄り道して温泉でのんびり英気を養ったりお祭り目当てにルートを外れたこともある。楽しかったんです。

 家族には一方的に手紙や腐らない現地土産を送り、定住じみたことをした時だけはあちらからの手紙を受け取れた。曰く、気が済むまでやりたいようにやりなさい。ただし必ず帰ってきなさい、と。

 いい親である。私的美意識ではぶちゃいくだが。心配かけていることが凄く申し訳なくなった。


 ……美醜反転の原因がわかったとして、私はどうするんだろう?

 いや、正しい形があって元に戻せるなら戻したい物だが。だってやっぱりこの世界おかしいし! 転生者に都合よすぎるし!

 で。その時、我が家族はぶちゃいくな自分たちを認識して何をどう思うのだろうか。

 美意識を今と変えた私は、そうと知られた時に彼らに憎まれ嫌われてしまうのだろうか。


 ――なぁんてぐだぐだ考えもしたし立ち止まりもしたけど、私は何かに突き動かされるように旅を続けた。


 ……何かに、導かれるように。


 そうして旅路の果てに私は知ることになる。

 その理由を。





 旅立ってから二十数年後。

 私は砂漠のオアシス跡地に立っていた。

 そこに、ソレはあった。

 朽ちた神殿。枯れたオアシス。

 空っぽの『元』聖域。


 辺りを調べていると、どこからか声が聞こえてきた。


『よくぞ、ここまで至りましたね、我が巫女よ』


 巫女なんてけったいな生き物になった覚えはございませぬ。

 だが、その声は私に穏やかに語りかけてきた。一方的に。


『私こそ、この世界の女神。世界の仕組みに疑問を持ち、それを打開しうる意志の強さを持つ者の無意識に働きかけ、ここまで導いたのです!』


 マ、マジでか!

 つまり、私は本来屋敷でぐうたらしていてもよかったのに何故かやる気に満ちて女捨てて二十年以上も旅を続けたのは、全部貴様の仕業だったのか!!


『半分くらいは貴女の性格と趣味と意志ですが。――さあ、古の転生王子の呪いを解いて私を封印から解放してください! そうすれば世界は正しい姿に戻るでしょう!』


 え~、どーしよっかなぁ。

 半分が私の意志だっつーのはなんとなく理解できた。屋敷で無為に過ごすよりは旅してた時の方が楽しかったし。

 でもなぁ、やっぱりぶちゃいくな親兄弟まで不幸にするのはなあ。私、とっくに嫁き遅れ越えてるしぃ。

 今更美醜反転が戻っても良いこと無いしぃ。この年齢じゃあ、もはや嫁き遅れとかのレベルじゃないしぃ。

 ゴールにたどり着いた辺りで何かスッキリしちゃったしぃ。あ、コレって女神の元にたどり着いたから意識操作から解放されたってこと?

 うぅぅん、もう帰ろうかなぁ。前に手紙で知った兄の子供たち……甥っ子姪っ子に会いたいし。そんで領地のどっかに土地と家貰って平民に混じって働いてお一人様人生送ってさぁ。あ、何かいいかも。


 そんな私の気持ちを読みとったのか、女神の声が必死さを増す。


『も、元々は、あなた方日本からの転生者が女神たる私を邪神呼ばわりして、この地を汚し呪いを打ち込んで弱体化させ私の力を奪い取り、私を封じたことから始まったのです! その責任は同じ日本からの転生者が担うべきではありませんか!』


 それ言われたらなぁ、うぅぅぅん。

 正直、その辺りに関しては私にまっっったく責任はないけど、確かにこのままってのも何か釈然としない。

 主にあの好色ハーレム野郎とか、逆ハーレム女とかがいい目を見てる辺りが!

 心の狭い私です。何だか生まれ変わってからこっち、無性に他人の幸せが許せない! 特にリア充!! あいつらぶちゃいくの癖にぃぃぃ!

 ……ああもう、しゃーない、やるかぁ。



 と、結局は女神の指示に従い、呪いとやらを解いていく。この女神が実はガチ邪神で騙されてたらどうしよう? とか考えもしたが、そのたびに女神が必死に善神ですからぁぁぁ! と言ってくるのがおもしろかった。最後あたりは確信犯的に遊んでしまいました。だって勝手に私の心を読む方が悪いんだもん! どうでもいいがアラフォーがだもんとか言うとマジきついものがありますね。いや、個人的にダメージが。


「それにしても、何でこの世界転生者多いのかなぁ?」

『そんなん私を封じたあの腐れ外道がどこぞの邪神の加護を使って私から奪った力で好き勝手世界をいじくったからに決まってるじゃないですかぁ!』


 あっ、はい、サーセン。独り言への返事あざーす!


『封じられたまま必死に力を回復させて、こちらにわたってくる異世界の魂に干渉して、比較的マシな魂に、辛うじて回復した私の力の欠片を刺し込んで前世通りの美意識の容姿になるように手を加えて世界に疑問と不満を抱いてここに来るように念じて千年余り! 長かったですよぉぅ! あの腐れ外道のせいで無理矢理歪まされたこの世界の魂に介入できないから、まだこの世界に馴染んでない魂に呼びかけ語りかけ隙をついてブスッとグサッと!』

「割と暴力的! ってか、千年頑張って私一人かぁ……惨いな!」

『ここまでたどり着いたのはね。ああ、時代も問題だったんですよねぇ。今は一番平和な時代で、女性の長旅も注意すれば可でしたけど、例えば男性転生者の短い旅でもすぐにグチャドロの死体ができあがってたんですよぅ。オマエ醜いから奴隷にしたるわって輩に襲われて、抵抗してキレた奴隷商人に容赦なくボッコボコにされて死! とかね。ああ、可哀想に……』

「何か聞き捨てならん情報が! 知らん間に命の危機だった!? いや、私だって盗賊を殺したりはしたけどさぁ!」


 それからも前世の女子会を彷彿させる(つまり愚痴と悪口まみれの)微笑ましい会話をしながらも手足を動かし続け、果たして呪いは解けた。

 同時に封印がバチンと弾け飛び――。

 溢れ出て止まないオアシスの水と共に私の前に現れたのは、極上の美女。

 ああ、これが女神……。

 くったくたに疲れ切って火照った身体に冷たい水を浴びながらこれこそが、と納得した。

 私は確かに美少女に生まれ変わったけど、比べものにならない。いや、比較するなんて馬鹿馬鹿しい。

 何せ――。


 女神、光ってますから!


 ぺかーっと全身が光った褐色の肌のグラマラス美女。しかも巨人。ま、眩しいっス! 光、抑えめでお願いしゃーす! そろそろ水も止めて、息が、ぶふぇっ!

 ちょ、おい! 心読めんだろ!? 光抑えろて! 目が、目がぁぁぁ!! 水、勢い強っ、い、息がっ息がぁっ! がぼがぼがぼっ!


 そんな心温まる女神復活後。

 私は一つの提案をしました。


「女神さんや、封印ってか千年前の転生ぶちゃいく王子の呪い? を解いてやったお礼に私の願いを叶えてくれろ」

『ああはいはい、わかってますよダイジョーブです叶えますよ~』


 これぞ以心伝心。私の望みはわかってるそうだ。


『貴女の願い通り、問答無用で一気に美醜感覚を戻すのではなく、緩やかに数年、数十年掛けて戻しましょう。混乱しないよう、時代がそう変えたという風に』


 私に対して慈愛に満ちた微笑みを浮かべる女神。うん、女神っぽかった。


 ――徐々に美醜感覚を元に戻して欲しい。

 私は色々考えた結果、そう願ったのである。

 それならば、私の両親や兄、甥姪もどうにか幸せに過ごせる……かも? その後のことまでは責任持てん。

 まだ見ぬ甥姪よ、強く生きろ。それが真の現実だ。

 大事なのは見た目だけじゃない。ハートと金もだ。ガンバ!




 そうして、復活した女神パワーで一息に帰国。国境一つ手前まで戻してもらえました。ここら辺、詳しく調べられたらかなり困るような……。何せ、国に戻るまでの複数国、出入国手続きしてないからね! 密出入国したことに……え? なってない? 女神パワーで丸っと大丈夫?

 女神は本当に女神でした。





 それから、私は二十数年ぶりに実家に帰った。

 老いた両親に泣いて迎えられ、私も泣いた。爺婆ジジババになった両親は若かりし頃のぶちゃいくが緩和されて普通に小太りのしわしわ爺婆だった。何か可愛かった。

 兄は泣かなかったが、兄嫁と甥姪の手前いいかっこをしたかったのだろう。だって目が潤んでたから。ちなみに兄嫁は可もなく不可もない、前世でも今世でも普通顔と呼ばれるタイプだった。穏やかな普通の人である。甥姪の容姿が母親似なのは不幸中の幸いだね?


 感動の再会後は予定通り、領地の一角に土地と家を貰って一人暮らしを始めた。なんだかやっと落ち着いた気分だった。両親と兄は旅に出ないでくれるなら! とお願いを聞いてくれた。女神の導きなんて意識操作があったとはいえ、嬉々として旅を楽しんだのは私自身である。心配をかけたと反省。残りの人生は家族孝行に勤しみます、ハイ。


 平民のオバチャンの振りして町で働きつつも兄からお小遣いをたんまり貰う。断りはしない。ないよりある方がいいからだ!

 その金で変態につきまとわれる美人たち(美意識回復中)を保護したり、美醜反転が徐々にまともになるに従って増えたぶちゃいく孤児を保護したり。


 徐々に正しい美意識を取り戻した美人たちは、何やらもやもやした不快感によって自分たちを囲っていたぶちゃいくと決別していく。

 新たな人生を、あるいは余生を生き直したそうな。

 ふはは、ハーレム、逆ハー転生者共、ざまあ!


 いい事したぜ、なんて言わないが、すっきりはした。孤児とかの問題が出てきてしまって、やらかしたことに後悔もなくはないが、まあ仕方なかったんだと自分を擁護。

 兄夫妻が仲睦まじいままだったのには、本気で安堵した。ハートと金で繋がってるんだね! なんちて。



 で。それからも色々やってたらあっという間に六十歳を越えていた。

 両親も兄夫妻も見送り、甥姪は結婚する頃には普通の美意識を取り戻して――あるいは育て直して――普通に普通顔と結婚した。甥姪の孫たちとかとも会ったが普通顔だった。当時は美人と誉れ高かった兄の遺伝子がストライキ起こしたまま働き出さないことを祈る。それにしても、甥姪世代は何か色々ギリだった。特に年齢。私が帰宅した頃にはとっくに年頃だったからなぁ……。違和感のないように徐々に美意識を戻されても、微妙に混乱はしたらしい。

そんな混乱期にあっても特別普段と変わらず我関せずだった普通顔たち。最強でした。



 私はこの世界の平均寿命をとっくに乗り越えていて、そんなある日酷く眠くて起きあがれなかった。

 あ、これ寿命だわ。

 そう悟り、まあいっか、と目を閉じる。

 私が起きてこないからと起こしにやってきた孤児たち(ぶちゃいくズ)にぐらぐら揺さぶられながら、なんだか幸せな気分になって眠りに就いた。二度寝気分だった。

 そうして私は死んだ。

 まあ、悪くない最期だったとは思う。

 前世みたいに孤独死じゃあなかったっていう一点では特にね!




***




 ――で。


 死んだと思ったら爆誕した(二度目)。

 此度の世界はステータスなるものが視れるのがデフォルトらしく、司祭様が生後間もない私のステータスを二度見。

 いや、基本スペックは普通なんスよ。

 ただねぇ……。


 解呪の聖魔女


 っていう称号がね?

 くっついてるんですよ。

 …………わけわからん!

 うぅぅん、意味はわかる。わかるんですけどね?

 解呪はあれっスよね、美醜反転の呪いを解いたってヤツ。それとも女神を封印するために使われてた呪いを解いた方かな?

 で!


 女神と美男美女からすれば、呪いを解いてくれてありがとう聖女様!


 ハーレム転生者と醜男醜女からすれば、よくも呪いを解いてくれやがったな魔女め!


 ってことですよね。

 誰も私がそうしたとは知らないはずだけど、女神が決めた、のかな? 両者の気持ちを代弁して? よくわからん。

 そ、それはまあいいんだ。

 よくないけど、この際置いておくことにする。司祭が「聖なの? 魔なの?」ってキョドった挙げ句、上に報告して何やかんや面倒な議論が権力者の大人達の間で延々繰り広げられて、私の利用価値が云々でも危険かもごにょごにょとループしてるけど今の私にはどうしようもないから置いとくの!!

 よくないのは――


 異世界のオトメ


 という、もう一つの称号。

 オトメがね? 『処女』と書いてオトメと読んでるんです。

 ……イヤァァァアアア!

 この世界の司祭には『処女』表記が自動的に『オトメ』って翻訳されてるからまだバレてないけど、日本語が判る転生者に見られたら何か終わる気がするぅぅぅ!

 しかも、異世界のオトメの下に詳細が判る隠しがあって、その説明が。


 二度の人生に置いて生涯を清らかに過ごした鋼鉄の処女に与えられた称号。合計百年の人生でたった一度の口づけさえしていない究極の処女オトメ。付与能力として、好みの異性から注目されない気配隠匿が自動的に展開される。


 ……好みの異性に展開してどうする!

 いらねえよそんな呪い! あ、解呪の聖魔女ならこの呪い解けるんじゃ……。 って、ん? ぶ、文章が増えた、だと!?


 ただしこれは呪いではなく祝福なので、解呪の聖魔女の能力ではどうしようもない(笑)。


 わっ、笑うなクソ女神ぃぃぃぃ!!

 てめ、封印解いてやった恩忘れてんじゃねえだろうなぁぁぁぁあ!?


 これがあの女神の悪戯でなければ何だというのか!

 だって、


 異世界の女神の加護


 なんて称号もあるんスよぉぉぉ!

 どうしろと!?


 更に更に、この世界。

 いや、この世界、も!

 日本からのチート転生者の置き土産があるようで……。まさか女神が神繋がりで余所の世界の神に私を紹介しくさりやがったとか!? どうにかしろってか!?

 このステータスもチート転生者が作りやがった遺物……汚物……いや遺物、だとか。

 解呪の聖魔女の称号と異世界の女神の加護の称号が、どうやら過去のチート転生者が作ったシステムから逸脱しているらしく、異教徒なんじゃ!? と疑われて命が危ない。生後間もない異教徒って何デスカ?

 とにもかくにも、とんでもない厄介な事件が我が身に降りかかりそうな予感が。


 ああ、私が普通~に幸せになれるのはいつになるのでしょう……。

 何て言うか、……滅びろ無法チート転生者!!




 この後、やはり私は転生者絡みの面倒事によって人生詰んだ状態に陥り、持ち前の負けん気と根性とチート転生者への怒りと神による勝手な導きによって云十年掛けて事態を収拾し(だってチートないんですよ! 称号あってもまともに使えやしないんですよ! ちまちまロウスペックでやるしかないっていう……)、時折思い出したように甘酸っぱいアレコレはあったものの何やかんや邪魔が入り気づいたときには売れ残り結局またもお一人様人生を全うすることになる。


 しかし、三度みたび別の世界に生まれ変わり、更に神の悪戯によって称号が増えたり強化されたりして着々と称号チート(ただしそれ以外は普通のヒト)への道を歩まされては怒りの雄叫びを上げるのだが……今の私はまだ赤ん坊。

 そんな未来は露知らず、ただただそこはかとない悪寒を感じて(便意関連では決してない。ないったらない!)遠い目をするのであった。


 で。その後も何度も何度も転生しまくった最後の最後、どこぞの神に嫁ぐのだが……そこも今の私には知る由もない。むしろ知りたくもない。後の私は転生する度に蓄積されていった称号チート能力全開で神から逃げ出すのだが勿論すぐにとっ捕まってあ~れ~な目に遭うことになる。

 人生ってままならないよね、と達観するまであと数十回の転生と数千年の時が掛かる。どんな拷問だ!

 ああもう、頑張れ私! 負けるな私! 先はまだまだ長いぞ! むしろ永いぞ!



 ちなみにこの先何度となく生まれ変わっては繰り返し強化されまくる最大の称号はオトメ関係である。

 某神が私を神の嫁に出来るくらい魂を育て上げるまで清らかさんのままで居て欲しかったそうな。フザケンナー! 鋼鉄から金剛石、果てにはオリハルコンと、わけのわからないオトメに進化していくとか何なんでしょうね? 呪いですね。


 そんな裏事情を知らない私は、リア充死ねばいいのに(泣)! と周りを妬みまくる人生を何度も何度も歩むことになる。


 ご無沙汰しております。久々に書いて投稿してみました。ので、リハビリ作品です。

 短編言う割に些か長くなっちまいました。駆け足になってしまった感があるので、読みづらかったらすみません。


 念の為、ぶちゃいく連発してるのでR15にしておきました。



 お読みくださりありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ